■「ミッドナイト・イン・パリ/Midnight In Paris」(2011年・アメリカ)
●2011年アカデミー賞 脚本賞
●2011年ゴールデングローブ賞 脚本賞
監督=ウディ・アレン
主演=オーウェン・ウィルソン レイチェル・マクアダムス マリオン・コティヤール キャシー・ベイツ
中学生のとき「スリーパー」を観て以来、ウディ・アレンのファンであり続けている僕(なんておマセな)。初期のナンセンスコメディから、「アニー・ホール」からの快進撃、80年代後半からのベルイマン調のシリアス劇、監督業に徹してからの円熟期、私生活のスキャンダル、オスカー受賞の夜にクラブでクラリネット吹いてる自由な生き様・・・。それぞれの時代の作品によさがあるけれど、一貫してウディ先生は僕らに男と女について考えさせてくれる。それは自身の体験に基づく自省も込められているからか唸らされてしまう。だが、それでいて楽しくて美しくて、素敵なのがウディ・アレン映画。もちろん、観る人によって好きずきはあるだろうけど。マーチン・スコセッシとともにニューヨークにこだわる映画作家と言われ続けていたが、ニューヨークを去ってからウディ大先生はヨーロッパを舞台に作品を発表する。スカーレット・ヨハンソンを主役に据えた「マッチポイント」は確かに面白かったし、「それでも恋するバルセロナ」は恋愛について考えさせられる秀作だった。だがどこか借り物のスタイルのようなものを感じていたのも事実。オスカー脚本賞を受賞した新作「ミッドナイト・イン・パリ」は違う。随所にかつてのウディ・アレン映画の雰囲気を感じさせてくれるのだ。
冒頭のパリの風景を綴る数分間の映像がまず素晴らしい。名所を撮る見物風の視点かと思いきや、その場面は意外と長く続き雨に濡れたパリの町並みが映し出される。それはニューヨークの風景をラプソディ・イン・ブルーをバックに映し出す「マンハッタン」の再現だ。だがそれで終わらない。雨に濡れたパリを美しいと観客に納得させて、それが主人公が美しいと感じる価値観だという展開。それを婚約者やその家族が理解してくれないけれど、スクリーンのこちら側は既に彼の味方になっている。しかもラストシーンそれが見事に呼応する。上手いよなぁ。
オーウェン・ウィルソンが演ずる主人公は、ウディ・アレンが乗り移ったようだ。これまでも様々な男優がウディ的な役柄を演じてきたが、「シャンハイヌーン」あたりのイメージからは想像できない快演。女性が好きだけどそれ以上に自分の価値観が大事で、スノッブな男が嫌いだけど彼らが語るうんちくは自分自身嫌いではない。「アニー・ホール」の主人公アルビーを思い出させるじゃない。そして男と女についてちょっと考えさせられる映画。経験豊富なウディ大先生は作品ごとに様々な恋愛観を示してくれる。今回は婚約者に自分の価値観を認めてもらえない主人公が、最後の最後にそんな相手に巡り会えるかがこの映画のクライマックス。タイムスリップした1920年代で多くの芸術家が恋したアドリアナ(マリオン・コティヤール)に恋をする。しかも相思相愛で自分の小説に感動してくれてる。でも生きるべき場所が違う二人が結ばれることはない・・・その切なさ。感動を共有することは一緒に生きていく上で大事なことだと常々思っているけど、本当にそういう相手に巡り会うことは難しい。それでも人生は捨てたもんじゃない、とウディ先生は説く。雨に濡れて歩く二人。なんてロマンティックな!。そしてノスタルジーに浸るだけでなく、人生は前を向いて歩め、と僕らにメッセージを示してくれる。豪華なキャストも楽しいが、「ミッション・インポッシブル4」の冷酷な殺し屋だったレア・セドゥーをキャスティングしたのもナイス。役柄のギャップからか笑顔がとんでもなく魅力的。
主人公が憧れる1920年代のパリ。タイムスリップした先で数々の芸術家が実名で登場するのが楽しい。フィッツジェラルド、ピカソ、ダリ、ブニュエル、ドネ・・・その名を知らずにこの映画を観るのは、面白さも半減してしまうかも。そういう意味ではロマンチストな文系男子向けの映画かもしれない。もちろん僕は大好きです!
私も先週観てきてとても楽しめました。ストーリーは違いますが、ちょっとだけ、パリ、恋人たちの2日間も思い出しました。
次のローマ作品?も楽しみです。