<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地



アップル社の新製品Apple Watchの発表から早くも3週間。

いつもならAppleの新製品というとワクワク気分で買う買わないにかかわらず「これ欲し!」となるのだが、今回は違った。
時間が経過して今もなお、欲しいと思わない製品Apple Watch。

腕時計を買うのならセイコーやシチズンの機能性に優れた美しい時計を私は買いたい。
正直iPhoneとの連携なんかどうでもよい。
ウルトラ警備隊の通信機みたいに相手の顔がもしかすると時計の表示面に現れたりするのかもしれないが、それも欲しくない。

「はいもしもし」

なんて腕時計に向かって話す姿を想像するだけで、シラフな場所に現れたSFコンベンションの参加者みたいでなんとなく恥ずかしい。

ということで、久々のAppleの新製品は久々の外れ製品になるかもしれない。
そんな予感に満ちあふれている春の訪れなのであった。

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来年で放送開始50周年を迎える米SFTVシリーズ「スター・トレック」。
その50周年の記念を待たずに亡くなったのがミスター・スポック演じるレナード・ニモイ。
享年83歳。
昨年末に亡くなった高倉健と同じ年齢なのであった。

私は中学生の特、スタートレックを初めて見た。
当時はスタートレックではなく「宇宙大作戦」というタイトルで放送されていた。
深夜のテレビ。
スイッチをひねり、チャンネルを8に合わせる。
深夜独特のコマーシャルが終わると14インチのブラウン管テレビに映し出されたのが流れるような星空の中を飛行してくる宇宙船エンタープライズ号。
ブリッジが映しだされ、主要な登場人物が何やら会話しているシーンでだいたいは始まるのだが、そのなかで「あっ」と印象に残ったのが耳の尖った宇宙人ミスタースポックなのであった。

あのシリーズはSFドラマというよりもどちらかというと人間ドラマが主体となっていた。
未来の世界、しかも恒星間飛行をする宇宙船で様々な惑星を訪れることにより、ディフォルメされたリアルな社会問題や政治テーマなどを描くことでその内容は、当時の他のSFシリーズとはまったく一線を画すものになっていたのだ。
今ではかなりお粗末に見えてしまう特撮でも、物語として現在でもなお見るに耐えうるクオリティを生み出しているのはまさにこの部分といえるだろう。
このシリーズの特徴は様々な肌の色の人々や異なる文化を持った人々が同じ船に乗ってミッションをこなしているところだったが、その中でもひときわ異彩を放っていたのがニモイ演じるスポックなのであった。
スポックはその個性、風貌ともにSF世界を超越した独特のリアリズムを備えていたのであった。

放送開始の1966年といえばアメリカは2年前に起こったトンキン湾事件を経てベトナム戦争の泥沼にどっぶりと浸かってしまった頃であった。
外国の紛争に首を突っ込むことが正しいのか。
イデオロギーのためにアメリカの若者の命を捧げてしまっていいのか。
アメリカの正義は本当に世界の正義なのか。
などといった、今も中東政策などで交わされる疑問が投げかけられていた。
さらにシリーズ放送中の1968年にはキング牧師が暗殺されるというショッキングな事件が発生し、番組には人種差別や思想の違いなどによる偏見への疑問提起などがなされるようになった。

あるエピソードで登場したある惑星の住人は顔の肌の色が左右が白黒のツートン。
2種類の民族が存在していてお互い殺戮を繰り返し、いがみ合っているという物語だ。
「どうして君たちは闘い続けているんだ?」
と訊ねたカーク船長に彼らは答えた。
「ヤツは右側が白色で、俺は黒だ」
たったそれだけのことで戦争に発展する。
まさに人種差別との闘いに明け暮れるアメリカという社会に対する痛烈な批判なのであった。

レギュラーのキャラクターであったミスター・スポックは、まさにそういう複雑でデリケートなアメリカ社会の1つのサンプルでもあった。

かれは純粋の宇宙人ではない。
地球人とバルカン星人の混血。
常に地球人の感情と、バルカン星人としての論理性という一種の感情に挟まれ苦悩する姿は、混血が普通であるアメリカ社会のごくありふれた、しかし重要な心の問題とリンクしていたのであった。

そのミスタースポック。
バルカン人のキャラクターを作り上げたのは、もちろん製作者や監督などであったわけだが、ニモイ自身が俳優としてスポックを演じるために生み出した様々な所作や感情表現が大きな影響を与え、今日もなお継続しているこのシリーズの1つの重要なエッセンスになっている。

俳優レナード・ニモイ。
スタートレックだけでなく、SFファンには永遠に語り継がれる俳優なのであった。

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