◾️「パーフェクトワールド/A Perfect World」(1993年・アメリカ)
監督=クリント・イーストウッド
主演=ケビン・コスナー クリント・イーストウッド ローラ・ダーン T・J・ローサー
ケビン・コスナーとクリント・イーストウッドの共演が話題になった本作。ケネディ大統領暗殺直前の1963年のテキサスを舞台に、脱獄犯と人質の少年の心の交流を描いたロードムービーである。50年代、60年代のノスタルジックなアメリカを振り返る作品は数々あるが、「パーフェクト・ワールド」が他と違うのは、変わりゆく時代を描きながら、病める現代社会の姿が見え隠れすることだ。
ローラ・ダーン扮する女性犯罪学者とチームを組まされるのは、昔気質の警察署長クリント・イーストウッド。経験と腕っぷしで犯罪に立ち向かった警察官と、多発する冷酷な犯罪を分析する学者という相入れないペア。時代の変化がそこには暗示される。また、スクリーンのこちら側の僕らは、大統領が銃撃される事件がその後起こることを知っているから、イーストウッドがますます過去の人に見えて対比が際立ってくるのだ。僕ら世代は、2001年の同時多発テロという大事件、2011年の東日本大震災がどれだけ大きな影響を現実社会にも銀幕の中にも与えたのかを知っている。アメリカにとっての1963年も、そんな年なのだ。
さらに現代に通ずる様々なエピソードが散りばめられている。FBI捜査官がローラ・ダーンにしつこく迫る場面はセクシャルハラスメント、いや21世紀の目線なら、#Me Tooと騒がれたまさに今を思い浮かべる方もあるだろう。少年が宗教上の理由でハロウィンに参加できないエピソードは、信条や価値観の多様化。さらに主人公が息子を殴る農夫に銃を突きつけて「愛していると言ってやれ!」と言う涙を誘う場面。胸を締め付けられるような事件報道が続く今を感じずにはいられない。
完璧な世界なんてありはしない、とイーストウッドは映画の中で語るが、その後発展を続けていくアメリカと言う国も、パーフェクトワールドとはなり得なかった。映画で描かれた時代とその後、そして今の世界を考えると、ラストに感じる切なさは、さらに深いものになるだろう。