min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

宮本昌孝著『海王 上・下』

2009-05-25 18:17:05 | 時代小説
宮本昌孝著『海王 上・下』 徳間書店 2009.1.31第1刷 各2,200円+tax

オススメ度★★☆☆☆

「海王」と聞き直ぐに想い起こしたのが白石一郎著「海王伝」であった。
海に生きる男の夢とロマンを描いた大作であったが、今回も何となくそれを期待したのであったが全く違った。
時は戦国時代の真っ盛り。世に最も有名な三大戦国大名である織田信長、豊臣秀吉、徳川家康はもちろん、準主役級の明智光秀、石田三成、柴田勝家などに続き、この時代の有名人?服部半蔵、黒田堪兵衛、前田慶次郎、お市の方など惜しげもなく(笑)登場させてくる。
これらの有名な歴史上実在した人物たちに絡むひとりの少年がいた。
真の主人公は足利義輝の遺児(隠し子)海王(ハイワン)という少年であった。この子を付け狙う熊鷹という異形の剣士は、亡き義輝に敗れて後その遺児の存在を知り親子二代に渡って勝負を挑もうという化け物として描かれる。

本格正統派的時代小説を望む読者には不向きな作品であろう。足利義輝に隠し子がいた、というそもそも無理がある設定に加え、この子が生まれ出でるに際し、一度は首をはねられて死んだ側室の腹の中から生き返らせる、という妖術もどきを駆使する幻術士が登場。
その後も幾度かこの妖術を使うシーンが出てくる。
年輩の読者は山田風太郎を思い出すであろう。そして先に述べた熊鷹なる怪剣士であるが、この人物はむしろ“超人ハルク”をサムライにしたような存在で、これを信じろ!と言われること自体に無理があろう、というもんだ。
1ページ上下段に書かれ、上下巻500ページを越える長編である。中味は1巻にも及ばないであろう。最後まで読みきってから「ああ、時間の無駄遣いじゃあ!」と叫びたくなってしまった。



今野 敏著『果断 隠蔽捜査2』

2009-05-10 11:53:51 | 「カ行」の作家
今野 敏著『果断 隠蔽捜査2』 新潮社 2007.4.25第1刷1,500円+tax

オススメ度★★☆☆☆

シリーズ第一作『隠蔽捜査』で、極めて風変わりなキャリア警察官ぶりを見せた竜崎は、息子が覚せい剤を使用していた、ということを自ら公表し息子を自主させたのであった。
このことによって竜崎自身は職を辞することはなかったが、やはり左遷人事で警察庁総務課長から一介の署長へとの降格人事に甘んじたのであった。
彼は都内の大森署の署長として新たな警察官としての人生を歩み始めたのであるが周囲からはやはり“変人”と見られたようである。
ある日、管内で武装強盗事件が発生し「緊急配備」が行われたのであるが、凶悪犯3人を取り逃がしてしまった。そのうち2人は他の場所で本署の手により検挙され大森署の面目はまるつぶれとなった。
その間、本件とは全く別件と思われていた管内の小さな事件が実は行方不明の
もう一人による人質立てこもり事件へと発展したのであった。
竜崎は現場で指揮をとることになったが、そこへ本庁の捜査一課のSIT、さらにSATが加わることによって思わぬ展開を見せることになった。
犯人射殺という事態が発生したものの一応事案は解決ということになったのだが・・・

読後感としては何かちまちまと纏まったスケールの小さい作品に仕上がった感が否めない。前作の竜崎は従来のキャリア官僚にはけっしてないある種の“魅力”があったのであるが、今回はそれがあまり感じなかった。
この男にはもっともっとびっくりさせて欲しいのだ。第三作に期待したい。

ジェフリー・ディーバー著『スリーピング・ドール』

2009-05-02 08:50:06 | 「タ行」の作家
ジェフリー・ディーバー著『スリーピング・ドール』 文藝春秋 2008.10.10 第一刷 2,381円+tax

オススメ度:★★★☆☆

前作『ウオッチメーカー』でゲスト的に出た“キネシスク”分析の達人、キャサリン・ダンスを主人公にした作品。
“キネシスク”は人間の所作や表情を読み解いて事件解決にあたる捜査方法のひとつで、物証主義の対極にいるとも言えるリンカーン・ライムをも唸らせたキャサリン・ダンス。
今度の相手は“マンソンの息子”とも異名を取る、酸鼻のきわみとも言うべき一家惨殺を行った危険なカルト集団の教祖であった。
マンソンとは1969年に起こしたシャロン・テート事件で一躍有名をはせたカルト集団の教祖のことである。
さて、“マンソンの息子”ことダニエル・ペルは事件の後服役していたのであるが、姑息な手段で脱獄を図った。服役中、キャサリン・ダンスの尋問を受けたのであるが、ダンスを許し難い天敵のような存在とみなし、彼女及び彼女の家族をつけ狙うことになる。
ここにキャサリン・ダンスと彼女にも劣らない「先読み」が可能な天才的犯罪者ダニエル・ペルとの壮絶な頭脳戦が展開される。

物語は前半、中盤とやや盛り上がりに欠け進行し、後半になってやっと加速するのであるが、数十ページを残して事件は終焉を迎えたかに見える。だが、読者はここでまたディーバー得意のどんでん返しが待っていることを知っている。
彼のどんでん返しは読者が最も考えられない、思いつかないケースを持ってくるのがいつもの手であることも明らかである。
今回は何となく、「こいつで来るかな?」という“読み”がピタリと当たり、思わずニヤリとしてしまったものの、その理由付け、動機のディテールの描写が甘く、多くの読者をして納得せしめなかったのでは。

“キネシスク”分析を駆使する美貌のキャサリン・ダンスも悪くはないが、やはり単独で主役を張るにはちと荷が重いのでは。
リンカーン・ライムとその技を競ってこそ面白みが増そうというもの。やはり、ライムとアメリア・サックスコンビの魅力には適わないか・・・