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お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

千年女優

2024-02-11 | 映画(さ行)


◾️「千年女優」(2001年・日本)

監督=今敏
声の出演=荘司美代子 小山茉美 折笠富美子 飯塚昭三 津田匠子

パプリカ」に満点つけておきながら、今敏監督の旧作を観ていなかった。昨年リバイバル上映で「パーフェクト・ブルー」を観て、演出と表現の凄さに圧倒された。そして未見だった「千年女優」が、再びFilmarksの上映企画で映画館で観られるありがたい機会が。

しかし、なかなかレビューをまとめられずにいた。一つの理由は検索してネタバレ考察の数が尋常じゃなく多いことだ。それだけ多くの人を考えさせた映画である。論客になる気はないし、自分が感じた「すげえ」をうまく言葉にできない気がしたのだ。もう一つの理由は、2024年新年早々に観たせいだ。関東大震災の年に生まれ、大きな地震の度に何らかの転機が訪れた千代子の人生。そのインタビューの真っ最中にも再び地震が起こる。スクリーンのこっち側で元日に起こったばかりの地震災害を思うと、心穏やかではいられなかった。映画は楽しんだけれど、地震の場面の度に現実に引き戻されてしまう。

そんなこっちサイドの事情こそあるが、この映画は自在に時空を飛び回り、そのイマジネーションに圧倒される。千代子が子供の頃に出会った"鍵の君"に憧れ、彼にいつか巡り合いたいとどれだけ思い続けたのかが、彼女の半生と共に描かれる。

「パプリカ」も映画愛なしに語ることのできない作品だったが、本作も然り。映画の撮影現場で起こった出来事が語られる一方で、千代子が演じた歴代のヒロインが"鍵の君"を追いかけ続ける。いつしかインタビューしに来た立花源也も映画の中に入り込んでいく。幾度も千代子の出演作品を観て、現場も知っている源也だから、インタビューしながら、場面を再現して会話しているのが現実なんだろう。

けれどそのやり取りが千代子の映画世界とつながるイメージになることで、二人の思い入れが伝わってくる。千代子が時代劇からSFまで演じた歴史と時代から、その年月は千年に達する。なんて壮大な恋絵巻。他の映画で感じたことのないトリップ感がある。映画館で観られて本当によかった。

千代子に千年長寿の酒を飲ませる老婆は「蜘蛛巣城」を思い出させる。また老婆が回す糸車が場面転換に用いられるのは、「無法松の一生」で同様に使われた車輪のイメージに重なる。映画の中で映画に入り込み、そこに現実世界の映画が重なる。地震というリアルがなければ、僕ももっとのめり込んで観ていたに違いない。

実績のある声優陣もいい仕事。脇役ながら、鍵の君役の山寺宏一と、彼を追い続けた官憲役の津嘉山正種。このイケボ二人は強い印象を残してくれる。音楽は本作で今敏監督と初めて組んだ平沢進。「パプリカ」同様に素晴らしい独自の世界を響かせる。

ここまで綴ってみると、繰り返し観て考察したくなる人の気持ちがわかってきた気がする。でも解釈は人それぞれ。千代子の最後の台詞「だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもん」じゃないけれど、解釈を頭の中で楽しんでいる自分が好きなのかもしれない。




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