■「クリムゾン・タイド/Crimson Tide」(1995年・アメリカ)
監督=トニー・スコット
主演=デンゼル・ワシントン ジーン・ハックマン ジョージ・ズンザ ヴィゴ・モーテンセン
「Uボート」「深く静かに潜航せよ」「レッド・オクトーバーを追え」など潜水艦ものに失敗作は少ない。本作はトニー・スコット監督に製作ジェリー・ブラッカイマーという売れ線映画専門チームが、潜水艦という閉鎖空間を使ったサスペンスに挑んだ意欲作。まず理解しておかねばならないのは、映画冒頭に示される言葉。アメリカ大統領とロシア大統領と並んで、核弾頭を積んだ潜水艦の艦長は世界で最も力を持つ者である・・・つまり核弾頭の発射ボタンを押す権限を艦長が持っているということ(現在はその権限なし)。
主人公は、潜水艦アラバマ号の艦長である叩き上げの軍人ジーン・ハックマンと優秀な成績が認められて副艦長となったデンゼル・ワシントン。ロシアで勃発したクーデターで反乱軍が核ミサイル基地を占拠。アメリカと日本にミサイルを撃とうとしたことから、アラバマ号に出撃命令が下る。ついに核ミサイルの発射命令が送信されるのだが、続いて送られてきた命令は無線機の故障で一部しか受け取ることができなかった。敵は今にも発射しようとしているのに、現在出されている発射の命令を遂行しない訳にいかないと主張する艦長。通信を全文確認するまで発射しないように主張する副館長。二人の意見の食い違いは、やがて艦内の対立に。ロシアのミサイル発射準備が整う時間が迫る中、その対立は銃を突きつけ合う事態に発展する・・・。
東西冷戦を背景にした時代によく撮られたような題材(「博士の異常な愛情」や「未知への飛行」など)を、現代に置き換えて撮ったアイディア、映画全体の張り詰めた緊張感は確かに面白い。潜水艦が出てくる場面を技術で撮った「レッド・オクトーバーを追え」とは違って、潜水艦の姿を見せるのは最小限で人間ドラマに的を絞っているのも好印象だ。それぞれの人間性や考え方(核を使用することへの是非など。人種の話には行きそうで深入りしない)の違いを会話の中で示すのも巧いなと感じる。特に部下への接し方でそれは特に表れる。艦長は出航前に全員を前に演説をする。この鼓舞する演説の見事なこと!。
「君たちに望むのは最大限の努力だ。それができないヤツは空軍に行け」
「私に従えない者はケツの辺りに刺激的な感覚を覚えるだろう。私の蹴りが入るからだ」
とユーモアを交えつつ、世界に冠たる国の誇り高き船に乗る優秀な乗組員たちを奮い立たせる名演説。僕は日頃こういう男臭い映画を観ないからなのか、この場面のカッコよさに鳥肌がたつ。一方で副艦長デンゼル・ワシントンの心のつかみ方も見事だ。その人にしかできない役割とその重大さを理解させる説得術。特にアメリカ人なら大好きな「スタートレック」を例に出して、無線修理に手こずる乗組員を励ます場面がいい。
「カーク船長はチャーリーを呼んで「もっとパワーを」と言う」「ワープスピードが欲しい・・・」
「そうだ、俺はカーク船長。君はチャーリーだ。君が無線を直せないと何十億という人が死ぬんだ」「・・・」
「できるな?チャーリー」「はい、船長!」
この映画の脚本はクエンティン・タランティーノがリライトしたと伝えられるが、映画「眼下の敵」のクイズをする場面と、「スタートレック」の挿話は彼が手を入れた部分なのか?。この台詞、日常生活でも使ってみたい!
映画の結末はすぐに想像がつく。やっぱりねー、と思えるものだけにそこに驚きはないのだけれど、そこはブラッカイマー作品なんだからと思えば納得ではないか。命令を遵守することと、法を遵守すること。核にしても権限にしても大きすぎるパワーをもつことは、時におごりや取り返しの付かない勘違いにつながることもある・・・というのがこの映画の教訓なのかな。