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意匠審査便覧 10.30.01 (18.5.25)

2006-05-25 09:12:40 | Weblog
意匠法4条2項の論点です。

意匠審査便覧 10.30.01

意匠法第4条第3項にいう「証明する書面」として内外国特許公報等が提出された場合の取扱い

 意匠法3条1項1号又は同条同項2号に該当するに至った意匠について意匠法4条2項の規定の適用を受けるために内外国特許公報等(内外国の特許公報、実用新案公報、意匠公報及び商標公報)が意匠法4条3項にいう「証明する書面」として提出された場合、これらの公報へのその意匠の掲載は意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因」したものとは認められないから、その意匠については同規定の適用を認めず審査を進める。

(説明)
 意匠法4条2項に規定される「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して」の文言は、新規性の喪失の例外事由を限定的に列挙した特許法30条1項に比較して包括的表現となっているが、そのように表現したのは立法時の議論にも見られるとおり、意匠の場合は特許法に規定する「試験」、「刊行物に発表」、「学会発表」の他に意匠登録出願前であっても実施化に先立つ市場調査又は実施に相当する「販売」、「展示」、「見本の頒布」等が行われる事例が多いとの事情を考慮し、当該意匠がこれらの公開意匠の存在を理由として登録を受けることができないとすることは創作者にとって酷であり産業の発達に寄与するという法の目的にもとる結果ともなる場合があることから、これら公開行為も新規性の喪失の例外事由に含めるためであったと解され、とすると、上記の文言は新規性の喪失の例外事由を必要以上に拡大するものではない。
 ところで、特許法30条1項にいう「刊行物に発表」とは、特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に刊行物を発表した場合をいうのであって、例えば、公開特許公報は、特許を受ける権利を有する者が特許出願をしたことにより、特許庁長官が手続の一環として特許法64条の規定に基づき出願に係る発明を掲載して刊行するものであるから、これによって特許を受ける権利を有する者が自ら主体的に当該発明を刊行物に発表したものということはできない。これは、外国における公開特許公報であっても同様である、と解されている。(昭和61年(行ツ)第160号 平成元年11月10日最高裁判決)
 そうすると、意匠法4条2項にいう「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して」についても、この最高裁判決の論旨から「意匠登録を受ける権利を有する者自らの主体的な行為に起因して」と解すべきである。
 また、仮に外国特許公報等に掲載されることを新規性喪失の例外事由として認めることは、パリ条約による優先権等の主張の利益と重ね過重な保護を与えることとなったり、時機を失した出願の救済につながることとなり、結果として第三者に不測の事態をもたらす場合も予測されることから、創作者の救済措置として必要な限度を越えていると言わざるを得ない。
 したがって、意匠登録出願前に当該意匠が上記公報等へ掲載されることは、法の予定する新規性の喪失の例外事由に該当せず、「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因」したものとは認められない。
 よって、本文のように取り扱うものとする。

東京高裁平成12年( 行ケ) 第331号「おろし器」 判決日平成12年11月28日
 (前文省略)意匠法4条2項は、新規性の判断を、出願時を基準に、厳格に運用すると、出願人に酷な場合が生じる場合があるため、これを救済するために設けられた例外規定であるから、その適用範囲は立法趣旨に従って限定的に解釈されるべきである。(途中省略)内外国において意匠の登録出願をした結果、意匠公報等に掲載されたということは、その出願の時点で既に出願の準備が完了していたということであるから、このような場合に新規性を失うものと取り扱っても、意匠の考案者に酷とはいえず、意匠法4条2項により、これを救済する実質的な必要性は認められない。さらに、外国における出願の場合には、パリ条約4条A⑴、B、C⑴、⑵が適用され、出願の日から6か月間は、当該意匠の公表に基づく不利益扱いが禁止されているのであるから、この期間を徒過した者に、さらに意匠法4条2項を適用して、その後も一定期間、新規性を喪失しないとして、同様の保護を与えることは、パリ条約の趣旨に反し、権利者に過分の利益を与えることになり、ひいては、上記期間が徒過したと信じて行動した第三者に不測の損害をもたらすことがありうるので、許されないというべきである。(途中省略)このようにみてくると、内外国特許公報等への掲載は、意匠法4条2項の「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合にはあたらないと解するのが相当である。なお、新規性喪失事由の例外を定めた特許法30条についても、同様の理由から、国内外の特許公報への掲載は、同条の「刊行物に発表」することに含まれないと解釈されている(最高裁第二小法廷平成元年11月10日判決)。意匠法の解釈についても、特許法と同様に解釈すべきことは前記説示したところから明らかであり、規定の文言の違いをとらえて、意匠法においては異なった解釈をすべきであるとの原告の主張は採用することができない。(以下省略)