min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ハイダウェイ

2005-05-31 13:49:26 | 「カ行」の作家
D.R.クーンツ著 文春文庫 1994.11.10 750

D.R.クーンツの作品は「ウォッチャーズ」を入れても3作目で、彼が“モダン・ホラーの巨匠”とよばれる所以が本作を読んで判ったような気がする。
冒頭の事故場面から一挙に彼の物語世界に引き込まれた。蘇生に関する医学的知識に欠ける僕としては本作での「蘇生」医療の信憑性の判断ができないのではあるが、それはそれとして受け止めることはできる。
しかし、主人公がもうひとりの“怪物”とある種のテレパシーを交わす場面になると、これに対してはかなりの“許容力”が必要となろう。
常識を超えた能力が人間にはあることを認識し許容すればこの物語にどっぷりと浸り楽しむことができる。実際、僕は許容した結果大いに楽しむことができた。着眼点といい、登場する人物造詣といい、やはり類稀なホラー作家といえるだろう。

マンゴー・レイン

2005-05-31 11:09:39 | 「ハ行」の作家
馳 星周 著 角川文庫 2005/03 850

本ブログの「オススメ本」という趣旨には反するが一応気になる本であることは確かなので記しておく。
マンゴー・レインとはタイで雨期の訪れを告げる夕立のことらしい。舞台はタイのバンコク。主人公はタイで生まれた日本人で一時期日本で教育を受けたタイ語日本語のバイリンガルではあるが、まともな商売とは言えない生業をしてバンコクにたむろしている。
ストーリーを紹介してもつまらないので割愛するが、いつもの「クズ人間」のノワールではある。
本作品に前後するが「長恨歌ー不夜城完結編」を読んだ。
歌舞伎町に棲息する健一の最後を描いているのだが彼のほかに中国の残留孤児が登場する。この人間もある意味「クズ人間」なのだが彼の存在そして彼にからむ女との関係が極めて今回の「マンゴー・レイン」と類似している。
よって結末も何となく予測できてしまう。実際“女”の裏切りによって“男”は奈落の底へ突き落とされる。はっきり言って、何らの共感も得られない主人公がどうなろうとどうでもいい、という感情を抱いてしまう。
ノワールの小説世界では主人公に共感できるものではない、と言われるとそれまでなのだが、悪党にも魅力的な悪党というものがある。そうした魅力的な悪党であるならば末路もまた興味あるのだが、このところの馳星周作品には魅力的な悪党が全くみられないのが残念だ。


航海者

2005-05-25 17:50:15 | 時代小説
白石一郎著『航海者-三浦按針の生涯(上・下)』文春文庫 上下\610

戦国時代にかの徳川家康に召抱えられた唯一の外国人、三浦按針ことウィリアム・アダムスの生涯を描いた作品。
ウィリアム・アダムスはイギリスのケント州に生まれ、12歳で造船工となる。父は同じく貧しい造船工であったが一攫千金を夢見て北方航路開拓の船団に乗り込み消息を絶った。
息子はその後イギリス海軍に入り技を磨き、ついには航海長としてオランダの東方航路開拓の5隻の船団に加わることになった。
船団の出発時期が季節はずれであったため喜望峰経由を断念。一行は急遽アフリカ西海岸から大西洋を横断し南米に沿って南下、マゼラン海峡を経て太平洋に出て日本へと向かった。
だが彼らの行く手には熱病、栄養失調、寒さ、飢餓、大嵐、未開の現地人の襲撃などが次々とたちはだかり、当初5隻あった船団が日本へたどり着いたのはただの一隻であった。
最後の1隻となったリーフデ号の乗組員もオランダの港を出たときには百数十名いたものが最終的に生きて日本へたどり着いたものは14名のみという、いかに当時の航海が過酷であったかを物語る。
ここまでを描いたのが上巻。下巻では日本の九州へ漂着したウイィアム・アダムスがいかに家康に重宝され、あげく浦賀に領地を与えられ苗字帯刀を許されたかが描かれる。
全編を通じ、ウィリアム・アダムスというイギリス人の、その類まれなる航海者としての情熱と冷静かつ真摯な生き様が圧倒的筆致でもって描かれる。
この作品は白石一郎の海洋ものの一大集大成ともいえるもので、日本の時代海洋小説を描き続けた著者もまた偉大な“航海者”として三浦按針の中に自己投影されているような思いがした。

