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パリ条約の優先権 (18.5.21)

2006-05-21 21:04:32 | Weblog
論文式試験用

パリ条約による優先権

1.パリ条約による優先権の趣旨
 同一の発明について複数の国に特許出願等を行う場合、翻訳等の準備や各国ごとに異なる手続が必要となるため、特許出願等を同時に行うことは出願人にとって負担が大きい。このような出願人の負担の軽減を図るために、工業所有権の保護に関するパリ条約は、優先権について規定している(パリ条約4条)。
 特許出願についてのパリ条約による優先権とは、パリ条約の同盟国である国(第一国)において特許出願をした者が、その特許出願の出願書類に記載された内容について他のパリ条約の同盟国(第二国)に特許出願をする場合に、第一国への最初の特許出願の日から第二国への特許出願の日までの期間が12月以内である場合に限り、新規性、進歩性等の判断に関し、第二国への特許出願について第一国への特許出願の日においてしたと同様の取り扱いを受ける権利であり、特許法43条はこれを受けて、パリ条約に基づいて優先権を主張する場合について規定している。

2.パリ条約による優先権主張の要件
(1)優先権の主張ができる者
 優先権を主張することができる者は、パリ条約の同盟国の国民(パリ条約3条の規定により同盟国の国民とみなされる者を含む)であって、パリ条約の同盟国に特許等の出願を正規にした者又はその承継人である(パリ条約4条A⑴)。
 したがって、発明者であっても、特許を受ける権利を他人に譲渡して自ら特許出願をしなかった者は、その他人の特許出願を基礎とする優先権を主張することはできない。
(2)優先権の主張を伴う後の出願ができる期間
 優先権の主張を伴う後の出願ができる期間は、第一国への最初の出願の日から12月である(パリ条約4条C⑴)。この期間は、最初の出願の日から開始し、出願の日は期間に含まれない(パリ条約4条C⑵)。この期間の最後の日が、第二国において法定の休日又は所轄庁が特許出願を受理するために開かれていない日である場合には、この期間はその後の最初の開庁日まで延長される(パリ条約4条C⑶)。
(3)優先権主張の基礎とすることができる出願
 ① 正規の出願であること
 優先権主張の基礎とすることができるとされている、いずれかの同盟国で正規にされた特許出願とは、結果のいかんを問わず、各同盟国の国内法令又は条約の同盟国内に締結された国際条約によって定められた方式上の原則に従ってされた出願である。したがって、特許出願後に放棄され、又は拒絶の査定を受けた出願であっても、優先権主張の基礎とすることができる(パリ条約4条A⑶)。
 ② 最初の出願であること
 優先権主張の基礎とすることができるのは、パリ条約の同盟国における最初の出願のみである(パリ条約4条C⑵)。これは、最初の出願に記載された発明について再度(すなわち累積的に)優先権を認めると、実質的に優先期間を延長することとなるからである。
 ただし、同一対象について同一の同盟国にされた二つの出願があり、先の特許出願が公衆の閲覧に付されず、いかなる権利も存続させないで、後の特許出願の日までに取り下げられ、放棄され、又は拒絶の査定を受けた場合で、優先権主張の基礎とされなかったときには、後の出願が最初の出願とみなされる(パリ条約4条C⑷)。

3.パリ条約による優先権の主張の効果
 パリ条約の同盟国への最初の出願の日から、他の同盟国への優先権主張を伴う後の出願の日までの期間内に行われた他の出願、当該発明の公表又は実施、その他の行為によって、後の出願は不利な取り扱いを受けることがない。また、これらの行為は、第三者のいかなる権利も発生させるものではない(パリ条約4条B)。
 パリ条約による優先権はこのような効果を有するので、パリ条約による優先権の主張を伴う特許出願(第二国出願)に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた出願(第一国出願)の出願書類の全体(明細書、特許請求の範囲、図面)に記載されている発明については、特許法の以下の規定の適用にあたり、国内優先権の主張を伴う場合(41条2項)に準じて、当該特許出願が第一国出願の時にされたものとして扱う。
(1)29条(新規性、進歩性)
(2)29条の2本文(いわゆる拡大された先願の地位)
(3)39条1項から4項まで(先願)
(4)69条2項2号(特許権の効力の及ばない範囲)
(5)72条(他人の特許発明、登録実用新案、登録意匠等との利用又は他人の意匠権、商標権との抵触の関係)
(6)79条(先使用による通常実施権)
(7)81条及び82条1項(意匠権の存続期間満了後の通常実施権)
(8)104条(生産方法の推定)
(9)126条5項(訂正審判の独立特許要件(ただし、36条は除く。))
 なお、パリ条約による優先権の主張を伴う特許出願についてのその他の条文の規定の適用にあたっては、当該特許出願の出願日を基準として判断する。特許法36条の規定の適用にあたっても、当該特許出願の出願日における技術水準に基づいて判断する。

