min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

地下鉄に乗って

2007-01-08 21:33:02 | 「ア行」の作家
浅田次郎著『地下鉄に乗って』』講談社文庫 552円+tax

地下鉄永田町駅の壁の向こうに出現した入り口を登るとそこは東京オリンピックが開催された30年前の新中野駅であった。その夜地下鉄に飛び込んで死んだ兄の姿をみつけた。兄はあの夜ワンマンな父親と激しく口論した後家を飛び出し、帰らぬ人となってしまったのだ。
こんな出だしで始まる物語はSF小説というよりも浅田流ファンタジー小説といったほうが良いであろう。
その後タイムスリップするごとに父の若い時代へ、更に子供の時代にまで時間が遡行していく。
これはひょっとして若き日の父親と邂逅し、父親の真の姿を発見し今や病床に臥す父親との絆を取り戻す父子の愛情を描いた物語か?と思いきやそうではないのだ。
主人公の不倫の相手みちこまでがタイムスリップすることによって驚愕の結末が待っている。

さて、このようなタイムトラベルのストーリーの手法のひとつとして過去の事実に直接手出しをしない、という鉄則があるような気がする。当初、浅田氏もこの鉄則を守ったのであるが(実際地下鉄で飛び込み自殺する兄を直接止めたわけではない)、最後の最後にその鉄則を曲げて話のドンデン返しを行ったというのが納得できない。
それと地下鉄駅構内からタイムスリップしていたのが不倫相手宅の布団の中からタイムスリップするのも納得できない。

ファンタジーとして古い地下鉄構内から時間軸を移動するというのは大いにイメージできるのであるが、眠っている布団の中からというのは妙な感じだ。
特に銀座線の旧車両の時代にはこの線路が第三軌条集電方式を採っていたことからポイントにさしかかると電流が途切れ一時車内の照明が切れ停電し真っ暗になる、あの感覚は不思議なものでどこかこの瞬間に異次元に迷い込むのではないかと思わせる雰囲気を持っていた。
ちょっと不完全燃焼気味な浅田作品かと思われる。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