◾️「渚にて/On The Beach」(1959年・アメリカ)
監督=スタンリー・クレイマー
主演=グレゴリー・ペック エヴァ・ガードナー フレッド・アステア アンソニー・パーキンス
社会派映画監督であるスタンリー・クレイマー作品には、これまで何度も心をを揺さぶられてきた。人種差別を扱った「招かれざる客」「手錠のままの脱獄」、人を裁くことの難しさを思い知った「ニュールンベルグ裁判」、進化論をめぐる裁判劇で劇場未公開の「聖書への反逆」(現在のタイトルは「風の遺産」)。核戦争を扱った「渚にて」は未見だったのだが、今回初めて鑑賞。
核戦争後のオーストラリア。世界は核汚染が広がり、オーストラリアにもその危機が迫ろうとしていた。それまでの普通の生活が送られているように見えるけれど、人類が地球上からいなくなる日は確実に近づいている。アメリカ海軍の潜水艦艦長ドワイトはパーティでモイラと出会う。妻子を戦争で失ったドワイトと寂しさを抱えていたモイラは、葛藤がありながらも次第に惹かれ合う。その悲恋を物語の軸にしながら、終末に向買う人々の心情が語られる。幼い子供を抱えた若い軍人を演じたアンソニー・パーキンスも、学者を演じた踊らないフレッド・アステアも名演。
60年前に製作されたこの映画が静かに訴える核への警鐘。今の視点で観ても同じことが起こらないとは到底言い切れない。残された400樽の酒と向き合って、生きていることを確認するかのように自動車レースに興じる人々。誰もいないサンフランシスコの風景にゾッとした僕らは、映画のラスト無人の街に背筋が凍る。広場で祈りを捧げていた集会会場に残された横断幕。「兄弟よ、まだ時間はある」のひと言は、切なくて恐ろしくて。製作当時から時は流れて、冷戦の終結も経た現在。それでも核爆弾は廃棄どころか作られ続けている。60年経っても人類は何も変わっちゃいないのだ。それが何よりも恐ろしい。