内科学会講演会2018がオンデマンドで見られるようになっている。左方移動の話が面白い。
「ルーチン検査(血算・生化学・凝固検査)にて細菌感染症の病態を把握する」
信州大学医学部病態解析診断学 本田孝行先生
好中球は生体防御の中心的役割を果たす
1.細菌感染巣に移行し、細菌を貪食する
2.好中球減少により、細菌感染症を発症する
↓
好中球の生体内動態を推測できれば細菌感染症の検査として使用できる
左方移動の程度は好中球消費量と産生量を反映
1.細菌感染症は好中球を消費する病態と定義
・好中球消費が多いほど重症
2.好中球消費が多ければ、より幼弱な好中球が出現
・分葉核級が不足すれば桿状核球を供給
・桿状核球が不足すれば後骨髄球を供給
・後骨髄球が不足すれば骨髄球を供給(末梢血に出るのは骨髄球まで)
3.左方移動は骨髄の好中球産生量も反映
・網赤血球の割合は骨髄の赤血球産生状態を反映
・幼弱好中球の割合は骨髄の白血球産生状態を反映
左方移動
定義
白血球分画において桿状核球が15%以上
朱・斉藤の実用的基準
軽度左方移動 桿状核球が分葉核球の半数以下
中等度左方移動 桿状核球が分葉核球の半数から同数まで
高度左方移動 桿状核球が分葉核球よりも多い(骨髄球、後骨髄球も出現)
(細菌感染症の重症度を反映)
例)肺炎球菌肺炎
1.肺胞内に肺炎球菌が進入
2.マクロファージが貪食 好中球遊走因子を出す
3.好中球が肺胞内に集簇
4.菌が消失して好中球も減少 線維芽細胞が出現(炎症はまだある=器質化)
好中球の変動
20時間までは低下する(ここは捉えられない)
1日経過して増加してくる
良くなってもまだ増加していることも(炎症を反映)
好中球数は白血球数と同じ意味で使用してよい
桿状核球の割合(左方移動)
3~4日で治まる(好中球数、CRPはまだ炎症を反映して高値)
左方移動と白血球数(ここが一番重要なポイント)
1.左方移動なし+白血球増加
好中球消費はない
細菌感染症以外で好中球が増加している(ステロイドなど)
2.左方移動なし+白血球減少
好中球消費はあるが、骨髄での産生が亢進していない
細菌感染症の初期
3.左方移動あり+白血球増加
好中球消費があり、骨髄での産生が亢進している
細菌感染症があるが、好中球の供給が十分である
4.左方移動あり+白血球減少
好中球の大量消費があり、骨髄での産生も亢進している
細菌感染症はあるが、好中球の供給が不十分で危険な状態
(左方移動も白血球数も連続数であり、時系列でより詳しく病態が捉えられる)
左方移動のない重症細菌感染症(好中球消費量が少ない)
左方移動の有無および白血球数では判断できない、つまり好中球の消費増大で論じられない重症細菌感染症がある
消費される白血球が少ないか、血中から好中球を消費しにくい感染症で、骨髄で好中球が増産されないので左方移動がなく、白血球数増加もない
1.感染性心内膜炎
好中球が対処すべき細菌数が少ない
2.細菌性髄膜炎
血中から動員される好中球が少ない
3.膿瘍
血中から動員される好中球が少ない
なぜ、左方移動は使用されなくなったのか
1.細菌感染症において好中球の情報は重要か
・好中球が増加すれば、細菌感染症の可能性がある
・好中球の割合が多ければ、細菌感染症の可能性がある
・左方移動の所見は、上記2つより優れていない
2.自動血球計測器が開発された頃の大規模研究の誤り
・左方移動は好中球増加、好中球の割合増加よりも有用ではない
・一時点(入院時)で行った検査の研究であった
3.左方移動はすべての細菌感染症のすべての時期の所見ではない
・左方移動を生じない重症細菌感染症がある
・細菌感染症の初期(24時間まで)は左方移動は生じない
・感染巣から細菌が排除され左方移動はなくなっても、白血球数上昇、CRP高値は継続している
・白血球数と左方移動で、細菌感染症の病態が解明できる
・一時点ではなく、時系列で解釈すると情報が倍増する
・ルーチン検査は、単独ではなく、複数項目で解釈すると、その威力を増す
↓
CRPを加えると、さらに何がわかるか
C-reactive protein(CRP)
・Streptococcus pneumoniaの多糖体と沈降反応を示す115000 daltonの蛋白で、206のアミノ酸から形成される
・マクロファージの活性化によりIL-6(TNFα、IL-1βなども関与)が産生される
IL-6は肝細胞に作用してCRPを産生する
・サイトカイン刺激から4-6時間で産生され始め、8時間ごとに倍増する
ピークは36-50時間後である
・半減期は19時間であるが、ベースラインに戻るには単刺激であっても数日かかる
・血液透析はCRPに影響を与えない
血小板減少
1.血小板の産生低下
・骨髄占拠性病変(癌の転移、骨髄線維症)
・物理的障害(放射線照射)
・骨髄障害性薬剤の投与(抗癌剤)
2.血小板の破壊亢進
・脾臓以外の小血管床での破壊(血管腫、DIC、敗血症など)
・機械的原因による破壊亢進(心臓人工弁、対外循環、感染性心内膜炎)
・免疫的機序による破壊亢進(ITP)
・大量出血、大量保存血輸血
・脾腫による破壊亢進
(細菌感染症で血小板低下は敗血症を反映する)
身体所見をとるように検査値を読んでみよう(信州大学)
1.栄養状態はどうか
2.患者の全身状態の経過はどうか
3.細菌感染症はあるのか
4.細菌感染症の重症度は
5.敗血症の有無
6.腎臓の病態
7.肝臓の病態
8.胆管の病態
9.細胞障害
10.貧血
11.凝固・線溶系の異常
12.電解質異常
13.動脈血ガス
ルーチン検査を病歴、診察と同じように臨床推論に使用する(感度、特異度が高い)
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