tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

ネジリンボウ(2)

2008-11-27 22:12:38 | プチ放浪 海沿い編

 

ダテハゼ属の一種スジハゼ、イトヒキハゼ、ネジリンボウなど、砂泥底に生息するハゼは、幼魚期は群れていて、適当な穴で暮らしているのだが、成魚になるとテッポウエビ類の巣穴に同居し、共生する。テッポウエビが巣穴の改修と拡張を行い、ハゼは外敵が接近した時に視力の悪いテッポウエビ類に代わって外敵をいち早く発見し、共に巣穴に逃げ込むのだ。
この2者の共生関係は、そんなもんかなあという印象だろうが、実は、現実の世界はもっと複雑だ。なんと、このハゼ達とテッポウエビの巣穴に、さらに同居するハゼがいる。それがメタリックブルーの美しい体色で糸状に尾鰭が伸長し、水の中で見ると“青”が揺らめいているように見えるハナハゼ。伊豆のハナハゼは尾びれの軟条が4~5本あるのが特徴。

三者共生という珍しい生活形態。どんな感じなんだろう。人間に例えて言うのなら、犬と猫と同居している感じなのだろうか。
遠くをうろつき回る人間が、家の外で危険を感じて大急ぎで帰宅。犬も、家の中に避難。家を守っていた猫と三者で穴ゴモリ。
・・・・・・猫は家作りをしないから違うか
三者共生の中でのハナハゼの役割は、通常は中層に浮かんでいて、一番先に外敵を察知して巣穴に逃げ込み、ネジリンボウなどの共生中のハゼとテッポウエビに危険をいち早く教えることだ。しかし、テッポウエビにとって、警戒係のハゼが2種も本当に必要なのかは、少々疑問が残るところなのだが。それにしても、よくもまぁ、テッポウエビの掘る小さな穴に、3種類もの生き物が、しかも、体の大きなペアのハナハゼが入れるなあと感心せざるを得ない。一生、ひたすら穴を掘り続けるテッポウエビがペアになれば、3世帯、6匹の同居住宅となる。なんか・・・・・・すげえ。
ネジリンボウの写真をとる場合、接近すると中層にいるハナハゼがいち早く巣穴に逃げ込み、ネジリンボウがそれに続く。だから、写真を撮るときは時間をかけてゆっくり寄るのが基本だ。まずはほふく前進の練習。次に殺気を消す練習、さらに息を止める練習が必要。
殺気を消すためには、目と目が合うのを動物は怖がるから、被写体を凝視しないことが肝心だ。マスクのレンズに、「これは目ではありません」と書いておくのもひとつの方法だと思う。3種の生き物をワンフレームの収めることができれば、かなりの達人と言って間違いないだろう。


人気ブログランキングへ参加しています。
気に入った写真や記事がありましたら応援のクリックよろしくお願いします。


ネジリンボウ(1)

2008-11-26 20:34:03 | プチ放浪 海沿い編

 

海底にキレイに砂紋が生じている砂地の上を、しばらく泳いで行ったときのことだ。
水の中で、木の枝らしきものが砂地に立っているのが見えた。明らかに不自然で、人為的に砂に木の枝を突き刺したものとしか考えられない。
なんだろうと思って、近寄ろうとしていたら、すぐ横にいたインストラクターに即座に後ろに引き戻されて、頭を引っ込められさせた。
イントラの示すスレートを見ると、
「ネジリンボウがいた!」の文字。
しかし、前方の砂地を確認するも、それらしきものは見えない。視界が5m程度だったのだが、それよりも遠い先にいるのだろうか?
イントラの右側で頭を押さえられていたぼくは、イントラの後ろを通って左側に回りこみ、彼の防御網をかいくぐった。ほふく前進の体勢を取って、砂地の一点を取り囲もうとする他のゲストたちの輪に入る。ジリジリと輪を縮めていくゲストたち。
それでもなお、どこにネジリンボウがいるかわからずに、ダメもとで、輪の中心に向かって何枚かカメラのシャッターを切りながらほふく前進を進める。
ようやく、砂地のくぼみにネジリンボウが視認できた時、距離にして1m程度だったのだが、かのネジリンボウは喰われると思ったのか、巣穴に引っ込んでしまった。砂に木の枝を突き刺していたのは、ネジリンボウがいる場所を示す目印だったのだ。

