tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-04 19:41:10 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

13.二人のカラビニエリ
ホテルの玄関ドアを押してフロントに行くと、昨日フロントをやっていた男がいた。いつ見ても同じ男なので、ひょっとしたら、このホテルのオーナー兼フロント係なのかもしれない。フロントデスクでペーパーブックに目を落としていた男は、全身血だらけでパンツ一丁のぼくの姿を見てぎょっとしたようだ。
<大丈夫か?>
と声を掛けてくる。
<OK。大丈夫。部屋をチェックアウトしたいんだけど・・・>
ぼくの返事に、フロントの男は怪訝な顔をした。
<夕べ、あなた達のグループの一人の女性が、みんな別のところに泊まることになったと言ってチェックアウトしていったが・・・>
フロントの男によると、夕べ11時頃にアヤカがフロントに来て、<食事を招待された男のところにみんな泊まることにしたので、みんなの洗面道具などの身の回りの荷物を持って行きたい。ほかの荷物は明日本人が取りに来る>と言って、いくつかの荷物を持って行ったとのこと。念のため、連絡先の電話番号のメモも置いていったらしい。部屋に通されると、ぼくは自分の荷物を確かめた。案の定、金目のものはすべて盗られている。
どういうことなのだろう。フロントの男は嘘をついているようには見えない。本気で心配してくれている様子である。<このフロントの男も、一味の仲間?> ぼくは、そう考えて、すぐに打ち消した。
このホテルは、昨日の朝、ぼくも歩いて探した。だから、このホテルに勤めるこの男が一味である可能性は低い。とすれば、アヤカが一味か?そう言えば、みんなの反対を押し切ってあの家で食事をすることを強く主張していた。とすれば、すべてがローマでアヤカと出会った時から仕組まれた罠だったのだ。ぼくらは、やつらが仕掛けたくもの巣のような罠に、能天気に絡め取られて行ったのだ。ぼくは、覚悟を決めた。ヤツらと戦ってやる。敵の正体を暴いてやる。

<実は、トラブルに巻き込まれてしまった。昨晩、あの男の家で殺人があったんだ>
ぼくは、部屋のドアのところにたたずんでいたフロントの男を振り返り、警察に連絡してくれるよう頼んだ。フロントの男は、洗面所のタオルを取ってぼくに渡すと、部屋の受話器をとりあげ警察に電話を始めた。電話の相手にイタリア語で手短に話すと、受話器を置いた。警察は早朝なのに、すぐに来てくれるらしい。
洗面所の鏡の中に、異様にやつれて青白い顔をした自分の姿が映っている。ぼくは、とりあえず、タオルを濡らして体中にこびりついた血をふき取った。手首から、まだ血がにじんできたが、フロントの男が持ってきた包帯で止血をした。手首の傷は、ざっくり骨まで行っているようで、白い肉片が覗いていた。自分の荷物をひっくり返し、残っていた衣類を身につける。そうしている内にサイレンが聞こえ、薄いモスグレーの上着に斜にかけた白いベルト濃紺に、濃紺に赤い線などが入っているズボンの制服をきた2人のカラビニエリがやってきた。腰からぶら下げた警棒を携帯している。ときどき、フロントの男の通訳の助けを借りながら、ぼくは彼等に昨晩起こったことを掻い摘んで英語で説明した。殺人(murder)ということで、話を聞いていた2人のカラビニェリに緊張が走る。話をしているうちに、警官のトランシーバーに無線がはいった。無線機に耳を傾けていた警官が言った。
「本署に来てくれ」
鼻の下に髭を生やした年配の方のカラビニェリは、ぼくの怪我を心配したものの、警察署まで来てくれと言う。警官とともに、ぼくはアルファロメオ155のパトカーの後部座席に乗り込んだ。車の性能がいいのか、単に運転が乱暴なのかわからないが、体がシートにめりこむほどの加速をつけてパトカーは走りだした。赤信号も交差点も、赤灯をまわしながら猛スピードでメッシーナの街を通り抜ける。
・・・いったい、どうなっているんだ。ぼくは不安になった。いったい、どこへ連れて行こうとしているか。ぼくの不安を知ってか、もう一人の若いカラビニェリが猫なで声で話しかけてきた。
<おまえは、イタリアへ何しに来たんだ?>
 ぼくは、放心しながら答えた。
<Trip (旅行)>
 すると、今度はこう言ってくる。
<日本のどこに住んでいるんだ?>
「・・・・」
 ぼくの不安をよそに、相手はさらに質問を重ねてくる。
<Tokyoは、ホンシュウにあるけど……他の島は何ていうんだ?>
職務質問だったのだろうか、あいまいに返事をしているうちに、パトカーは、駅前の一方通行の道をぶっ飛ばして警察署(Questura)らしき所に到着した。
パトカーを降りると、建物の中から偉そうな人が出てくる。10人近い署員が、ワイワイガヤガヤ言いながらぼくらを迎える。その中に、アヤカがいた。