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審決取消訴訟 (18.5.31)

2006-05-31 06:40:23 | Weblog
審決取消訴訟

1.請求成立審決に対して不服のある被請求人(特許権者)又は請求不成立審決に対して不服のある請求人は、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができる(特178条)。
 特許権者は、審決について直接の不服はないが、訂正審判を請求して特許無効理由を解消することができると判断した場合には、審決取消訴訟は、訂正審判を請求するための手段として形式的に提起することとなる。
 一方、審決の違法性について直接争うときは、訂正審判を請求することなく、審決取消訴訟において本格的に争うことができる。

2.出訴期間
 審決の謄本の送達があった日から30日以内(特178条3項) 
 30日は不変期間→ただし、付加期間あり(特178条4項、5項)

3.訂正審判の請求
(1)訴えの提起があった日から起算して90日以内であれば、訂正審判(特126条)を請求することができる(特126条2項)。
 特許無効審判においてした訂正がまだ広すぎて無効理由を有している場合に、これをさらに減縮する訂正をすることにより、特許無効理由を解消することができる場合に有効な訂正である。

(2)ただし、取消し判決(特181条1項)又は差戻し決定(特181条2項)が確定した場合には、前記90日の期間内であっても、訂正審判を請求することができない(特126条2項かっこ書)。

(3)訂正の要件→特126条

4.差戻し決定
(1)特許権者が訂正審判を請求した場合、又は訂正審判を請求しようとしている場合は、裁判所は、裁量により、決定をもって、審決を取り消すことができる(特181条2項)。

(2)本案審理を続行した場合において、訂正審判において特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を認める審決が確定すると、訂正後の内容について裁判所は第一次的に無効理由の存否を審理判断することができないため、本案審理の内容にかかわらず、審決を取り消す判決をしなければならない。この場合は、すでにした本案審理がまったく無駄となる。このような場合には、裁判所は、本案審理をすることなく、差戻し決定をするものと解される。

(3)ただし、審決の違法性が明らかであり、審決を直ちに取り消すことができるような場合には、裁判所は、差戻し決定(特181条2項)ではなくて、取消し判決(特181条1項)をするものと解される。

(4)差戻し決定をする場合には、裁判所は、当事者の意見を聴かなければならない(特181条3項)。裁判を受ける権利を尊重するためである。

(5)差戻し決定は、審判官その他の第三者に対しても効力を有するものとされている(特181条4項)。行政処分の合一確定の要請を満たすこと、特許無効審判の再開の根拠を明確にすること、がその趣旨である。
 なお、差戻し決定は、訴訟物について実体判断をするものではないから、行政庁に対する拘束力(行政事件訴訟法33条1項)は、ない。

5.取消し判決
(1)裁判所は、請求を理由があると認めるときは、審決を取り消さなければならない(特181条1項)。本案審理をした結果、審決の違法性があると判断した場合には、判決によって審決を取り消すことが義務づけられる。

(2)取消し判決は、行政庁に対する拘束力(行政事件訴訟法33条1項)がある。したがって、特許無効審判の審判官は、判決の判断と矛盾する審決をすることはできない。

6.取消し判決又は差戻し決定が確定した場合には、特許無効審判の審判官は、さらに審理を行い、審決をしなければならない(特181条5項)。

7.特許無効審判における訂正の請求
(1)請求不成立審決に対する取消訴訟に関して取消し判決が確定し、特許無効審判の審理を開始するときは、審判長は、取消し判決の確定日から1週間以内に被請求人(特許権者)から申立てがあった場合に限り、訂正を請求するための期間を指定することができる(特134条の3第1項)。
 ① 請求不成立審決→請求成立審決が取り消された場合には、訂正の必要性に乏しい。
 ② 申立て→特許権者に積極的な訂正の意思がない場合にまで訂正の機会を付与する必要はない。
 ③ することができる→原審決の取消しの理由が手続上の瑕疵であり、再度有効審決ができる場合には、訂正の機会を与える必要はない。

(2)差戻し決定が確定し、特許無効審判の審理を開始するときは、審判長は、訂正を請求するための期間を指定しなければならない(特134条の3第2項)。差戻し決定は、訂正を前提とした終極裁判であるため、訂正の機会を必ず付与して、特許無効審判における訂正に一本化することをその趣旨とする。
 ただし、特許無効審判の審理の開始の時に、訴えの提起の日から90日以内に請求した訂正審判の審決がすでに確定している場合には、訂正の機会を付与しない(特134条の3第2項ただし書)。訂正後の内容で審理を開始すれば十分であるため、あらためて訂正の機会を付与する必要はない。

(3)訂正明細書等の援用
 審決取消訴訟の提起があった日から90日以内に訂正審判を請求した場合において、取消し判決又は差戻し決定が確定し、特許無効審判において指定期間内に訂正の請求をするときは、訂正審判の請求書に添付した訂正明細書等を援用することができる(特134条の3第3項)。
 訂正審判と同じ内容の訂正を請求するときは、訂正明細書等はあらためて作成する必要はなく、援用することができる。
 なお、訂正請求書は、訂正審判の請求書を援用することはできず、あらためて作成し、提出しなければならない。
 訂正審判の内容と異なる内容の訂正を請求するときは、あらためて訂正明細書等を作成し、これを訂正請求書に添付することが必要とされる。

(4)訂正審判のみなし取下げ
 審決取消訴訟の提起があった日から90日以内に訂正審判を請求した場合において、取消し判決又は差戻し決定が確定し、特許無効審判において指定期間内に訂正の請求をしたときは、訂正審判の請求は取り下げられたものとみなされる(特134条の3第4項)。訂正審判が独立して審理されることを防止して、特許無効審判における訂正の請求に一本化することをその趣旨とする。
 ただし、訂正の請求の時に、訂正審判の審決が確定している場合には、訂正審判の請求は取り下げられたものとみなされない(特134条の3第4項ただし書)。

(5)審決取消訴訟の提起があった日から90日以内に訂正審判を請求した場合において、取消し判決又は差戻し決定が確定し、特許無効審判において指定期間内に訂正の請求がされなかったときは、指定期間の末日に、訂正明細書等を援用した訂正の請求がされたものとみなされる(特134条の3第5項)。
 ただし、指定期間の末日に訂正審判の審決が確定している場合には、訂正の請求がされたものとみなされることはない(特134条の3第5項ただし書)。

8.訂正請求書等の副本の送達等
(1)審判長は、訂正請求書の副本、訂正明細書等の副本を請求人に送達しなければならない(特134条の2第2項)。

(2)訂正の請求の審理
 特許無効審判の審判官は、訂正の要件を満たすかどうかについて審理する。
 審判官が当事者が申し立てない理由について審理した場合において、訂正の要件を満たしていないと判断したときは、審判長は審理の結果を当事者に通知し意見を申し立てる機会を与えなければならない(特134条の2第3項ただし書)。

(3)特許無効審判請求書の補正
 審判請求人は、審判長の許可があれば、審判請求書の請求の理由について要旨を変更する補正をすることができる(特131条の2第2項)。

(4)手続補正書の副本の送達
 特許権者は、指定期間内に再度の訂正の請求をすることができる(特134条の2第1項)。

9.特許無効理由の審理
 審判官は、訂正の要件を満たしていると判断した場合には、訂正後の内容について無効理由があるかどうかの審理を行う。
 審判官は、訂正の要件を満たしていないと判断した場合には、訂正前の内容について無効理由があるかどうかの審理を行う。

10.審決
 審判官は、請求成立審決又は請求成立審決をすることとなる。
 審決に不服がある場合には、審決取消訴訟を提起することができる(特178条)。