Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アイリッシュマン

2019-12-15 | 映画(あ行)






◾️「アイリッシュマン/The Irishman」(2019年・アメリカ)

監督=マーチン・スコセッシ
主演=ロバート・デ・ニーロ アル・パチーノ ジョー・ペシ ハーベイ・カイテル アンナ・パキン

正直言うと観る前に不安があった。マーチン・スコセッシ監督の犯罪映画ってフィルモグラフィーから見れば目新しくもないし、しかも出演がデ・ニーロ、ペシにハーベイ・カイテルのおまけまでついてる。大手が金を出さないからNetflixで同窓会しました、ってノリだと勝手に思っていたのだ。とんでもない勘違いだった。

車椅子の老人が語り始める物語は、半世紀以上に及ぶアメリカの影の歴史。年寄りの犯罪回想映画はこの世にいくらでもある。悪事を振り返るだけの映画ならセルジオ・レオーネ監督作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」が白眉。しかし大ベテランのスコセッシはそこに止まらず、裏社会に身を投じた男が家族と向き合うもうひとつの物語を示してみせた。これは主人公の後悔と懺悔の物語であるとともに、血塗られた映画を世に送り出してきたスコセッシのひとつの落とし前だと思える。200分超なんて耐えられるのかと心配していたのが杞憂。近頃"映画ではない"発言が物議を醸したスコセッシだが、自分の映画を世に示した。さすがだ。

ファーストシーンの老人の語りから、裏社会のスラング「ペンキ塗り」をビジュアルで示す数分間で心を掴まれた。巧い。近頃の映画って分かりやすく作るから、こういう"含みのある"言い回しはなかなか用いられない。そして何よりもキャスティングで納得させられる。口数少なく凄みの効いたジョー・ペシ、逆によく喋り感情のままに行動するアル・パチーノ。デ・ニーロが間に入って振り回されている様子は、裏社会の力関係あってのこと。年齢を重ねて人の良い役柄もこなせる今のデ・ニーロだからこそ納得できるような演技。

アル・パチーノが演じたジミー・ホッファは、かつてジャック・ニコルソンが演じており、ジミーをモデルにした人物を若きシルベスター・スタローンも演じたことがある。ホッファ失踪事件は未だに謎の部分が多いと聞くだけに興味深い。他にはケネディ大統領の時代の描写が秀逸。暗殺のニュース直後にインスタントコーヒーのCMが流れる場面。殺しすら手軽なものだと言わんばかりの冷たさ。また、新たな登場人物が出てくるとその後の死因が示される演出も面白い。主人公たちとのその後の関わりが希薄なのかを暗示すると共に、主人公3人に観客の興味を絞り込む効果もあったのでは。

200分超を長いとは感じなかった。近頃ないインパクトがある秀作だが、残念に思ったのは、主人公の生き方への後悔が描かれながらも、アンナ・パキン演ずる娘との関係を除いては、観客をもセンチメンタルな感情にさせるような情感は響かなかったこと。近頃、年寄りの黄昏映画が続いたせいかもな。


『アイリッシュマン』最終予告編



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