Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

華氏119

2018-11-15 | 映画(か行)
 
◾︎「華氏119/Fahrenheit 11/9」(2018年・アメリカ)
監督=マイケル・ムーア
 
中間選挙が終わり、上院は共和党が多数、下院は民主党が多数のねじれ状態に。正直言う。ホッとした。議会で意見が通りにくくなることで、カルタだかハナフダだか知らないが(トランプだって)大統領氏の暴走も少しは抑えられるだろう。でも大統領令という強権はあるし、議会のお仕事ではない外交分野で実績を強調すべく、ますます強気になるかもしれない。でも有権者が野党に票を投じるという行動に出たことは、アメリカがこういう面では健全なのだと感じられる。
 
さて「華氏119」だが、やたらとカルタ(だからトランプ)大統領批判の映画だ、と日本では宣伝されまくってる本作。人権意識はカケラもないし、反対意見は聞きもしない。そうした人物の問題は確かに映画でも描かれる。そもそもテレビ出演のギャラを上げるための作戦として大統領選出馬を思いついたというのは衝撃。しかし注目を浴びたことで、これをある種のビジネスチャンスと捉えて行動した感覚と、アメリカという国を売り込もうとする気概はすげえと思う。しかし、国家の上に立つ者が協調を知らず横暴なのは問題だ。マイケル・ムーア監督は、ハナフダ(だからトランプ)大統領を批判はしているが、映画の主題はそこではない。そこまで資質に欠ける人物が何故大統領選挙で勝てたのか、彼のような大統領を生んでしまったアメリカという国の現状に鋭く迫ったのがこのドキュメンタリー映画なのだ。日本の映画宣伝はほんっと下手。この売り方じゃ、2時間ハナフダ大統領をディスり続ける映画だと誤解されても仕方ない。実際はそうじゃないのに。
 
現状の政治に不満を抱かせてしまった民主党時代の問題点を、映画はハナフダ(だからトランプ)大統領の批判以上に強烈に描く。保険制度も理念も悪くないけど、結局民主党時代にやってきたことは妥協に次ぐ妥協。その最悪な事例として、ミシガン州で民営化がもたらした水道汚染事件を取り上げる。救いの主だと思われていたオバマ大統領までもがあんな対応をしたとは監督の恣意的な表現もあるだろうけど、ともかく現状の政治にアメリカ国民の少なくない人々が失望していたのは確かだ。
 
そして映画は、そんなアメリカで立ち上がる人々の姿を映し出す。米国でも最低の雇用環境である教員たちのストライキ、銃乱射事件の後で高校生たちが起こした行動。いやもう、涙が出る。現代アメリカの政治は責められるべき問題を抱えているけど、こうしてあきらめないで行動する人たちがいる。選挙で意思を示す人たちがいる。まだまだ捨てたもんじゃない。
 
じゃあ、わが国はどうなのか。誰の目にも不可解なことばかりが起こって、連日報道されているのに何一つ明らかにされない。これまで長い歴史上政府が守ってきたことが突然ひっくり返される。野党は野党で不甲斐ない。政治はどこを向いているのか。映画「華氏119」で描かれていたのはアメリカの現状だけど、今まさにわが国で起きている、起きようとしていることだ。「人々があきらめた時に独裁は生まれる」という言葉が強烈に心に残る。
 
マイケル・ムーア監督の見せ方は本当に巧い。音楽の使い方も実に見事。「オーメン」のテーマ曲の使い方には思わず吹き出したww。この映画はムーアの意見であり、鵜呑みにするのは良くない。けれど、あなたがこの映画を観て少なくとも「今のままでいいのか?」という気持ちになることは正しいことだ。それは監督にノセられているからじゃない。現実の怖さをあなたが感じたからなのだ。
コメント
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