tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

愛は奇跡(1)

2007-01-26 19:47:52 | 日記

一息でどこまで深く潜れるかを競うフリー・ダイビング。なかでも器材を用いて急速潜降・浮上する「ノー・リミッツ」は、まさに肉体と精神の限界に挑む危険な競技だ。2003年10月12日。キューバ生まれのフランシスコ・ピピン・フェレーラスは、メキシコのカボス湾で自らの持つ162mのノー・リミッツのフリー・ダイビング記録を更新し、170mの世界記録を打ち立てた。だが、記録というものは常に破られるためにある。2006年現在、彼の記録は、オーストラリアのハーバート・ニッチによる水深183mの記録で取って変わられている。しかし、この記事でピピンの記録に注目した理由は、この水深170mの記録の陰に潜むやりきれないほどの悲しいストーリーに触れてみたいと思ったことによる。

ピピンは、現在はマイアミで暮らしており、いくつかの世界記録を認定していたダイビング団体AIDAに対抗して、フリー・ダイビング競技者の育成、および、スクバ・ダイビングの育成や指導のための独自のフリー・ダイビング組織、International Association of Freedivers (IAFD) を1997年に設立し、現在も活躍中だ。
彼は、1962年 1月18日にキューバの港町マタンサスで生まれた。幼少のころは発育が遅く、3歳半になるまで歩くことも話もできない病弱で喘息持ちの子供であった。幼い頃は魚を獲るために毎日海に潜る暮らしを送っていたという。彼は成長すると海綿(スポンジ)工場に勤めた。その後、ロブスター漁師や海老採り漁師をやったり、サルベージ船にも乗ったりもした。18歳の時、闇市場で魚を売る商売を始めた。そして、20歳の時に彼が唯一得意であるとするフリー・ダイビング(アプネア)競技と出会い、それから現在に至るまで世界のトップ・アスリートとして活躍している。1989年の水深112mの世界記録を初めとして、フリー・ダイビング記録の更新レースに挑み、2000年1月には、162mの世界記録を打ち立てる。フリー・ダイビングのノー・リミッツ種目は、映画「グラン・ブルー」でおなじみもので、海中深く伸ばしたビニールをコーティングした鋼鉄製のワイヤーに沿って、規定なしの錘(おもり)を使って潜降し、目標水深に到達したら錘にセットされたリフト・バッグやブイに自分でエアを注入し浮上するものである。ガイドロープに備え付けのマーキング(目標水深に取り付けた証明タグ)を取ってすぐに浮上することで、一呼吸で潜れる到達水深を競う。