goo blog サービス終了のお知らせ 

堤卓の弁理士試験情報

弁理士試験に関する情報を提供します。

特許法92条(18.5.2)

2006-05-02 17:05:28 | Weblog
(自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設定の裁定)
第92条
 本条は、利用抵触関係にある場合の通常実施権の設定の裁定について規定しています。

第1項
 本項は、後願特許権者等から先願権利者に裁定を請求するための要件としての協議について規定しています。
 協議を求めることができる者は、利用抵触関係(72条)にある後願の特許権者又は専用実施権者です。通常実施権者には本項の協議を求める権利は認められていません。したがって、通常実施権者が特許発明の実施をするためには、通常の契約により、先願権利者に対して通常実施権の許諾を受けることが必要となります。
 協議を求められる者は、72条の他人です。72条の他人とは、先願権利者をいいます。具体的には、先願特許権者、先願実用新案権者、先願意匠権者です。ただし、「通常実施権の許諾」の対象として、商標権が含まれていませんので、先願商標権者は含まれません。商標の強制使用許諾は、TRIPS協定21条により禁止されています。

第2項
 本項は、クロス裁定のための協議について規定しています。
 協議を求めることができる者は、1項の協議を求められた72条の他人です。具体的には、協議を求められた先願に係る特許権者、実用新案権者、意匠権者です。
 協議を求められる者は、1項の協議を求めた後願に係る特許権者又は専用実施権者です。
 協議を求めることができる範囲は、後願特許権者又は後願専用実施権者が通常実施権の許諾を受けて実施しようとする特許発明の範囲内となります。
 例えば、先願特許発明イがAとBとからなる装置であるのに対し、後願特許発明ロがAとBとCとからなる装置であって、先願特許発明イを利用するものである場合について説明しますと、後願特許権者は、後願特許発明ロ(ABC)を実施するために先願特許権者に協議を求めることとなります。これに対して、先願特許権者は、後願特許権者が実施しようとする後願特許発明ロ(ABC)の範囲内において協議を求めることができることになります。
 先願特許権者が実施を専有できるのは、先願特許発明イ(AB)であって、利用関係に該当する後願特許発明ロ(ABC)については実施を専有することができません。先願特許権者が後願特許発明ロ(ABC)についても実施したいのであれば、2項の規定により協議を求めることが必要となります。

第3項
 本項は、裁定の請求の要件を規定しています。
 1項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときに初めて、特許権者又は専用実施権者は、特許庁長官の裁定を請求することができます。
 3項の裁定の請求をするためには、1項の協議を求めることが必要となります。この点は、83条2項と同様です。
 TRIPS協定31条⒧は、本項の裁定を認める場合の追加的要件を規定しています。

第4項
 本項は、クロス裁定の請求の要件を規定しています。
 第1に、2項の協議が成立せず、又は協議をすることができない場合であることが必要となります。
 第2に、3項の裁定の請求があったことが必要となります。
 第3に、答弁書提出期間内であることが必要となります。
 以上の要件を満たす場合には、72条の他人(先願権利者)は、特許庁長官の裁定を請求することができます。
 TRIPS協定31条⒧()には、本項の裁定を請求する権利について規定しています。

第5項
 本項は、裁定の制限を規定しています。
 3項の裁定の請求において、通常実施権を設定することが72条の他人(先願権利者)の利益を不当に害することとなるときは、通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることはできません。例えば、後願特許発明と先願特許発明とを比較した場合に、後願特許発明には、相当の経済的重要性を有する重要な技術の進歩が含まれていることが必要とされます(TRIPS協定31条⒧)。
 4項の裁定の請求において、通常実施権を設定することが特許権者又は専用実施権者(後願権利者)の利益を不当に害することとなるときは、通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることはできません。

第6項
 本項は、クロス裁定に特有の制限を規定しています。
 4項のクロス裁定においては、3項の裁定の請求について通常実施権を設定すべき旨の裁定をしないときは、クロス裁定についても通常実施権を設定すべき旨の裁定をすることができません。
 後願権利者からの本来の裁定の請求が認められない場合に、先願権利者からのクロス裁定のみを認めるのは、後願権利者に不当であるからである。

第7項
 83条2項の裁定に関する規定は、92条3項及び4項の裁定にも準用することとしています。
 準用している規定は、次のとおりです。
・84条(答弁書の提出)
・85条1項(審議会の意見の聴取)
・86条(裁定の方式)
・87条(裁定の謄本の送達)
・88条(対価の供託)
・89条(裁定の失効)
・90条(裁定の取消し)
・91条(裁定の取消し)
・91条の2(裁定についての不服の理由の制限)
 準用していない規定としては、85条2項があります。92条の裁定は、特許発明の実施が適当にされていないことについて正当な理由があったとしても、後願権利者の実施を促進する必要があるときは、裁定を認める必要があります。