ハゼ科ネジリンボウ属は日本に4種分布している。ネジリンボウ、ヒレナガネジリンボウ、ヤシャハゼ、キツネメネジリンボウだ。
色がキレイ、仕草がカワイイ、名前がオカシイと、3拍子揃っていてダイバーに大人気。ネジリンボウのボディの黒いラインは、名前のようにねじれているわけではなく、いくつかの黒い斜めの輪になっている。そして、飛び出した目玉と黄色い頭が特徴だ。
まわりに敵がなければ、活発に巣穴から体を出して捕食しながらホバリングする。この巣穴にはテッポウエビ系のエビが共生している。
ネジリンボウの大家となるテッポウエビは、コトブキテッポウエビという種類。このエビも、ネットや雑誌での露出度が高い人気者だが、いつも穴にこもっているので、生の姿を見るのはなかなか難しい。
テッポウエビは、ひたすら巣穴の改修と拡張を行い、ハゼは外敵が接近した時に視力の悪いテッポウエビ類に代わって外敵をいち早く発見し、テッポウエビに知らせて共に巣穴にもぐりこむ。こうして、家を供給してもらうかわりに、ネジリンボウは外敵を知らせる仕事を請け負っている。


人気ブログランキングへ参加しています。
気に入った写真や記事がありましたら応援のクリックよろしくお願いします。


雲見 ハンマーヘッドロック(4)

2008-11-25 20:32:11 | プチ放浪 海沿い編

 
 

先のダイビングで、2人の常連客と下田ダイバーズからの帰りの電車で一緒になった。3連休の最後の日。一緒になった3人とも、前の晩に帰宅するつもりでいて、下田ダイバーズのあまりの居心地のよさに、あるいは、夜の飲み会の誘惑に打ち勝てず、翌朝帰りとなったメンバーたちだった。
さて、その酔っ払いのご3名さま。伊豆急下田から熱海までの道中、ダイビング談義で話がはずんだのだが、雲見ダイバーにほとんど共通するのは、”サメ好き”という点であるかもしれない。
外資系銀行員の彼に、視界の悪い海で目の前に急にハンマーヘッドに出会ったらどうするか聞いてみたのだが、
「頭を抱きしめて頬擦りする」とのこと。また、前日のダイビングでぼくのバディを勤めてくれた女性も、ウンウンと目を輝かせて同意する。・・・・・・なんというやつら。絶句するしかない。

さて、このハンマーヘッドの頭の形。なぜ、あのような形になったかについては、両目が大きく横に張り出していることにより、ふつうのサメよりも広い視界を見ることができ、エサを探すのに有利だからと考えられている。
両目を離れた位置に持っていくことで、左右の目とターゲットを結ぶ線の角度が広くなり、この結果、ターゲットまでの距離を把握するのも正確性が増すだろう。ただし、欠点としては、F1フォーミュラカーのスタビライザーのように張り出した頭部の両脇に目が付いている関係で、至近距離のターゲットは死角になりやすいことがあげられる。
神子元のダイバーがハンマーダッシュする場合、ハンマーヘッドの前方から近寄ると、ハンマーは逃げていくというから、それでもある程度の前方視界はあるようだ。
前方の近距離のターゲットに対しては、サメやエイ独特の器官であるロレンチーニ瓶でカバーするようだ。このロレンチーニ瓶とは、ハンマーの頭部腹側表面にある小さな穴(鼻)にある器官で、この小さな穴の奥はその名の通り瓶状になっており、ゼラチン状の物質で満たされている。サメは、この器官で温度変化、機械的刺激、塩分変化ばかりでなく、更に、微弱な電場・磁場の変化を感知出来る事ができる。動物は体内に微弱な電流が流れ周囲に磁場が出来るのだが、サメはロレンチーニ瓶によってその僅かな磁場を感じる事ができるのだ。特に、この器官が発達しているシュモクザメは、この器官を使って砂の中に潜っているエイなどを見つけて捕食するらしい。

