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特許法 34条 (18.5.17)

2006-05-17 06:28:45 | Weblog
特許法

(特許を受ける権利)
第34条

第1項

 特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができません。
 本項は、特許を受ける権利が二重譲渡された場合の調整規定です。
 特許を受ける権利は、財産権であって、特許出願前においても他人に譲渡することができます(33条1項)。
 例えば、発明イの発明者甲が発明イについての特許を受ける権利を原始的に取得したとします。その後、甲は、発明イについての特許を受ける権利を100万円で乙に譲渡したとします。乙が発明イについて特許出願をする前に、甲が発明イについての特許を受ける権利を丙にも100万円で譲渡したとします。民法でも不動産の二重譲渡があった場合には、登記を第三者対抗要件とする規定があります(民法○○条)。つまり、民法では、不動産の二重譲渡を予定しているわけです。特許法でも特許を受ける権利の二重譲渡を予定して本項が規定されているわけです。
 したがって、特許を受ける権利の二重譲渡は、それぞれ有効であると扱われることになります。契約自体は無効にはなりません。発明者甲がその特許を受ける権利を乙に譲渡した場合には、甲は特許を受ける権利を持っていません。それにもかかわらず、なぜ甲がさらに丙にも特許を受ける権利を譲渡できるのか、その理由を説明することはたいへん難しいのですが、甲から乙に譲渡された特許を受ける権利は、乙が特許出願をしなければまだ不完全であって、半分程度は甲に残っていると理解することになります。
 そこで、特許出願前における特許を受ける権利の承継は、特許出願を第三者対抗要件として規定することにより、特許を受ける権利について二重承継があった場合には、先に特許出願をした者が、後から特許出願をした者に対抗することができるように規定しているわけです。後から特許出願をしても先に特許出願をした者には承継について対抗することができないこととなります。その結果、後から特許出願をした場合には、当該特許出願は、発明者の出願でもなく、特許を受ける権利を承継した者の出願でもないとして、冒認出願であるとして拒絶理由となります(49条7号)。
 本項は、たいへん分かりにくい規定ですが、その趣旨は以上のとおりですので、特許を受ける権利が二重譲渡された場合の調整規定であると理解することになります。

第2項

 2項は、1項の特別規定として位置付けられます。
 特許を受ける権利の二重譲渡があった場合に、各承継人の特許出願の日が異なっていれば、1項により調整することができます。
 しかし、各承継人の特許出願の日が同日であった場合には、1項では調整することができません。
 そこで、同一の者から承継した同一の特許を受ける権利について同日に2以上の特許出願があったときは、特許出願人の協議により定めた者以外の者の承継は、第三者に対抗することができないこととしました。同日の場合は、当事者間の自主的な解決を優先することとしました。
 なお、本項の場合は、7項で準用する39条7項により、特許庁長官が協議命令をすることになります。したがって、本項の第三者には特許庁も含まれるという解釈がされています。
 1項の場合は、特許庁長官が協議命令をすることがありませんので、1項の第三者には特許庁は含まれないと解されています。

第3項

 ある創作が発明であるとすることもできるし、考案であるとすることもできる場合には、ある創作について特許を受ける権利と実用新案登録を受ける権利とが重複して発生しているとみることができます。
 このような場合には、創作者は、特許を受ける権利として他の者に譲渡した後、実用新案登録を受ける権利として別人に譲渡することも考えられます。
 そして、特許出願と実用新案登録出願とが同日にされた場合には、2項と同様に調整することとしました。
 すなわち、同一の者から承継した同一の発明及び考案についての特許を受ける権利及び実用新案登録を受ける権利について同日に特許出願及び実用新案登録出願があったときは、2項と同様にすることとしました。

第4項

 特許出願後における特許を受ける権利の譲渡については、権利の帰属を明確にするために、特許庁長官への届出を効力発生要件とすることとしました。
 すなわち、特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じないこととしました。
 本項でいう届出とは、出願人名義変更届をいいます(特許法施行規則様式18)。本項の届出については、手数料の納付が必要となります(195条1項3号)。この届出(出願人名義変更届)には、権利の承継を証明する書面を添付することが必要とされます。譲渡の場合は、譲渡証書を添付することになります。

第5項

 特許出願後において特許を受ける権利について相続その他の一般承継があった場合には、権利の空白期間の発生を防止するために、承継人は、遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならないこととしました。
 本項は、訓示規定と解されていますので、届出が遅れたからといって制裁が課されることはありません。しかし、届出を放置しておきますと、被承継人に特許権の設定の登録がされることがありますので、要注意です。
 この届出には、手数料の納付は必要がありません(特許法施行規則様式18備考2)。

第6項

 特許出願後において同一の者から承継した同一の特許を受ける権利の承継について異なった日に2以上の届出があったときは、先の届出が有効となり、後からの届出は無効となります。つまり、先に適式な届出(出願人名義変更届)が提出されたときは、その届出によって出願人の名義が変更されたことになります。その後に、前権利者から承継を受けた旨の届出がされても、不適法であってその補正をすることができないものであるとして、18条の2の却下の対象となります。
 ところが、同一の者から承継した同一の特許を受ける権利の承継について同日に2以上の届出があったときは、日をもって優劣を判断することができません。そこで、このような場合は、届出をした者の協議により定めた者以外の者の届出は、その効力を生じないこととしました。すなわち、当事者間の自主的な解決を優先することとしました。

第7項

 本項は、34条2項、3項、6項の協議については、39条7項と8項の規定を準用する旨を規定しています。
 39条7項は、特許庁長官が協議命令をすることを規定しています。
 39条8項は、協議命令の指定期間内に届出がないときは、協議不成立とみなす旨を規定しています。