(前回からの続き)
はじめにドイツ。名目GDP世界第4位で90兆円あまり(2011年)の対外純資産を持つ欧州一の経済大国です。
現在、ドイツ経済は良好です。2011年の経済成長率は、軒並みマイナスとなった他のユーロ圏諸国を尻目に3%を越える高い水準となりました。今年2012年も1%程度のプラス成長を確保できそうです。経常収支のほうも、ユーロ安をテコにした輸出が好調なことなどから、2011年の黒字額は2000億ドル以上と世界一。そして失業率はユーロ圏では最低水準の6%弱となっています。
そんな好況を謳歌するドイツですが、他方で、どうやら巨額の財政支出を負担せざるを得ない状況に追い詰められつつあるようです。ただしこの場合の財政支出とは、外需が好調な中で公共事業を増やすといった需要創出策のことではなく、ユーロ圏のソブリン危機に対処するための支出のこと。
まずは本日7月9日に発足する予定の「欧州版IMF」と呼ばれるESM(欧州安定メカニズム)への出資等です。このESMの規模は、これまでの金融安全網であったEFSF(欧州金融安定化基金;2013年6月までの時限措置)を引き継いで、2013年7月に7000億ユーロ(約70兆円)となる予定です。このうちドイツはユーロ圏諸国では最大の約1900億ユーロ(約19兆円)分の出資および保証をすることになっています。
次に想定されるのは自国金融機関に対する公的資金投入でしょう。欧州の主要金融機関と同じく、ドイツの金融機関もPIIGS諸国債や債権等を大量に保有しています(ドイツのPIIGS諸国向け与信残高は約3300億ユーロ[2010年])。欧州ソブリン危機の深刻化にともなってこれらの価値が下落して含み損が拡大し、これら金融機関の財務が劣化しています。このため、スペインなどに続き、ドイツも近いうちに自国銀行等への公的資金注入を行わざるを得なくなるだろうとみています。
そして極め付きとなりそうなのがTARGET2を通じた融資金が焦げ付くリスクが出てきたこと。TARGET2とはECBとユーロ圏諸国の各中央銀行とのあいだの資金決済システムのことで、これまでに同システムの下、ドイツ中銀等を介してPIIGS諸国などの中銀にドイツの余剰資金約6000億ユーロが貸し出されています。PIIGS諸国の現状からすれば、将来、これらのかなりの部分が返済されなくなるおそれが高いとみるべきでしょう。
かりにギリシャなどが債務不履行となってユーロを離脱したりしたら、TARGET2に流れていた資金の多くが回収できなくなり、ドイツは大きな損失を被ることになるでしょう。この焦げ付きを埋め合わせるために巨額の財政資金が必要となるばかりか、もしかしたらこのTARGET2の破綻がユーロ崩壊の引き金を引くことにもなりかねません。
こうしてみてくると、どうもドイツはユーロ圏で「一人勝ち」となったことの高過ぎる代償を支払うことになりそうです。もっともいまのドイツの繁栄は為替リスクのないユーロ圏への輸出がもたらしてくれたもの。だから、ある意味で、ドイツは主要輸出相手であるユーロ圏の救済コストの多くを負担する義務があるということかもしれません。
ドイツの対GDP輸出依存度が50%を超えている(2010年)ことからも分かるように、ドイツにとっては輸出、とくにユーロ圏への輸出こそが生命線。この生命線を維持・強化するために「ユーロ共同債」といったユーロ圏諸国の要請に応じてひたすら金融関連の財政支出を拡大するのか、それともどこかで耐え切れなくなって、ギリシャへの資金供給停止といったような、ユーロそのものの破壊のスイッチを押すのか・・・。
どちらにしても、ユーロ圏諸国とともにドイツには厳しい前途が待ち受けていそうです。
(続く)
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