もうひとつ、目が離れている利点として挙げられるのは、口からはみ出したエイのしっぽの毒トゲで目を傷つけるリスクを避けることができること。と考えるのだがどうだろうか。
一般に、メジロザメの仲間は目に瞬膜(しゅんまく)とよばれる、白いまぶたのようなものを持っており、この瞬膜は、サメが獲物を攻撃する時に、相手の鉤爪などで目をやられないように、閉じて保護する機能をもっている。メジロザメのメジロは、釣り上げられたときに目が白く見えるこの瞬膜から来ている。エイを好物とするシュモクザメにとって、エイのしっぽの毒トゲは大きな障害であったと考えられるのだがどうだろう。


人気ブログランキングへ参加しています。
気に入った写真や記事がありましたら応援のクリックよろしくお願いします。


雲見 ハンマーヘッドロック(3)

2008-11-24 18:57:39 | プチ放浪 海沿い編

 
 

海で出会う魚たちは、群れを形成していることが多い。魚も種類により、編隊を組んで一斉に泳ぐ方向を変えるもの、ただ何となく集まってのんびりと泳いでいるものなど、それぞれで雰囲気が異なっている。
魚の群れでいつも感動させられるのはイワシの群れだ。大きな群れになると何万尾もが雲のように一団となって泳いでいる。そして、右に左にと完璧に統率の取れた動きを見せてくれる。群れの中に分け入ってみると一時的に乱れを生じはするが、すぐにもとの編隊にもどる。まるで、一匹のリーダーに率いられているようだ。あたかも群れそのものが一つの巨大な生きもののようにすら見えてくる。

スカシテンジクやギンガメアジなどといった視覚がすぐれている魚たちは、わずかな方向転換をしても銀色の体に反射する光の量が大きく変化するため、群れの方向定位がとりやすい。加えて、硬骨魚類には体側に側線があり、この側線で水のわずかな振動を感じて、互いにぶつかり合うことなく、群れの方向を転換することができる。ただし、カメラのフラッシュなどで魚がびっくりするとパニックになって、ダイバーにさえぶつかってくるらしい。

魚が群れで泳いでいる理由について、(1)群れることで存在を大きく見せ、外敵を威嚇するため、(2)数多くいるから、少々食べられても群全体として問題ないから、(3)繁殖の際に異性を捜す手間が省けるため、(4)回遊する魚では海の中で迷いにくいから、(5)1匹の危険信号を他の魚にすぐに伝えられるからなどが考えられるが、どれが本質的な理由なのだろうか。
とくに、成体のハンマーヘッドが群れているのは、集団で狩をするわけでもないから、エサを探すには不利なような気がするのだが、どうなのだろう。

ではなぜハンマーヘッドが群れるのか?そのひとつの答えとして、「群」で泳ぐことにより(単体よりも)、水の抵抗を小さくすることができ、このため長距離の移動が「速く楽」だから。一匹では水流の流れを全面的に受け止める必要があるが、群ではその抵抗を分散して受け持つことができる。このため、潮の流れが少々速くても、潮に逆らって安全に泳ぐことを可能にする結果に繋がっているのかもしれないと考えるのだがどうだろう。
もう一点は、群れることで、外敵圧力など危険に対するストレスが弱まり、免疫細胞が活性化すること。人間でも同じだが、免疫系はストレス(不安)に極めて過敏に反応する。群れる仲間が存在しない外洋では、免疫細胞が活性化せず病気になりやすいものと思われる。
もちろん、繁殖の際に異性を捜す手間が省けるためも大きな要因であるに違いない。黒潮に乗って南方より来るハンマーヘッドたちだが、最悪の場合は群れとはぐれて、日本海の浅瀬に単独で出没し、最後には駆除されることになる。ハンマーヘッドは、米国ネブラスカ州の水族館で単性生殖で子どもを生んだメスのシュモクザメがDNA分析により確認されているが、繁殖の上では有性生殖の方が強い種を残す上で不可欠である。

