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特許法29条の2の解釈 18.7.9

2006-07-09 13:55:04 | Weblog
特許法29条の2

本文

・「特許出願に係る発明が」
 審査対象である特許出願の請求項に記載された発明を意味します。
 請求項が複数ある場合には、各請求項について29条の2の要件を満たすかどうか、判断することになります。

・「当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であって」
 当該特許出願が後願で、他の特許出願が先願であることを意味します。
 「日前」とは、その日を含まずにそれよりも前の日を意味します。したがって、同日出願については29条の2は適用されません。
 当該特許出願の日とは、分割に係る特許出願、変更に係る特許出願、実用新案登録に基づく特許出願である場合であって、出願時の遡及効発生の要件を満たす場合には、もとの出願の日、基礎とされた出願の日を意味します。
 当該特許出願がパリ条約の優先権の主張を伴う後の出願又は国内優先権の主張を伴う後の出願である場合において、優先権の利益が認められる発明については、先の出願の日を意味します。
 他の特許出願の日とは、分割に係る特許出願、変更に係る特許出願、実用新案登録に基づく特許出願であっても、現実の新たな特許出願の日を意味します(44条2項ただし書、46条5項、46条の2第2項ただし書)。
 他の出願は、特許出願のほか、実用新案登録出願であっても差し支えありません。発明と考案とは同質ですので、39条と同様に29条の2の適用においても実用新案登録出願を引用例とすることができます。

・「当該特許出願後に66条3項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(特許掲載公報)の発行」
 先願について特許掲載公報が発行された場合を規定しています。通常は、出願公開が先行しますが、出願公開前に特許掲載公報の発行がされる場合も想定されます。
 当該特許出願後に特許掲載公報が発行された場合に適用され、当該特許出願前に特許掲載公報が発行された場合は、本条の問題ではなくて、新規性(29条1項3号)の問題となります。

・「若しくは出願公開」
 特許出願をしますと、その日から1年6月を経過したときに出願公開がされます(64条1項)。出願公開によって、明細書等の内容が公然知られ得る状態になります。
 出願公開前に、特許出願を取り下げたときは、その後出願公開公報が発行されたとしても、本条の出願公開には該当しないことになります。
 ただし、出願公開の請求をしたときは、特許出願を取り下げても出願公開がされますので、この場合は、本条の出願公開の要件を満たすことになります。
 当該特許出願の特許権の設定の登録後に他の出願について出願公開された場合には、当該特許は29条の2の規定に違反してされたものであるとして123条1項2号の無効理由を有することになります。つまり、他の出願(先願)の出願公開等の時期は、当該特許出願(後願)の出願後であればいつでもよいことになります。

・「又は実用新案法14条3項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(実用新案掲載公報)の発行がされたものの」
 引用例が実用新案登録出願の場合には、出願公開制度がありませんので、実用新案掲載公報の発行が条件となります。

・「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面」
 願書に最初に添付明細書等とは、願書に最初に添付した明細書等そのものを意味します。その後、明細書等について補正がされたとしても、願書に最初に添付した明細書等の内容は変更になることがありません。特許後に訂正をしたとしても、願書に最初に添付した明細書等の内容は変更になりません。
 いったん特許出願をすると、29条の2の後願排除効が認められるのは、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項となります。その後に出願内容が変更されても影響を受けないことになります。

・「(36条の2第2項の外国語書面出願にあっては、同条1項の外国語書面)」
 引用例が外国語書面出願の場合において後願排除効が認められるのは、翻訳文ではなくて、外国語書面となります。したがって、外国語書面に記載されていれば、翻訳文に記載されていない発明であっても、後願排除効を持つことになります。
 なお、外国語書面の翻訳文は、外国語書面出願の日から1年2月以内に提出しなければなりません(36条の2第2項)。翻訳文を提出しなければ、外国語書面出願がみなし取下げとなりますので、出願公開がされることがありません。
 なお、平成18年改正法により翻訳文の提出期間は「2月」から「1年2月」になりました。

・「に記載された発明又は考案」
 他の出願の当初明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明又は考案をいいます。
 「記載されているに等しい事項」とは、記載されている事項から他の出願の出願時における技術常識を参酌することにより導き出せるものをいいます。

・「(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)」
 当該特許出願の請求項に係る発明の発明者、及び他の出願の明細書等に記載された発明の発明者は、「特別の事情」がない限り、願書に記載された発明者であると認定されます。
 「特別の事情」とは、例えば、明細書中に別の発明者が記載されているような場合をいいます。
 発明者の同一は、各々の願書に記載された発明者の全員が表示上完全に一致していることが必要ですが、一致していない場合は、実質的に判断し、その結果完全同一であることが必要です。
 なお、発明者が同一でないとの認定を覆すためには、出願人の主張のみでは不十分です。その主張を裏付ける証拠(他の出願の発明者の宣誓書等)が必要です。
 共同発明者といえるためには、発明完成までの過程の少なくとも一部分において、共同発明者の各々が技術的創作活動を相互補完的に行い、発明を完成するために有益な貢献をなしたことが必要です。

・「と同一であるときは、」
 同一とは、請求項に係る発明の発明特定事項と他の出願の当初明細書等に記載された発明又は考案(引用発明)の発明を特定するための事項とに相違点がない場合、又は相違点はあるがそれが課題解決のための具体化手段における微差である場合(実質同一)をいいます。

・「その発明については、前条1項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」
 29条の2は、出願の拒絶理由になることを意味します。

・「ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。」
 出願人同一の判断は、当該特許出願の現実の出願時点で、他の出願と当該特許出願との各々の願書に記載された出願人の異同によって行います。
 出願人が複数である場合には、全員が完全に一致するとき、出願人同一に該当します。
 他の出願と当該出願との間に出願人の改称・相続・合併があって出願人が記載上一致しなくなった場合でも同一と認定します。
 当該出願が分割出願又は変更出願であるときは、当該出願の出願日の遡及時点のもとの出願人を当該出願の出願人とします。