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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

傷だらけの栄光

2024-07-10 | 映画(か行)


◾️「傷だらけの栄光/Somebody Up There Likes Me」(1956年・アメリカ)

監督=ロバート・ワイズ
主演=ポール・ニューマン ピア・アンジェリ サル・ミネオ アイリーン・ヘッカート

実在のボクサー、ロッキー・グラジアノが世界チャンピオンになるまでの半生を描いた伝記映画。ジェームズ・ディーン主演で企画されていたが、急逝でポール・ニューマンが主役を演ずることになったとのこと。勝手な想像だが、ジミーだったら"実は繊細なツッパリ"というイメージが既にある。自制ができず、すぐに拳を振りかざす不良少年役には、優しすぎたかも。一方でポール・ニューマンは粗暴で拳以外に頼れないどうしようもなさがうまい。後に演ずるブッチ・キャシディや「暴力脱獄」のイメージで勝手にそう思ってしまうのかも。

映画が始まって間もなく、主人公がニューヨークの下町を逃げ回る場面から、映像に惹かれてしまった。勝手にロバート・ワイズ監督作「ウエストサイド物語」の空撮オープニングとシャープな映像を重ねてしまう映画ファン。とにかく主人公ロッキーが自分を抑えられない性分なのが、観ていて辛い。盗みと暴力しか周りにない環境が彼をこんな行動に導いてしまうんだろう。徒党を組んでる仲間には「理由なき反抗」のサル・ミネオか…と思ったら、仲間の一人にデビュー作となるスティーブ・マックイーンが!😳

服役、出所を繰り返す前半。唯一の味方である母親からも「限界だ」と言い放たれて、社会的にも追い詰められていく様子が観ていて辛い。ダメ男が頑張る映画は好きだけど、この主人公はとにかく頑張らない。だからますます観ていて辛くなる。リングの中で拳を振るい、その実力を認めてくれる存在が出来てからの後半は小気味いいサクセスストーリーになるかと思いきや、過去との因縁や社会性のなさから失敗を繰り返す。

その様子は、エンターテイメントとして提示される分かりやすいアメリカンドリームに慣れた観客には、焦ったくて仕方ないのではなかろうか。3歩進んで2歩下がる、って歌の文句じゃないけれど、まさにそんな人生。決して気持ちのいいサクセスストーリーではない。しかし、こうした紆余曲折や葛藤のドラマが誰の人生にもついて回るもの。

クラシック映画を観ると、いつの時代にも通じる教訓のような何かが目の前に示されるような気持ちになる。「傷だらけの栄光」もそんな映画だ。強烈な右の拳以外はダメなところだらけの男だが、"天にいる誰かがオレを好いてくれている"と言う。それは少しは謙虚になった彼の変化を示す言葉なんだろう。ラストシーンはこの台詞に続いて、"地上にいる誰かもね"と愛妻のひと言が添えられる。素敵な幕切れだ。

映画冒頭、子供相手を殴る父親にイラッ💢とするが、彼も故あってグローブを置いた元ボクサーであることが分かる。母親、恋人、カフェのマスターなど、ダメ男な主人公を取り巻く人々のドラマも見応えがある。クライマックスの世界選手権戦の緊張感。カットバックを用いた編集が見事で、多くの人がその試合に様々な思いがあることが伝わってくる。「ウエストサイド物語」のクインテットの場面を思い出す。単なる殴り合いに終わらないのだ。観てよかった。




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