人間の歴史よりも古くより、あの体型で群れにならざるを得ないシュモクザメ。
ひょっとしたら、彼らがひどく臆病な生物と言う点を考えると、群れることで存在を大きく見せ外敵を威嚇するためという説明が、その進化を考える上で一番妥当な説明なのかもしれない。その昔、太古の時代には、サメよりももっと恐ろしい、海中恐竜が海の中を泳いでいたかもしれないのだから。


人気ブログランキングへ参加しています。
気に入った写真や記事がありましたら応援のクリックよろしくお願いします。


雲見 ハンマーヘッドロック(2)

2008-11-23 20:59:51 | プチ放浪 海沿い編

 

ところで、江戸時代の妖怪歌留多に『碓氷峠の撞木娘』なる札があるらしい。その読み札には「うすい峠のしゆもく娘」と書かれてあるとのこと。この妖怪の「撞木娘」はその名のとおり、まるで撞木鮫(シュモクザメ)のような容貌をしている。厳しい峠越えに耐えられず命を落とした者の怨念か、うち捨てられた撞木が化けたものかと言われているが、なんで、山の中に撞木鮫なんだろう?と疑問に思って調べてみた。

まずは、厳しい峠越えに耐えられず命を落とした者の怨念について。
江戸時代、重要だった五街道のうちの一つが中仙道だ。街道だから途中には宿場町がある。宿場町には「飯盛女(めしもりおんな)」と呼ばれる仲居さんつきものだが、その仲居さんの多くは非公式の遊女だったらしい。当然、売られてきた女の子が多かった訳で、彼女たちが病気で亡くなっても引き取り手がいないことから、碓氷峠に死体を捨てられた。その怨念が現れたという説。
あるいは、芥川龍之介の「或日の大石内蔵助」で出てくるように、赤穂浪士を率いる大石良雄(1659~1703)が敵方の目を欺くため、京都の伏見にある撞木町遊廓で遊興したことで知られているのだが、当時は遊女といえば撞木町(しゅもくまち)だったという。厳しい峠越えで亡くなった撞木町の遊女の無念=シュモク説。この撞木町の名前は、京都伏見の遊郭がそのT字路を中心とした造りだったことに由来する。
上の2つの説は、特に妖怪の顔がシュモク顔である必然性はない。ということで、なにゆえに碓氷峠に”シュモク”なのかという十分な説明にはなっていない。
また、うち捨てられた撞木とする説であるが、これに関してはコメントしようがない。。摺り鉦は鉦吾(しょうご)、当たり鉦(あたりがね)、チャンチキ、コンチキ、チャンギリ、四助(よすけ)などともいう。祭囃子で使う金属製の打楽器を、当時の旅人はいつも持ち運んでいたのだろうか。

一つの解釈として、「撞木娘」の正体は、シュモクザメそのものというのは考えられないだろうか?
サメは「因幡の白兎」の出雲神話以来、日本人の食の対象になっていた。サメの身体組織には尿素が蓄積されており、体液の浸透圧調節に用いている。このため、鮮度が落ちるとアンモニアを生じてしまうのだが、このアンモニアにより細菌の繁殖が抑えられ腐敗の進行が遅くなる。冷蔵技術が進む前の山間部ではサメの肉が海の幸として珍重されていたようだ。
塩の道としての信州搬入路。利根川を船で運び上州倉賀野で荷揚げされた塩を運ぶルート。碓氷峠を越え中山道を通って下諏訪・上諏訪、北国街道上田を経て保福寺街道で松本へ、和美峠・内山峠・十国峠を越えて佐久路へ。
上州倉賀野で荷揚げされた塩とともに、食材として積み込まれたシュモクザメ。中仙道の碓氷峠を越えの間に腐敗が進行し、アンモニア臭がひどくなって、道端に捨てられた可能性もある。峠の山道で、夜気にぼんやり浮かび上がるシュモクザメの頭。野生動物も、アンモニア臭のため、近づかない。これを妖怪の姿と思っても無理はないだろう。なにしろ、尾頭付きのシュモクザメは、当時、彼の地では目にする者などわずかであったろうから。


人気ブログランキングへ参加しています。
気に入った写真や記事がありましたら応援のクリックよろしくお願いします。