tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

悪魔のいた超高速サーキット(6)

2007-01-15 19:54:40 | bad news
6周目からセナの乗るFW16は、リヤのライド・ハイト(ロード・クリアランス)がかなり落ちて大きくボトミングを起こすようになっていたとセナの後ろを走っていたシューマッハは語っている。
そして、運命の7周目に入った。
セナとシューマッハは、超高速・左コーナー「タンブレロ」に向かっていく。トップのセナは、マシンを5速から6速へとシフト・アップし、クローネンブルグの看板の前を時速309kmのスピードで通り過ぎた。この取り立てて難しいコーナーとは言えないタンブレロは、タイトで狭いコーナーではあるがコーナーの入り口から出口まで加速して通過していくポイントである。そして、コーナーへ進入してバンプに乗り上げた直後、ステアリングの不調でセナのマシンはコントロール不能になった。この時、FW16に搭載されたテレメトリーのメモリーは、明らかにレギュレーションに違反するパワー・ステアリングがこのマシンに装備されており、その油圧に異常があることを記録している。セナはこの瞬間にマシンの異常に気づいていた。セナのオン・ボード・カメラは、彼が頭を左に傾けて懸命にステアリングを切ろうとしている姿を克明にとらえている。
セナはコントロールを取り戻そうとアクセル開度を50%減少させた。しかし、FW16はすでにコントロール不可能な状況だった。セナはアクセルを完全にオフにしてフル・ブレーキングし、できるだけ鋭角にコンクリート・ウォールへ激突させようと必死でステアリングを回した。マシンのスピンをさせようとしたのだ。しかし、ステアリング・シャフトが破損しているために操作が不能であり、セナのマシンはそのまま直進する形でラン・オフ・エリアを越え、まるで引き寄せられるようにしてコースすぐ右脇のコンクリート・ウォールに激突した。セナの後方2番手につけていたシューマッハのオン・ボード・カメラには、セナがレコード・ラインからはずれ、コンクリート・ウォールに一直線に向かっていく様子がはっきりと映し出されている。セナはステアリングの異常を感じてから激突するまでの1.8秒の間に、211kmまで減速していた。この時のブレーキングの力、減速度は4.3G(Gravity=重力加速度)であったと言われる。ジェット旅客機が離陸する際の加速でさえ0.3Gである。かなりのGがセナを襲ったことになる。
F1マシンが300km/hで走行している時に、いきなりアクセルを戻すと1Gの急減速が起こる。普通の乗用車でどんなに激しい運転をし、胸にシートベルトの跡がついてしまいそうなほど思い切ってブレーキを踏んで急減速をしても、1Gを越えることはない。F1マシンのブレーキには軽量で高強度のカーボン繊維強化カーボンの複合材料が用いられており、ブレーキングで発生する高温の摩擦熱に耐えられる設計となっている。