4.パリ条約による優先権の主張の効果についての判断
(1)基本的な考え方
 パリ条約は、優先権の主張の効果が認められるためには、「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされていなければならないとしている(パリ条約4条H)。優先権主張を伴う第二国出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体により明らかにされているといえるためには、第二国出願の出願書類の全体の記載を考慮して把握される第二国出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものである必要がある。第二国出願の請求項に係る発明が、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるか否かの判断は、新規事項の例による。
 優先権の主張の効果の判断は、請求項ごとに行う。ただし、一の請求項において発明を特定するための事項が形式上又は事実上の選択肢で表現されている場合には、各選択肢についてそれぞれ優先権の主張の効果を判断する。
(2)部分優先又は複合優先の取扱い
 第二国出願には、第一国出願に含まれていなかった構成部分が含まれる場合があり、パリ条約は、このような場合に優先権の主張をすることを認めている(パリ条約4条F)。また、複数の第一国出願(二以上の国においてされた出願を含む。)をそれぞれ基礎としてパリ条約による優先権を主張して出願することもできる(パリ条約4条F)。このような場合の優先権の主張の効果についての判断は以下によって行う。
 ① 第二国出願が第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張を伴っていて、第二国出願の一部の請求項又は選択肢に係る発明が第一国出願に記載されている場合(部分優先)には、その部分について対応する第一国出願に基づく優先権の主張の効果の有無を判断する。
 ② 第二国出願が二以上の第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張(複合優先)を伴っていて、第二国出願の一部の請求項又は選択肢に係る発明が一の第一国出願に記載されており、他の一部の請求項又は選択肢に係る発明が他の第一国出願に記載されている場合には、各部分ごとに対応する第一国出願に基づく優先権の主張の効果の有無を判断する。
 ③ 第二国出願が二以上の第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張(複合優先)を伴っていて、第二国出願の請求項に係る発明を特定するための事項が、複数の第一国出願に共通して記載されている場合には、当該発明特定事項が記載されている第一国出願のうち最先のものの出願日を基準として審査をする。
 ④ 二以上の第一国出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う特許出願の請求項に係る発明が、それぞれの第一国出願の出願書類の全体に記載された事項を結合したものであって、その結合についてはいずれの第一国出願の出願書類の全体にも記載されていない場合には、いずれの出願に基づく優先権の主張の効果も認めない。

5.優先権主張の基礎となる出願が優先権主張を伴う場合の取扱い
 本願のパリ条約による優先権の基礎とされた先の出願(第二の出願)が、その出願の前になされた出願(第一の出願)に基づく優先権の主張を伴っている場合、第一の出願に記載された部分については第二の出願は最初の出願ではないので、第二の出願の出願書類の全体に記載された事項のうち第一の出願の出願書類の全体にすでに記載されている部分については優先権の主張の効果は認めず、第一の出願の出願書類の全
体に記載されていない部分のみについて優先権の主張の効果を認める。

6.特許協力条約に基づく国際出願と優先権
 国内出願あるいは日本のみを指定国とする国際出願のいずれかを基礎とした優先権主張を伴う国際出願において日本を指定国として含む場合(自己指定)の日本の指定に係る部分には、国内優先権を主張することができる(PCT8条⑵⒝)。一方、日本及び他のPCT締約国を指定国とする国際出願を基礎とした優先権主張を伴う国際出願において、日本を指定国として含む場合の日本の指定に係る部分には、パリ条約
による優先権を主張することができる(PCT8条⑵⒜)。
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