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2023年2月8日 弁理士試験 代々木塾 特許法72条

2023-02-08 03:59:41 | Weblog
2023年2月8日 弁理士試験 代々木塾 特許法72条

(他人の特許発明等との関係)第七十二条
 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、
 その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、
 又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、
 業としてその特許発明の実施をすることができない。

〔解説〕

(1)72条は、ある発明について特許がされた場合であっても、その発明が他人の特許発明、登録実用新案、登録意匠等を利用するものであるとき、又はその特許権が他人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、その他人から実施許諾を受けなければその特許発明を実施することができない旨を規定している。
 特許権と商標権とが抵触する場合の調整規定は、平成8年改正により商標法において立体商標制度(商2条1項)を導入したことに伴い追加したものである。

(2)「特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は」
 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、特許発明を業として実施する権原を有する者であるが(68条、77条2項、4項、78条2項)、72条の利用抵触に該当する後願の権利者であるときは、特許発明を実施することができない。
 後願の特許権について、専用実施権を設定し(77条1項)、通常実施権を許諾した(78条1項)場合には、特許権者のみならず、専用実施権者及び通常実施権者も、実施が制限される。
 逆にいうと、72条により実施が制限される後願の特許権であっても、専用実施権を設定すること、通常実施権を許諾することは、制限されないといえる。

(3)「その特許出願の日前の出願に係る」
 先願優位の原則に基づいて重複する権利関係を調整することとしたものである。
 反対解釈として、同日出願の場合は、いずれも実施が制限されない。先願である場合も、実施は制限されない。

(4)「他人」とは、72条の適用の対象となる後願の特許権者、専用実施権者又は通常実施権者から見て他人を意味する。
 同一人であるときは、権利関係を調整する必要がないからである。

(5)「利用」とは、後願の特許発明を実施すると先願の特許発明の全部実施に該当するが、先願の特許発明を実施しても後願の特許発明の全部実施にはならない関係をいうと解される(裁判例)。
 先願の特許発明がABCで、後願の特許発明がABCDでABCを利用する場合は、72条が適用される。この場合は、後願の権利者はABCDを実施することができないし、先願の権利者もABCDを実施することができない。
 甲が合金Xを生産する機械を発明して特許を受け、その後乙がその機械によって合金Yを生産する方法を発明して特許を受けたとしても、乙は合金Yを生産するために甲の特許に係る機械を自由に使用することができるわけではなく、乙は自己の特許発明を実施するためには甲からその機械を使用することについての実施許諾を得なければならない。このことは特許発明と登録実用新案又は登録意匠との関係でも同じである。

(6)「抵触」
 特許権と意匠権との関係では、「抵触」とは、後願の特許権に係る特許発明を実施すると、先願の意匠権に係る登録意匠又はこれに類似する意匠の実施(意23条)に該当し、先願の意匠権に係る登録意匠又はこれに類似する意匠を実施すると、後願の特許権に係る特許発明の実施(特68条)に該当することをいうと解される(裁判例)。
 例えば、自動車のタイヤに特殊な凹凸を付することがタイヤの磨耗を少なくするということで特許権の対象となり得る場合において(特2条1項)、同じ凹凸を付することが視覚に訴え美感を起こさせるときは意匠権の対象ともなり得るのである(意2条1項)。

 特許権と商標権との関係では、「抵触」とは、後願の特許権に係る特許発明を実施すると、先願の商標権の専用権(商25条)又は禁止権(商37条1号)の範囲の使用に該当し、先願の商標権の専用権(商25条)又は禁止権(商37条1号)の範囲の使用をすると、後願の特許権に係る特許発明の実施(特68条)に該当することをいうと解される。
 例えば、物品の形状自体に関する発明が特許権の対象となり得る場合において(特2条1項)、その物品(商品)自体の形状を表示する立体商標が商標権の対象ともなり得るのである(商2条1項)。

(7)特許権同士の抵触(ダブルパテント)
 同一の発明について2以上の特許権が発生した場合は、先願の特許発明と後願の特許発明は同一である。この場合は、後願の特許は29条の2又は39条1項違反として特許無効審判(123条)において無効にされるべきものである。そのため、72条においては、後願の特許権と先願の特許権が抵触する場合については、規定していない。

 先願の特許権者が自己の特許発明を実施している場合に、後願の特許権者から後願の特許権の侵害に該当するとして差止請求訴訟の提起を受けたときは、先願の特許権者は29条の2又は39条1項違反の無効の抗弁(104条の3)を主張することにより、差止請求を免れることができる。

 後願の特許権者が自己の特許発明を実施している場合に、先願の特許権者から先願の特許権の侵害に該当するとして差止請求訴訟の提起を受けたときは、後願の特許権の抗弁は成立しないと解される(禁止説)。利用発明に該当するときは先願優位の原則に基づいて後願の特許権者の実施が制限されるのに(72条)、同一発明の場合には実施が制限されないとするのは、72条の規定の趣旨からみて妥当でないからである。

 これに対し、放任説は、80条の中用権の規定を根拠とし、80条の中用権は、特許が無効になる前の善意の実施を要件としているので、中用権の発生の要件を満たす実施は、適法であると解するものである。
 104条の3第1項(無効の抗弁)の規定が設けられた現在においては、無効理由のある後願の特許権について80条の中用権を認めることは、適切ではないとする学説が有力である。後願の特許権の存続期間中であっても、後願の特許権の効力は先願の特許権の効力の制限を受けて後願の特許権者は実施をすることがができないと解されるので(禁止説)、特許無効審決が確定したとたんに80条が適用されて実施をすることができるとするのは、不合理となるからである。

(8)72条により、後願の権利者は、先願の権利者の許諾を受けない限り、その特許発明の実施をすることができないことになるが、それでは、後願の発明は実施をすることができないまま埋もれてしまい技術の進歩にとって好ましいことではないので、特許庁長官に通常実施権の設定の裁定を請求することができることとしている(92条)。


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