min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

渡辺裕之著『傭兵代理店シリーズ』

2013-09-17 21:06:50 | 「ワ行」の作家
先日津本 陽著『鉄砲無頼伝』を読んで中世の傭兵集団と呼べる根来衆から、そう言えば現代の“傭兵”ものをしばらく読んでいないなぁという事に気がついた。
確か渡辺裕之という作家の「傭兵代理店」というのを読んだっけと思いだし、過去ログを探してみたら有った。もう6年目なのねぇ。
その時の読書メモは

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渡辺裕之著『傭兵代理店』 祥伝社文庫

オススメ度★★★★☆

著者の名前を見て一瞬俳優の渡辺裕之(映画「オンザロード」で昔デビュー。古っ!)かと思ったのだが、全く関係の無い新人作家とのこと。
日本人傭兵を描いた作品といえば古くは大藪春彦の『傭兵たちの挽歌』や柘植久慶のいくつかの傭兵物があるのだが、やめ刑事の傭兵という設定は初めてである。本作の表題ともなっている「傭兵代理店」という発想も面白い。この代理店は日本国内で単に傭兵に仕事を斡旋するだけではなく、海外における彼らの活動をサポートするシステムも合わせて持っている。
更に世界中の同様の傭兵斡旋機関とも連携を取り最新の業界情報をも収集している。
ま、平和国家日本ではます考えられない設定ではあるが発想としては興味深い。
さて、このやめ刑事出身の傭兵である主人公藤堂浩志だが、15年前にある猟奇的一家殺人の容疑者として逮捕された。
何とかその冤罪をはらした後、真犯人を追ってフランス外人部隊に入隊し犯人のあとを追う。しかし15年を要すしても犯人の行方は分からず、イラクかどこかで戦死したという噂を聞いた。
15年ぶりに藤堂が帰国した後、彼を待っていたかのように再び異常な殺人事件が起きた。
彼は再び15年前の真実を求めて復讐の鬼となる。
藤堂はスーパーヒーロー的な存在ではなくなかなか渋い中年の、実力と経験に裏打ちされたベテラン傭兵として描かれる。
彼を取り巻くサイド・ストーリーも程よく用意されて新人とも思えないプロットの構成がなされている。
舞台も東南アジアの何カ国かにまたがって展開され、その国際感覚もバランスがある。
久々の骨太な冒険小説作家として第二弾を大いに期待したい。
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けっこうこの時の評価は高かった割に第二作目どころかすっかり彼の存在すら忘れていた。
先日ブックオフで発見したのであるが、このシリーズは外伝を含め10冊近く刊行されている人気シリーズみたい。
でさっそく3,4冊買い込んで読んでみたらこれが面白いではないの!特に4作目の『継承者の印』は単なる戦争ものではなく、マレーシアのハリマオが残したとされる財宝を巡る冒険、探検のストーリー仕立てとなっており、その謎解きの中身も巧妙で大いに楽しませてもらった。なんたって僕の世代はテレビ“怪傑ハリマオ”を観て育ったものだからついニンマリしたのは当然かも知れない。
日本人の傭兵と言ってもピンと来ない向きの方々が多いとは思われるが、最近で言えばイラクで戦死したフランス外人部隊出身の亡き斎藤昭彦氏(当時44)を思い起こして欲しい。また実際に傭兵となって世界各地を転戦して歩いた高部正樹氏のノンフィクション「傭兵の誇り―日本人兵士の実録体験記」などを読むと、フランス外人部隊に入って活躍している日本人傭兵がけっこういるらしい。
ということで、内容はかなり破天荒ではあるものの傭兵、並びに使用する重火器のディテールをしっかり描きつつ、世界の紛争地の情報もふんだんに盛り込んだ本シリーズはかなり読み応えがある。
更に本日続きを3冊買ってしまった。しばらく楽しめそう。ちなみに本シリーズは一応終了し、本年7月から「新傭兵代理店」が開始されたようだ。





津本 陽著『鉄砲無頼伝』

2013-09-04 10:25:31 | 「タ行」の作家
津本 陽著『鉄砲無頼伝』角川文庫 2000.2.15 第一刷 

オススメ度 ★★★☆☆

1996年に刊行された単行本の文庫化。

西暦1543年にポルトガル船によって種子島に鉄砲(火縄銃)が持ち込まれ、数年の内にそれを模倣して国内生産を開始した事は中学生の歴史の教科書にも載っているほど我々には馴染みの深い歴史的事実である。
この“鉄砲”という飛び道具がその後の日本の歴史を大きく変えた事も事実である。
しかし、一番興味深いのは、当時の世界の先端技術(最新式銃ではなかったものの)の一端を素早く取り入れることが出来た日本の当時の鍛冶、製造技術は大したものであった。ただ一点難しかったのは銃の尾栓と言われる部分のボルトのねじ切り技術であったと言われる。本書では残留したポルトガル人船員が後に中国にいた同国人の鍛冶職人を連れてきてその加工法を伝授させた。
いずれにせよ日本の高度な日本刀を製造していた鍛冶技術があってこその国内生産であったことは間違いない。
その先端技術を最初に目を付けたのが紀州根来の津田監物の兄であった。その兄の命で監物は密かに種子島へ渡り種子島領主時堯より鉄砲を譲り受けた。その銃を元に根来の鍛冶屋に量産させ、300人の鉄砲隊を作ったのであった。
かくしてその後雑賀衆と肩を並べる最強の鉄砲集団となり、群雄割拠する大名たちの傭兵となり大活躍したのであった。
ところで先に触れた雑賀衆と根来衆の大きな違いは、雑賀衆が熱烈な浄土真宗の信者であり、金の為の傭兵稼業というよりも“義”の為に戦ったと言ってもよいだろう。一方の根来衆は真義真言宗の“僧兵”とは言え、経文ひとつ唱えることのない完全な戦闘集団であり、自らと根来寺の為に金稼ぎにまい進した。
本作の主人公津田監物と彼が率いる鉄砲衆の戦う目的はもちろん金であった。そのあっけらかんとした金銀獲得第一主義の生きざまはある意味小気味よいほどではあるが、やはり虚しさを感じる。
津本陽氏による雑賀衆を描いた『雑賀六字の城』や『天翔る倭寇』の方が圧倒的に読み応えがある。
あと雑賀衆を描いた小説で最も有名なのは司馬遼太郎の『尻啖え孫市』であろうが、地元和歌山出身の作家神坂次郎氏による『海の伽耶琴― 雑賀鉄砲衆がゆく』も大変興味深い作品である。