min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

マーク・グリーニー著『暗殺者の潜入(上・下)』

2018-12-15 13:09:56 | 「マ行」の作家
マーク・グリーニー著『暗殺者の潜入(上・下)』ハヤカワ文庫 2018.8.20第1刷
  
おススメ度 ★★★★☆

★ ネタバレ警報★


冒頭、衝撃的シーンから始まる、我々がYoutubeでよく見られるIsIsとおぼしきテロリスト武装組織による処刑シーンが描かれる。
その処刑される捕虜の列のなかに何とグレイマンが首部をたれ今まさに後頭部をカラシニコフで撃たれる直前であった。
題名が暗殺者の潜入とあることから一体どこへ潜入するのかと思いきや、それはあの内戦が続くシリアであった。一体何の目的で?というのが最初の感想であった。
その理由が我々読者の想像も出来ないものであった。今回のミッシオンはシリア大統領がその愛人に産ませた赤ん坊を拉致し国外へ連れ出すという到底不可能なストーリーである。
シリア大統領の名前こそ変えているものの、現存のアサド大統領であることは明らかだ。
ストーリーは荒唐無稽に近いものがあるのだが、この著者の綿密な調査、取材力のおかげで現在シリアが置かれている国内、国際状況が非常に分かりやすく描かれる
。へたな報道記事や時事解説記事を読むよりはるかに内容的に優れた感じがする。
最初は赤ん坊の拉致だけであったが、状況の変化により大統領の暗殺(当初は間接的手段を予定したものが直接的手段に変わるのであった)に向かうジェントリー。
赤ん坊の拉致だけでも不可能と思われるのに加え大統領の暗殺とは!どうしたらそんな事が可能なのか?それは本書を読まねば分からない。
このシリーズを読んでいつも思うのは冷酷非情な暗殺者というわりには主人公独特の倫理観、正義感というものがあって、時には得る金銭には一切関係なく行動する場合がある。
今回もまさに彼の正義感が発動されたが故の行動であった。


村上龍著『オールド・テロリスト』

2017-04-07 10:55:26 | 「マ行」の作家
村上龍著『オールド・テロリスト』文芸春秋 2015.6.30第1刷 
★★☆☆☆
本の帯には、
怒れる老人たち、粛々と暴走す
「年寄りの冷や水とはよく言ったものだ。年寄りは、寒中水泳などすべきじゃない。別に元気じゃなくともいいし、がんばることもない。年寄りは静かに暮らし、
あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ」とあり、何とも人を食ったフレーズではないか。

著者村上龍氏は僕と同世代の作家で、彼のデビュー作以来リアルタイムでその後の作品に接してきた。この作家の作品は好きなようで嫌いなようでもある不思議な感情を抱いてきた。最後に読んだ彼の作品はたしか「半島を出よ」だったと思う。この作品は大いに楽しんだ記憶がある。あれからしばらく経った本作は如何であろうか?と期待しつつ読んだ。個人的には極めて興味深いテーマであり内容もそこそこ良かったのであるが、他人へ御すすめしたいかとなれば、そうでもない。
というのも、本編で登場する老人たちの怒りなるものが、今を生きる若者たちには決して理解出来ないであろうからだ。
本編の三分の二くらいまではこの老人たちは直接登場しない。凄惨なテロの実行犯は別にいて、陰に潜む老人たちの存在はうかがえるものの、謎は深まるばかりだ。
テロの対象となるNHKや歩道をスマホをやりながら自転車をこぐ若者、更にAKB48に似たアイドルグループに群がる若者たち。
どうもこの老人たちはこれらの若者を殺したいくらい憎んでいるようだ。ま、単なる憎しみではないのであろうが、彼らの最終的なテロの対象が原発であるようなので、その実行にためらわないぞ、という脅しなのかも知れない。
いずれにせよ、現代の日本は彼らが描いた日本の未来図ではなく、腐れ切った現状を打破するにはもういちど日本を焦土にするしかないという考えに至ったようだ。
僕は彼らよりひと世代前の老人であるが、このどうしようもない日本を立て直すには一度リセットするしかない、という考えには共鳴する。僕だったら原発を攻撃する前に国会議事堂に対し、88式対戦車砲をぶち込んでやりたいし、今のチャラけた子供たちを一度地獄の窯の底に放り込んでやりたい気持ちもある。
ところで、本編の結末は多分こんなものだろうなぁ、という想定内の終わり方であるが、これはいつもこの手の作品で思うのだが、小説という虚構の世界なのだから究極の結末までもっていってもいいんじゃないか!という点。日本を一度「ガラガラポン」とリセットしてみたらどうなるか?それを読みたいのだ。

