<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



この日、私は東京で開催される研究会の会合出席のためジェットスターで関空から成田へ向かうことになっていた。

ジェットスターを選んだのはお客さんの仕事ではなかったからだ。
研究会は私個人の仕事で交通費は全額自己負担。
またピーチではなくジェットスターを選んだのはジェットスターのほうが楽そうだったから。
ピーチの成田行きは朝7:00出発に対してジェットスターは7:40。
しかもピーチは関空駅からシャトルバスに乗らなければならない第2ターミナルに対してジェットスターは第1ターミナルの出発だった。
だからジェットスターを選んだのだ。
この差は小さくない。
早朝ということもあり自宅の最寄駅を乗る電車で2本は違いがあるので遅くて近いほうが圧倒的に楽。

しかもこの日の出張はは日帰り旅行。
泊まりにしようと宿も予約していたところ、
「どこかいいとこへ行こうとしてるんちゃうんの?」
というカミさんの妬みとも猜疑心とも言えない圧力がかかった。
しかたなく日帰りを余儀なくされたのだった。
日帰りとはいえ研究会の後は会場にほど近い本郷三丁目の居酒屋で先生たちや他の同業者との飲み会が予定されている。
だから成田はおろか羽田も最終便には間に合わず新幹線で帰ることになっている。
体力の必要な一日なのであった。

こうして私は片道7000円ちょっとのジェットスターに乗ることになった。
これも座席指定しなければ6000円台のチケットなのであった。
安い!
高速バスみたいな価格だ。

しかしLCCは安いだけあって機内エンタテイメントはまったくない。
一般エアラインのようにエンタメはあっても最近は利用することが少なくなったが、それでもあったに越したことはない。
そういうこともあって座席についた私はiPhoneにイヤホンを取り付けて音楽を聴くかビデオでも見ようと思っていた。

私はパナソニック社製のイヤホンを使ってきた。
イヤホンにはノイズキャンセリング機能がついている。
これは周囲の音をイヤホンに内蔵されたマイクが拾い、逆位相の音を出して打ち消してしまうというすぐれものだ。
昔は高級機にしか装備されていなかったが数年前からリーズナブルな機種にも搭載しているものがある。
私のような出張族には飛行機や電車で静かに過ごすことのできるノイズキャンセリング機能は必需品ではないだろうか。
私の持っていたイヤホンはそういう機能がついていてしかも日本メーカーのものだったが価格はアマゾン・ドット・コムで3000円台ということで決して高級タイプではなかった。
でも移動時に使うには十分で会社員時代から5年ほど使い続けてきた愛着のあるものだった。

しかしこの日イヤホンのプラグをiPhoneに差して耳にはめて再生ボタンを押してみたのだが音がでない。
なんじゃこれ?
iPhoneが壊れているのか。
それともイヤホンの電池が切れているのか。
たいへんなことになった、と思った。
で、確認してみるとイヤホンのバッテリー兼スイッチボタンのボックスの付け根でワイヤーが切れかけているのを見つけた。
長年の使用の果にコードが金属疲労を起こして断線していたのであった。

こういう故障は修理に出しても新しいものを買うのと同じくらい費用がかかるか、または修理できないかのいずれかである。
実はパナソニック社の製品を使うまえにパイオニア社のノイズキャンセリングイヤホンを使っていたことがある。
こちらは1年ちょっとで断線してしまうという憂き目にあってしまった。
補償期間の終了と同時に故障することは以前キャノン社製製のプリンタ・スタイルライターで経験したことがあったので良くあることかもしれない。
故障タイマーが仕掛けられているのではないかと疑ったことがあるのだが、それらしいものが発見されたことはないので未だ謎の部分ではある。
たった1年ちょっとで故障ということで少々腹を立てた私は別のメーカー、つまりパナソニック社のものを購入したのだがパナソニックらしくずば抜けて秀でていることはないけれども長持ちする製品なのであった。

