◼️「ニューヨーク・ニューヨーク/New York, New York」(1977年・アメリカ)
監督=マーチン・スコセッシ
主演=ロバート・デ・ニーロ ライザ・ミネリ ライオネル・スタンダー バリー・プリマス
マーチン・スコセッシ作品は、「タクシードライバー」を筆頭にニューヨークを舞台にした作品が多い。この「ニューヨーク・ニューヨーク」は、往年のハリウッドミュージカルへの愛と、大都会ニューヨークへの思い入れが込められた作品。スコセッシ監督は、古くからあるスタジオ撮影に現代の感覚を取り入れようと試みた。
いかにもセットだとわかる背景や、わざと歩道を高くするなどデフォルメされた街並み。衣装もやたらと色彩が鮮やかで、襟が大きかったり、異常な量の肩パットが入れられたりとこちらもデフォルメされている。デ・ニーロが身につける鮮やか茶系のスーツが好き。でも、平成の初めに黒シャツにオーバーサイズ気味の紫色のソフトスーツ(「ガンダム 鉄血のオルフェンズ」オルガ・イツカをイメージしてください)を着ていた僕ですら、これは着れないと思う。あ、関係ねえな(笑)。
スタジオに用意された作り物の背景と夢物語を、演者の実力とパフォーマンスで盛り上げる。これは従来のハリウッド製ミュージカル、またライザ・ミネリが得意としてきたところだ。そこにスコセッシは最大限の敬意を払っている。劇中演じられるミュージカル「Happy Endings」は、単独の作品になりそうなくらい凝ったものだし、何よりもニューヨークに強いこだわりがあるスコセッシが、ハリウッドのスタジオにニューヨークを作り上げて撮ったなんてかなりの冒険。
一方でロバート・デ・ニーロとスコセッシは即興の演技や演出を好む。例えば、この映画でのプロポーズ場面は生々しくてやたら長い。また二人の出会いの場面もテーブルを挟んで口説き続けるデ・ニーロに、ライザ・ミネリは「No !」の台詞だけで応酬を続ける。デ・ニーロのアドリブにライザは影響を受けたという。この映画、スコセッシには失敗作だの、ミュージカルシーンを切れば秀作だのと言われているが、舞台裏を知れば知るほど僕は深みを感じるんだけどなー。
好意的でない感想もある映画だが、劇中、妻に捧げる曲として作られた表題曲New York, New Yorkの素晴らしさは、誰しもが認めるところ。フランク・シナトラもカヴァーし、日本ではビールのCM等で使われ、ご当地ニューヨーク市では非公式市歌として親しまれている。
利己的で危ないサックス吹きは、この頃のデ・ニーロのイメージそのまま。プレイする姿もカッコいい。そしてスター街道を突っ走るライザ・ミネリは、エンターテイナーとしての彼女自身が重なる。そんな根っからの表現者二人のすれ違い。切ないラストシーンが心にしみる。
「ラ・ラ・ランド」(大嫌い)がこの作品へのオマージュという話もあるけれど、こっちは舞台のミュージカル場面を含む人間ドラマであって、あっちは音楽映画としてのミュージカル。あんな辛気臭いミュージカルとは違うのだよ。