森詠著『燃える波濤第6部 烈日の朝』

2016-12-12 16:44:00 | 「マ行」の作家
森詠著『燃える波濤第6部 烈日の朝』徳間書店 1990.9.30
おススメ度:★★★★☆

第5部を再読したらやはり最後の第6部も読みたくなった。今回もアマゾンから購入。


本の帯には

〖第二維新〗を目論む日本は軍をフィリピンに侵攻させようとしていた。一方、国民抵抗戦線(NRF)と亡命政府からは日本軍への戦闘開始命令が出て、国内では北陸戦争が始まった・・・・・・。

ということで、今度は戦争だ!国民抵抗戦線は少ない武器と兵力にもかかわらず敢然と治安警察軍と対峙する。彼らはゲリラ戦の一環として能登の原発ほか数か所の原発を占拠したのであった。
維新政府内部にも二派に分かれて権力抗争が起きており、国内の抵抗勢力には明智首相派の治安警察軍のみが対処した。一方、国民党の幹事長である広川派が牛耳る日本軍はこの時フィリピンに派兵されていた。
原発が占拠されたことにより一気呵成に金沢を攻め落とす事が出来なくなった。結果、抵抗軍と治安警察軍の戦闘は膠着状態となって行った。
パリにある亡命政権はこんな日本国内の情勢をみて新たな戦略を立てる必要にせまられた。新たな戦略は天城たちの大きな犠牲を払った上で救出されたもの日本政府情報部の武田部長によって立案されたのであった。それはNRFは一度日本を出てアジア各地を転戦する「長征」であった。

本作が上梓された前年に中国で天安門事件が発生し、旧ソ連が崩壊する以前であった。したがって著者の世界情勢の分析にはげ現時点からみたらやや苦しいものがある。
顕著な例は当時想定できなかった中国の経済的発展の度合いとソ連の崩壊、更に湾岸戦争とそれ以降の中東情勢の激変ではなかろうか?

とにかく維新政府の目指すものはほぼ完全に明治憲法に則した過去の大日本帝国の復活を目論む反動政権でありその首班である明智首相は我が安倍総理にそっくりである。

とまれ本作はこの第6部でもって終わりになっているが、この結末を知るにはまだ数十年の月日が必要かも知れない。そしてリアル日本の行く末を考える良い機会を与えてくれる一作であると思う。

森詠著『燃える波濤第5部 冬の烈日』

2016-12-05 11:29:11 | 「マ行」の作家
森詠著『燃える波濤第5部 冬の烈日』徳間書店 1989.5.31 第一刷 1,200円


おススメ度:★★★★★

本の帯には次のような一文が記されている

「九州戦争から五年、右旋回を成し遂げた日本は、軍事大国を目指していた…。アジアに戦乱の暗雲が拡がる。そして、あの風戸大介が成田に降り立った。」

自衛隊内に組織された右派グループ「新桜会」の軍人たちによって敢行されたクーデターによって維新政府が樹立され、それに対抗するかたちでNRF(国民抵抗戦線)がつくられ日本は事実上内線状態になった。しかし、維新政府は見せかけの民主投票を行い自らの率いる国民党が圧勝した。
その後憲法第9条を廃棄し維新憲法を発布。
自衛隊は国防軍として正規な軍隊に昇格された。
また秘密保護法を成立させ戦前の治安維持法と同じ法案を可決し、治安警察(昔の憲兵隊に相当)を設置し、NRFを初めとした抵抗勢力を徹底弾圧した。
また国民に対しては秘密裏に核武装をもくろんでいた。核兵器なかでも中性子爆弾の研究開発に着手したのであった。維新政府の無敵は日本が核保有国の一員となり国際的プレゼンスを高め、東アジアにおいては米国に代わって覇権を持つ。要は昔の大東亜共栄圏の構築を目指すものであった。
ところでこの作品は四半世紀前に書かれたものであったのだが、著者森詠氏には今日の政治状況を的確にとらえていたようだ。
クーデターという極端な手段を取るわけではないものの、今や一党独裁に近い安倍自民政権が目指す日本の姿と本作品で描かれる近未来の日本の歩む姿が見事にシンクロしてくるではないか!
一方NRF内部でも国際派、国内派で微妙に軋轢を生じはじめ、今回風戸大介が帰国した目的のひとつは双方の関係改善であった。その中で喫緊の課題は維新政府による核兵器開発の阻止であった。風戸とNRFの特殊部隊はその開発研究拠点のある青森県六ケ所村に乗り込んだのであったが・・・
またパリの亡命政権の中枢にいる天城の元にある日かっての恋人であるシンガポール財閥の娘リーからある重要な情報がもたらされる。それはかって天城の上司であった武田情報部長が生きており、現在維新政府の秘密監獄に囚われているというものであった。
天城はリーの元夫の協力を得て彼の救出作戦に自らも参加志願したのであった。本編ではこれらの作戦を軸に息詰まるような物語展開となっている。