それで飛行機の中での音楽鑑賞とビデオ鑑賞は諦めて外の景色でも堪能することにしたのだが問題は帰りの新幹線。
飛行機のフライト時間は55分程度だが、帰りの新幹線は2時間30分もかかる。
多分、酒も入っているので読書することは無理であろう。
こういう時は音楽か映画が必要になる。

「そうだ、秋葉原で買えばいい」
「なんでアキバなん?東京やからどこでも大きな店があって買えるやろ」
と自問自答した。

でもどのメーカーのどの機種を買うのか。
このパナソニック社の製品を買うのも色々と悩んだのだった。
価格が高すぎてもいけない。
機能が中途半端でもいけない。

ノイズキャンセリング機能はパイオニア社の方が音質が良かった。
さすがオーディオメーカーなのであった。
が、外出時に使うイヤホンなので耐久性を大切にしたい。
だからパナにしたこともある。
それと外出に持っていくということは紛失する可能性もあり高級なものはいらない。
だからできれば3000円程度で買いたい。
などということを考えていると今販売されているノイズキャンセリング機能のついたイヤホンで私の好みのものを簡単に探すのは無理ではないかとおも思えてきた。

試しに成田空港の売店と上野の家電量販店でイヤホンを物色してみたが良いものが見つからない。
だいたいノイズキャンセリング機能のものは数万円するものしか目立たないようにしている。なかなか狡い。
私の望んでいる価格のものはアマゾンでしか見つからないのだろうか。
買うのをやめようかどうしようか。
色々迷っていたが帰りの2時間30分と新大阪駅から自宅の最寄駅までの1時間30分にどうしてもイヤホンが欲しい。

そこで思い出したのが100均で売られているイヤホンなのであった。

100均でもイヤホンがあることを思い出したのだが、実際にそれを聞いたことはない。
これはある意味とっても勉強になるのではないか。
もちろん100円のイヤホンにノイズキャンセリング機能の付いたものがあるわけはない。
でも、音は聞けるわけで東京から大阪への帰阪時専用で今回限りということであれば我慢できないことはないだろう。

私はいいアイデアが浮かんだとばかりに上野駅近くの100均ショップへ行ってカナル型イヤホンを買い物求めたのであった。

帰りの新幹線。
少し飲みすぎ加減で東京駅から新幹線に乗った。
A席窓側。
でも夜なので外は見えない。
隣は関西弁を話す定年前世代のビジネスマンでかなり酔っている雰囲気だ。
金曜夜ということもあり車内はかなりの混雑。
東京駅を出発し品川を出たあたりで買ったイヤホンのパッケージを開けた。
今回限りで我慢できないことはないだろうと思いパッケージを開けて耳につけて再生ボタンを押した。

結果、新横浜に着く前にイヤホンを外して寝ようかと思った。
衝撃の音質なのであった。
さすが100円。
これだけ音割れして陰に隠った音を聴くのは久しぶりなのであった。
前回は小学校の遠足でバスに乗っていちびりの同級生がマイクに口をつけ、
「山田のアホー」
とか言っていた音質というか、懐かしの黒電話で聴くときのあの音質。
超びっくりの音質なのであった。
とても音楽を聴くのは無理。
ただ声と内容を重視として考えると落語なら大丈夫ではないかと思い桂枝雀の落語を選んで再生してみた。
我慢ができたのは列車が静岡と浜松の間を疾走しているときまでなのであった。
よく頑張った。
正常な頭なら小田原を通過する前にイヤホンを外していたことだろう。
酔っ払っていたので寝ていたから静岡まで我慢できたに違いない。

名古屋駅に停車した列車の窓からビッグカメラの看板を見ながら、
「イヤホンは選ばなあかんな〜」
とつくづく思った。
そして100均のイヤホンは捨てずに記念にとっておこう、と思わせるほど衝撃的な音質であった。
何事も経験してみないとわからないないものだ。



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