tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2007-01-07 17:59:46 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

16.ベージュの下着
ぼくらは強烈な日差しの下で、メッシーナの町並みを、ぶらぶら歩いた。街角で出会った子供達は陽気でシャイで素直な子が多かった。旅をするときに一番楽しいのは土地の人に直に触れることが出来る瞬間。たとえ、言葉があまり通じなくても笑顔で心が伝わることが多い。その仲のよい姉弟はおばぁちゃんと家の外で遊んでいた。さらに通りを歩いていくと魚や野菜、肉を売っている市場(メルカート)があった。魚市場では、水揚げされたばかりのウニやマグロ、タコやイカが並び、伊勢エビやシャコはピチピチとはねていて、どれもおいしそう。じろじろ見ていると、ウニ売りのお兄さんが試食させてくれたりする。
そして、市場の近くで見つけたトラットリアに立ち寄り、巨大な餃子のようなカルツオーネと、これも伝統料理のクスクスをヨーコと二人でシェアして食べる。本来、クスクスはアラブ料理だが、アラブとの交流の要所だったシチリアでも郷土料理とされているようだ。米のように小さい山盛りパスタに魚介類のたくさん入ったスパイシーなスープがかかっている。暑さで食欲がなかったぼくは、ヨーコに無理やり食べさせられて一息つく。
ヨーコとは、いろいろな話をした。彼女には25才の婚約者がイギリスで待っていること。男は、イギリス人ではなく、日本人であること。ぼくが、たばこを吸う時に、左手で火をつけるのを見て、彼女が知り合う男の人はみんな左利きであることなどなどなど。
<彼女はいる?>
彼女の質問に、
<いつでも、片思いなんだ>
と答えるぼく。
そんな時、いつも恋を諦めるのかという彼女の問いに、酒を飲んで忘れるよと答える。彼女も失恋の経験があるらしい。グラスなみなみについだウィスキーを一気飲みして、ひどい目にあったと彼女は言った。
<こんな可愛い人を振るなんて、馬鹿な男もいるもんだ。>
ぼくは、外国に飛び出してくる前に、いろいろあったであろう彼女の人生に思いをめぐらせ、そして、その男に猛烈なジェラシーを感じていた。

彼女の前ボタンの水色のワンピース。どこかで見たことがあるような気がしていたが、それが、悪夢の中で現れたものかもしれないとぼくはふと思った。あの悪夢はいったい何を暗示しているのだろう。ひどく、気になってぼくは彼女に質問した。
「ヨーコさん。どうしても聞きたいことがあるんだけど。」
「なあに?なんでも聞いていいわよ?」
「えーと。あの・・・」
「なによ、はっきり言いなさいよ。」
「怒らないで聞いてくれる?」
「怒らないって。」
「あの、下着の色。なに?」
「え?。わたしの?」
「・・・」
「きょうはベージュよ。」
「そうか。よかった。」
「なによ。」
ぼくは安心した。ぼくがホテルで見た悪夢は、でたらめなのだ。ぼくは、正夢を見た経験などないと記憶する。悪夢のあの部屋で見た下着の色は、白だったはず。つまり、ぼくが見た夢は現実とは異なっている。だから、見た夢は予知ではないし、第一、夢で見たようなあれほどの惨事は現実には滅多に起こるはずもない。
ぼくは、なんだか安心してうれしくなった。デジャヴと予知はまったく異なる現象である。よく、飛行機に乗る前の晩に飛行機が墜落する夢を見て、搭乗を取り止めて命拾いをしたなどの話を聞くが、これは予知でありデジャヴとは異なる。予知は、科学的に説明がまったくできないオカルトの世界の話である。
一方、たとえば生まれて初めて入った部屋で、過去に来たことがあると感じるそれでは、その隣の部屋を様子を知ることは無い。現象の説明はともかく、予知とデジャヴは、その感受のメカニズムがまったく異なる。