第一部から第三部の感想は拙ブログでも取り上げている。興味のある方は是非ご覧ください。

http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/0fb108705171cbcafac34caff0

本編の前に第4部「明日のパルチザン」があるのだが、これは九州における維新政府に反抗する若者たちと元フランス外人部隊出身の枚方俊治(このシリーズの3人の主人公のひとり。実は個人的には一番好きな人物である)の壮絶なゲリラ戦を描く作品なのだが敢えて申せばシリーズの中では番外編であり今回の再読では割愛した。

望月諒子著『ソマリアの海賊』

2015-05-16 10:16:16 | 「マ行」の作家
望月諒子著『ソマリアの海賊』幻冬舎 2014.7.25 1800円+tax

おススメ度: ★★★☆☆


ある日本の自動車メーカーの青年エンジニアがひょんなことからアフリカはソマリアまで行くことになった。その理由がまったく面白い。こんな発想は大好きだ。アフリカといえどもあのソマリアだ。ソマリアといえば海賊だ。青年京平はもちろん?海賊に捕らえられるが、身代金を要求される訳ではなく、妙な事件に巻き込まれる。
さて、その事件であるが、どうも読者には訳が分からない内容と展開となっており、これは作者の意図的な振り回し?なのか、はたまた作者の力量がない故の混乱なのか判然としなくなる。
僕の目から見ると、やはりソマリアそしてソマリア人への馴染みのなさ具合が浮いて出てきた感が否めない。
現地での調査、取材のしようもないことでもあり、同情はするのだが。
それとこうした小説には欠かせない武器や戦闘車両、装置等諸々のディテールが必要となるのであるが、巡行ミサイルへの取材調査と同じ程度には他の武器、兵器への調査取材をして欲しかったなぁ。
中間中弛みは否定できないものの、後半の展開は非常に面白かった。このプロットの展開で作者が提示した中東・アフリカ情勢の分析はとても興味深いものがあった。

ヴァル・マクダーミド著『殺しの儀式』

2014-11-25 15:28:44 | 「マ行」の作家
ヴァル・マクダーミド著『殺しの儀式』1997.4.20 9円+tax

おススメ度:★★★★☆+α

英国の中部の都市で連続して殺人事件が発生した。被害者は全て男性。ほぼ全裸で放置された死体は洗われているがむごたらしい拷問の跡が残っている。
警察内部では“ホモ・キラー”と犯人を呼び、SM趣味のゲイの男が犯人であろうと考えた。被害者全てがゲイであるとは明らかではなかったが、死体が捨てられた箇所が市内でもゲイやレズの店が集まる地帯の一角であったから多分犯人もホモセクシャルな男と考えられた。
警察のトップは当初連続殺人事件とは認めなかったが、市警のジョン・ブランドン副本部長は最初から連続猟奇事件と考え、内務省に直ちに応援を要請しプロファイラーのトニー・ヒルを迎えた。
彼と市警の間を取り持つ役柄は金髪の美貌な警部補キャロル・ジョーダンであった。
連続殺人、それも極めて猟奇的な殺人事件での被害者は大抵女性の場合が多いのだが、本編では被害者は全て男性。もうひとつの特徴は中世の魔女狩り裁判で用いられたのでは?と考えられる拷問器具を使用しての殺人。これらの設定は珍しいといえば珍しい。
プロファイリングがある程度科学的捜査の一分野としてその役割が認められている米国とは違い、英国ではまだ草分け的段階にあったプロファイラー、トニーに対する市警内部からの風当たりは相当強かった。そんな中、彼を支えたのがキャロル警部補であった。
二人は共同で捜査、分析の作業を進める内に互いに惹きつけ合うものを感じ始めたのであるが、すんなりそんな関係には踏み込めない二人であった。特にトニー側には障害があったのだ。彼には性的インポテンツという致命的欠陥を背負い、このことこそがあらゆる異性への積極的アプローチを阻害していたのだ。
だが、この事が犯人と結び付くことになろうとは本人も読者も想像すら出来なかった。