『あかね空』

2005-05-17 16:50:01 | 時代小説
山本一力著・文春文庫 2004.11.25 590+tax

時代小説であるが切った張ったのチャンバラは一切ない。何故なら登場人物が江戸深川の長屋に住む人々であり、博徒や鳶の衆もからむが武士は一切登場しないからだ。
物語はひとりの京都出身の豆腐職人が独立しようと江戸にやってきて、長屋で出会った
桶屋の娘と結婚する。そして結婚後の彼らの子供たち親子二代に渡る豆腐屋の繁盛記というか家族間の愛憎劇を描く内容となっている。
京都で培かわれた上方風の豆腐が果たして江戸で受け入られるのか、それを妨害しようとする狡猾な同業者がいて、一方思いもよらぬ協力者がいる。
この江戸の昔の商売繁盛記ともいえる下りが面白く、更に枝葉となるエピソードを織り交ぜながら活き活きとした深川下町の庶民の人情が巧みに描かれている。エピソードといっても実は最後に重要な落ちをつくるという巧妙な筆者の布石があることを読者は最後に知ることになる。このあたりの伏線のもっていきかたは作者の秀でた力量ともいえようか。
江戸時代を背景としながらも家族の愛というテーマは普遍的であり、ことに子育てに関する父親と母親の葛藤は極めて現代的テーマでもある。
本編が平成14年の直木賞受賞作であることに納得するとともに今後どのような作品世界を築くのか期待したい作家だ。

海に消えた神々

2005-05-16 17:33:36 | 「カ行」の作家
今野敏著・双葉文庫 2005.3.30

この今野敏という作家の作品を読むのはひさしぶりで以前最後に読んだのは確か『蓬莱』だったと思う。カルト、ホラー、拳術などわりとライト・ノベル風の作品群があると記憶する。
週末に寝転びながら何も考えずに読み過す本としては最適かも知れない。内容は沖縄の陸棚がムー大陸であった云々ということに先ず目くじらを立てなければ、そこそこのミステリーとして楽しめるかも。

『頭上の脅威』

2005-05-16 17:29:18 | 「ハ行」の作家
デイル・ブラウン著・早川書房 1996.6.30

本書は確か2001年9.11米国同時多発テロが起きた時話題になった小説のひとつではなかったろうか。
本作が上梓された当時は本書のあまりの荒唐無稽なストーリーに対し現実感を抱かなかったり、またアメリカ本土が航空機(特に民間機)によるテロに対しかくも無防御であることに真剣に憂慮した読者は少なかったであろう。
だがあの9.11以降本作を読んでみると背筋が寒くなるほど現実味を帯びてくるから不思議だ。
本作のテロリスト、アンリ・カゾーが若かりし頃ベルギーにおいて米兵から“性的虐待”を受けて以来極端な反米主義者になった、というくだりも何か暗示的だ。このカゾーというテロリストの凄まじいまでの米国への憎悪が圧倒的に描かれ、アルカイダのエネルギーをも凌駕しそうで、ここまで徹底するとある種の“小気味よさ”を感じたのはあながち僕一人ではあるまい。


