◾️「2重螺旋の恋人/L'amant Double」(2017年・フランス)
監督=フランソワ・オゾン
主演=マリーヌ・ヴァクト ジェレミー・レニエ ジャクリーン・ビセット ミリアム・ボワイエ
最初に申し上げる。猫好きで怖いもの嫌いなら、この映画観るべからず。
作品を発表するたびに様々な作風を魅せるフランソワ・オゾン監督。双子の精神科医兄弟をめぐって揺れるヒロインの心理を描いたスリラー映画。しかもこれまでのオゾン作品の中でも最高に危険で、妖しくて、ショッキングで。ヒロインだけでなく、観ている僕らも精神的に追い詰められる。同じフランス映画でも、最近観た「告白小説、その結末」や「エル」よりも断然怖かった。
映画に出てくる精神科医は、だいたいトラブルに巻き込まれる役柄。フレンチスリラーの隠れた秀作「見憶えのある他人」では殺人を告白されるし、人気作「シックス・センス」では死んだ人間が見えると言われる。ところがこの「2重螺旋の恋人」に登場する一卵性双生児のルイとポールは、ヒロインのクロエをかき乱す存在。
自分の事を語りたがらないポールにクロエが疑念を抱くことから物語がねじれ始める。よく似た男性を街で見かけるが、これが同じ職業である兄ルイだった。ポールが素性を隠す真相に迫りたくて、兄ルイの治療を受けるクロエ。ところが優しい弟と違って激しいルイはクロエに迫り、いつしか身体の関係をもってしまう。ルイの口から真相に迫るヒントが出てくるが、その度に謎はかえって深まり、いつしかクロエは精神的に混乱していく。
心の迷宮に迷い込むヒロインを、オゾン監督は映像でうまく表現しているし、それがなんとも思わせぶりだから物語にグイグイ引き込まれる。渦巻きのような形状の螺旋階段、登場人物か幾重にも重なって映る鏡、ガラスに映る像。クロエが働く美術館に展示されたどこかグロテスクな展示物たち。観ているこっち側には、クロエに絡みつく双子兄弟のイメージで不安を煽る。かつて「シャイニング」に震え上がった映画ファンは、きっと双子の子供が並ぶイメージショットだけでもう怖くなる。それに冒頭は子宮内部の映像から始まるのに驚かされるから、ここは何か隠された意味が?と観ている間ずーっと引きずってしまう。
結末にも驚かされるが、それ以上に、ラストにたどり着くまで観客が焦らされる感覚がたまらない。これは二度三度観たくなる人いるだろうなぁ。クローネンバーグの「戦慄の絆」を思い出させるが、あのおどろおどろしさよりはこっちが好き。原題の"二重の恋人"を"二重螺旋"としてDNAを引っかけているのはなかなか上手い邦題。