ところでトニーのプロファイリング能力は素晴らしく、その内容を読むだけでのめり込みそうになる。もちろんかなり正確に犯人像を絞り込んでおり、その他キャロルやその兄の尽力で徐々に犯人を追いこむことが可能となった。
だが、犯人の方が一枚上手で、誰もが想像すらしなかった反撃をかけてきたのだ。そして戦慄のエンディングを迎える。

余談をちょっと。本編の作者が女性であることに驚愕した。女性がここまで惨い拷問器具を使った殺人を考えられたとは到底信じられない。そしてトニー初め男性側の心理面の記述も優れていると思う。もちろん女性心理も心の襞まで触れるように描いている。
さすが英国のCWAゴールド・ダガー賞受賞作品の重みが感じられた。
もう一点。スエーデンの作家、S.ラーソン著「ミレニアム 1」にて主人公ミカエルが読んでいた小説がこのマクダーミドらしい。だから本人も最後に全裸で吊るされ殺されそうになったのでは?笑





コーディ・マクファーディン著『遺棄 上・下』

2013-01-08 01:54:04 | 「マ行」の作家
コーディ・マクファーディン著『遺棄 上・下』ヴィレッジブックス 2011.10.20 第一刷 各780円+tax

オススメ度 ★★★★☆

『傷跡』『戦慄』『暗闇』に続くFBI特別捜査官スモーキー・バレット・シリーズ第4弾である。
スモーキーは新しい恋人(既に同棲中)と共に、養女のボニーをアレン夫婦に預け、二人してのんびりとハワイ島で休暇を過ごしていた。過去のあの忌まわしい事件の後初めてのまとまった休暇と言えた。まるでハネムーンのようでもあった。
帰国したスモーキーは部下のキャリーの結婚式に出席したのだが、その式の真っ最中にホテルの駐車場に頭を丸められ白いガウンを着た女性が車から放り出された。ロス市警の警官やFBI関係者が集まる目の前で!
これが事件の発端で明らかに事件捜査機関へ対する挑戦状であった。女性の身元を調べると8年前に拉致され失踪したと思われる元ロス市警の女性刑事であったことから、この事件は一層関係者に緊張感をはしらせたのであった。
今回の犯人像は過去のシリーズで登場したモンスターとも呼べる犯罪者像とは一味もふた味も違った。というよりもスモーキー達の想像をはるかに超えた、まるで次元の違う世界に存在するモンスターに思えた。
実際、訳者のあとがきで、著者マクファーディンが今回の“悪役”から本作の構想を練った際、今までとは全く違った犯罪者を描きたかったと真情を吐露したことを紹介している。
果たして今までとは違った犯人像とは?これは読んでのお楽しみ!と言ったところであるが、個人的に確かにこれ以上恐ろしい犯罪者は聞いたことがない。
ここまで来ると極限の犯罪者=敵と言えるだろう。
そしてこの恐ろしくも切ない結末の果てにこのシリーズはどこへ行ってしまうのだろう???

コーディ・マクファディン著『暗闇 上・下』

2012-05-01 22:35:13 | 「マ行」の作家
コーディ・マクファディン著『暗闇』ヴィレッジブックス 2010.6.19 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

本作はFBIロサンゼルス支局国立暴力犯罪分析センターの主任捜査官であるスモーキー・バレットのシリーズ第三作である。

次期米国大統領候補と目される下院議員の一人娘(息子?)が何者かの手によって飛行中の機内で殺された。
わき腹を鋭利な刃物で突きさされ、その傷の中に小さな十字架が埋め込まれていた。しかも十字架には#143という番号が刻まれていた。

FBI長官から直々に捜査の依頼を受けたスモーキーは長官の影に大統領の影がちらつくのを感じ一挙に緊張した。
何故なら殺された下院議員の息子は性転換しておりこのことがマスコミに知れると大変なスキャンダルに発展しかねないからであった。
大した時を経ずして今度はロス近郊で元売春婦が同じような手口で殺された。皮膚下にはまたも十字架が埋め込まれていた。これをもってこの犯人は連続殺人鬼であることが判明する。それも二十年間に140名を越えるという恐るべき連続殺人だ。果たして犯人の連続殺人の目的・動機は一体何だろうか!?