半島を出よ

2005-05-07 10:49:23 | 「マ行」の作家
村上龍著 幻冬舎2005.3.25発行 上下巻各1,900+tax

今から6年後の日本。「日出る国の落日」の言葉とおり、経済破綻した日本が舞台。この時お隣の狂人が支配する国家は未だしぶとく存在。その国の一部謀略機関が練った計略は日本の九州、福岡市にあるドーム占拠であった。
たった9人によるドーム占拠と2時間後には4百数十名の特殊部隊が小型複葉機で進入する。そして12万の本隊が艦船にて上陸が予定されている。この時日本政府の対応は?といったかなりエキセントリックなテーマである。
本作のポイントはこれら北朝鮮軍が「反乱軍」として登場することにある。そして最初のターゲットが福岡ドームという点。
この度肝を抜く作戦に対し、案の定、時の日本政府の対応はお粗末の一言。このあたりのイライラ加減は麻生幾著『宣戦布告』を思い出させる。
政府は結局なんの対応もできぬまま福岡を封鎖してしまう。さて、事態の打開を行うものは誰か?上巻であるグループを長々と描写するのであるが、やはり立ち向かうのは彼らだ。とにかく構成メンバーが凄まじい。傭兵とか軍事のプロでは決してない、要は完璧な社会のおぶれ者たちなのである。住基ネットにも載らないがゆえに彼らは全てカタカナで名前が表記される。例えばイシハラやタテノといった具合だ。彼らが北朝鮮軍に挑む方法は僕の想像力をはるかに凌駕したものであった。これは凄い!の一語。ただここまで物語がたどり着くまでが長い。実に下巻の半分を過ぎるまで待たねばならない。
村上龍はほとんど“偏執狂”かと思えるほど各部ディテールを描くのに固執する。それが北朝鮮の国であれ特殊部隊に加わった者たちであれ、虫、銃器と全てに渡ってのディテールが連綿と続く。実際、不要とも思われる部分もあり、僕にいわせれば上巻一冊で充分なのでは。せっかくの面白いプロットが途中で足踏み状態になりイライラさせられる。
忍耐力に欠ける僕のような読者は途中で投げるかも知れないが、やはり後半部分までじっと「我慢の子」であるべき。
ま、とにもかくにもここまで書き込んだ村上龍の“思い”に敬意を表したい。


ダーウィンの剃刀

2005-05-02 16:24:18 | 「カ行」の作家
ダン・シモンズ著・ハヤカワ文庫2004.12.31

★ちょっとネタバレあるかも

ホンダのアキュラNSXを駆る「事故復元調査員」というところで頭を傾げながらこの文庫本を購入。冒頭シーンから彼の職業たる「事故復元調査員」に度肝を抜かれることになる。通常の警察の鑑識課とか保険調査員では全く歯が立たない事件、事故をまるでパズルを解くような手法を駆使して解決してみせる。その手法も物理学博士の学位を持つ主人公ならではの頭脳明晰さに裏打ちされたもの。小説中に物理方程式が出てくるとは思いもしないがこれが面白い!
さて、そんな主人公(ダーウィンがその名前)が事故復元調査を続けるうちに2台の車に襲われ、壮絶なカーチェイスを繰り広げるのだが最後には相手を想像も出来ないような方法で撃退する。
襲われた動機には心当たりがないまま捜査を続けるうちに大掛かりな「保険金詐欺グループ」と影で操る「犯罪組織」の存在に気づくのであった。
さて、その先が凄まじい展開となる。グライダー対ヘリコプターの空中戦やらS.ハンターの『狩りのとき』のボブリー・スワガーばりの戦いがあり、ポロックの『樹海戦線』を彷彿させる戦闘があり、更に美人捜査員とのお決まり?の恋愛ありで「一粒で2度美味しい」どころか3度も4度もテンコモリ状態のエンタメが用意されている。
読了後著者のプロフィールをみて驚いたのであるがこの方、有名なホラー作家でもありSF作家でもあるという。そちら方面でもさぞかし秀作をえがいているものと思われる。
今年上半期では文句なしナンバー1の作品ではなかろうか。

先住民アイヌ民族

2005-05-02 14:42:55 | ノンフィクション
別冊太陽
久しぶりに故郷北海道に戻ってみると「アイヌ」に再び目がいってしまう。東北の安東一族が南部藩」との抗争に破れた結果、北海道に逃れ「松前藩」をつくった。彼らは時の江戸幕府に北方の蝦夷地を治める認可を得たのだが、彼らは米の代わりに毛皮や魚介類・海藻などを年貢として収めた。
その影に幾多のアイヌの奴隷的労働があったか我々は知らない。驚くべきことにこうした和人が入ってくる以前、アイヌ民族は“交易の民”であったという。オホーツク海をぐるりと回り、間宮海峡を渡って、アムール川流域に住む山丹人を中継して中国とも交易していたという。それが和人に侵略されたのち、こうした交易が制限されたことによって「自然と共生した生活」を余儀なくされたという。この本の中で紹介されているアイヌの衣装のデザインの素晴らしさに改めて感動する。