今回はカソリックの“告解”という極めて宗教的なテーマを含んだものであり、我々仏教徒には馴染のない分野である。この作家は前作から終始一貫して「神への不信」とも言えるスタンスをとり、キリスト教カソリックの奥義にせまる展開は確かに興味深いものがある。
しかしやはり日本の読者にはピンとこないかも知れない。

ところでスモーキーを巡る取り巻き連中は変わらないものの、養女のボニーも成長し普通の学校に行かせてとせがんだり、かねてより付き合っていたセキュリティコンサルタントのトミーとの仲が進展を見せたり、部下の美人捜査員キャリーが結婚準備に入ったり、といったサイド・ストーリーも楽しませてくれる。
今回何と言ってもキャリーの友人元女傭兵のカービーの活躍?には唖然とさせられる。いっそ彼女主体の一遍を書いてもらいたいくらいだ。

さて、既に当シリーズの第四作目に当る「遺棄」が昨年邦訳されているのだが、はて読もうかどうかちと迷うところだ。



ヘニング・マンケル著『タンゴステップ下』

2012-01-26 20:03:16 | 「マ行」の作家
ヘニング・マンケル著『タンゴステップ下』創元推理文庫 2008.5.23 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

最初に殺された男は相当の恨みをかって殺されたであろうことは、その殺害方法からうかがわれた。それはムチの類によって長時間背中の肉がボロボロになるまで粉砕され、いわば悶死したようなものだったからだ。
更に死骸を抱いてダンスをさせたと思われる血のしたたった足跡はタンゴのステップであることがわかった。本書の題名はそこから付けられたものだ。
ここまで恨みをかった男の仕業は一体何であったのであろうか?
犯人の手掛かりが全く不明のまま、男の隣人である男性がまるで処刑されたような射殺体で発見されたことにより、その殺害手口の違いから犯人は別にいるものと警察は判断したのだが、捜査も行き詰る。

地元警察の捜査とは別に本編の主人公ステファンは独自の捜査に入る。そもそも警官新人の時代に教えを受けた元同僚ということだけで、病気休暇中の身をおして非公式な捜査を行う理由は一体何であろう。
一つは自らの死を覚悟したことにより、他人の死が身近に感じたせいであったのかも知れない。
最初は漠然とした好奇心が先行したものの、やがて殺人の背後に潜むナチスの亡霊がやがて自らの亡き父親まで巻き込んだ暗雲となって拡大され、今や亡霊が現実の脅威となってステファンの前に立ちはだかることになる。

下巻の中盤あたりから物語の全貌がある程度明らかになり、いよいよ真犯人を追い詰めるクライマックスを迎えるのだが、この辺りの展開がまるで物足りない。
全く地味なサスペンスのクライマックスなのだから、せめてもう少し工夫があってしかるべきである。

エピローグは蛇足だ。




ヘニング・マンケル著『タンゴステップ上』

2012-01-21 23:39:20 | 「マ行」の作家
ヘニング・マンケル著『タンゴステップ上』創元推理文庫 2008.5.23 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

本編の巻頭に短く要約された物語の内容が記されているので引用させていただく。


「男は54年間、眠れない夜を過ごしてきた。森の中の一軒家、選び抜いた靴とダークスーツを身に着け、人形をパートナーにタンゴを踊る。だが、その夜明け、ついに影が彼をとらえた・・・・
ステファン・リンドマン37歳、警察官。舌癌の宣告を受け、動揺した彼が目にしたのは、自分が新米の頃指導を受けた先輩が、無惨に殺害されたという新聞記事であった。
動機は不明、犯人の手掛かりもない。治療を前に休暇をとったステファンは、事件の現場に向かう。CWA賞受賞作「目くらましの道」のあとに続く、北欧ミステリの記念碑的作品ついに登場」


北欧スウェーデンのミステリ作品は一昨年に読んだスティーグ・ラーソン著「ミレニアム ドラゴンタトゥの女」しかないのだが、あの作品の衝撃と感動がなければ北欧ミステリーに興味を抱くことはなかったと言える。
先の「ミレニアム・・・」の中でも語られていたのであるが、本編においてもスウェーデン国内における“ナチズム”の台頭について記されている。第二次大戦前からスウェーデンを始めとした北欧に多大な影響を与えたとされる“ナチズム”は現代においても生き残ってその信奉者がいる。
本編の凄惨な殺人事件の影は実にこの“ナチズム”であることがプロローグで示唆されるが、物語は意外な方向へと展開していく。

北欧の静謐な森と湖を舞台に、暗く陰鬱な冬が訪れようとしている。事件の真相もまた自然の陰鬱さに呼応するように暗く切ない。
派手なアクションはないが、主人公の深層心理にせまる描写はアメリカ・ミステリとは別の味わいがある。このような重厚なミステリは結構好きだ。

さて、全てが謎に包まれた前篇であるが今後どのような結末が待っているのであろうか!?下巻が楽しみである。