min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

リー・チャイルド著『キリング・フロアー 上・下』

2015-08-28 21:35:31 | 「タ行」の作家
リー・チャイルド著『キリング・フロアー 上・下』講談社文庫 2012.12.14


おススメ度:★★★★★


前回同シリーズ2作目「反撃」を読んだとき、このシリーズの第一作を未読なので是非読みたい!と記したのであったがその通りに読んだ。正解であった。
このシリーズが世界的に大ヒットしたのは正しくこのデビュー作が理由であろう。デビュー作でありながらその完成度の高さに驚きの念を持った。
さて、本作のストーリーであるが、軍隊を除隊し放浪の旅にでたリーチャーはバスがジョージア州の片田舎の町に近づいた時点でとっさに下車したい旨バス運転手に頼んで降りた。
リーチャーはバス停からしばらく歩いて町中のレストランで食事をしていた時、突然店内に入って来た4人の警官に逮捕された。
彼の容疑は降りた高速のバス停ちかくにある倉庫での殺人であった。それから彼の身辺を襲った目まぐるしい状況の変化の背後には想像を絶する陰謀が隠されていた。
リーチャーは持ち前の怜悧な頭脳をフル回転させ、事件の背後に潜む謎に肉薄する。彼の推理を阻む輩どもには冷酷とも、残酷ともとれる反撃を行うのであった。
リーチャーが育った環境は決して普通の米国市民が得るような代物ではなかった。彼の父親は米国の陸軍に所属し、世界中の米軍基地を転々として歩いた。したがって彼の家族もまた父の移動に伴って世界中の国々に住むことになった。住むといっても同一場所に一年を超えて滞在することはなく、学校もその都度変わった。
だから友達らしい友達が出来ることもなく、リーチャーにとっては2才年上の兄の存在が絶対的な存在となった。
そんな唯一の肉親である兄が今回の事件に巻き込まれて死んでしまったことを知ったリーチャーは愕然とするのであった。
リーチャーの30数年に渡る全人生は米軍とともにあったわけで、特に幼少期よりこの米軍という社会しか知らなかったリーチャーは除隊後、全くこんな社会と縁がない放浪的人生を歩もうとしたのであったが、振出からそうは行かなかった。そして今後もまたそうはならない、ということだ。
とまれリーチャーが目指す地がどこであれ、安らぎのある地に辿り着き安寧な生活を送るとは思えない。


小川一水著『天冥の標2』

2015-08-23 15:48:42 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標2』ハヤカヤ文庫 2010.3.10

おススメ度:★★★★☆


西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープから始まった本シリーズであるが、2巻目はいきなり舞台は現代に戻る。
植民星メニー・メニー・シープで発生した謎の疫病とおぼしきものが現代のパラオで発生し、その後世界的なパンデミックとなっていく過程を描く。この疫病を冥王斑ウイルスと命名されるのであるが、その凄まじいまでの感染力と致死率は空絵事とは思えない恐怖感を与える。
特にこの冥王斑の恐ろしい点は例え生き残ったとしても一度罹患すればそのウィルスを体内に持ち続けることになり、一般社会に戻れなくなる、という点にある。
したがって罹患者と非罹患者の間に決定的な溝を作る結果となり、最終的には罹患者は完全に隔離されることになる。だが罹患者は第一号罹患者となった千茅を中心に「救世群」を結成し既成国家,
社会に対抗しだすのであった。
この2巻から読みだして1巻に行っても良いという方々もいると聞くが、第一巻目で登場するカドム医師と怪物イサリとの微妙な関係?とかカドムに随伴する忠実なロボットフェオなど、やはり1巻目を読んでからこそ判る仕掛けがあり、順番で読んだ方が良いのではないだろうか。

小川一水著『天冥の標 上・下』

2015-08-14 19:50:35 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標 上・下』ハヤカヤ文庫 2009.9.20

おススメ度:★★★★☆



西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300年を迎えようとしていた。この星を支配するのは臨時総督をかたるユレイン三世という少年であり独裁者であった。彼はこの星にやって来て地中深くに眠るロケットを管理し今もそのロケットから作られる電気を手中に収めていた。
そして発電機の不調を理由に全植民地に対し配電規制をかけていたのであるが、そんな中、第二の都市セナーセーを司る反政府派「海の一党」の若きリーダーアクリラから緊急な要請が医師のカドムにあった。
セナーセー市内で原因不明の疫病が発生したので診てほしいというものであった。物語の発端は実はこの疫病にあったのだ。
第一巻で既に多種多様な人類、生物、怪物、大小ロボット、アンドロイドなどなどが登場してくる。
メニー・メニー・シープ星は人類の科学文明がそのまま発展することはなく、乗って来たロケット移民船シェパード号が一部故障してしまったことで、人類の往時の科学技術を全て受け継いだわけではなかった。ある種独自な科学技術を持つ星とも言えたが、多くの謎をも抱えた移民船であった。
第一巻ではこの星を統治する臨時総督府とそれを打倒しようとする反総督府派の戦いを中心に描かれるのであるが、実は人類にとっての最大の的は他にあった。それはフェロシアン(咀嚼者)と呼ばれるこの星の地下に閉じ込められていたエイリアンに姿が似た怪物であった。物語は時空を遡り語られるようだが詳細は不明だ。
第一巻を読んでの感想であるが、人類が地球を離れ大宇宙への移民を果たすべく何万光年もの旅に出て惑星連合を築くという物語のスケールから言えばかのダン・シモンズの「エンディミオン」シリーズに匹敵するかも。
また地球を襲う大規模な災害・変動によって人類が自らの遺伝子を変えてまでそれに対応しようとする姿を描いた上田早夕里の「華竜の宮」をも想起させる作品である。
この小川一水氏の「天冥の標」が我が国SF小説界を代表するSF叙事詩となり得るのか先が楽しみだ。



リー・チャイルド著『反撃 上・下』

2015-08-02 16:50:57 | 「タ行」の作家
リー・チャイルド著『反撃 上・下』講談社文庫 2003.2.15

おススメ度:★★★☆☆


本編はジャック・リーチャーシリーズの第二編である。最初にこのシリーズを読んだのは映画化され世に有名となった第九作目の「アウトロー」からで、読み方としては順序が間違っていると言えよう。だが古本屋でシリーズが目に留まった順であるからしょうがない。
さて本編であるが、物語の発端はリーチャーがとあるクリーニング店の前を通りかかった折、杖をついた足の不自由な女性がクリーニング店のドアを出るなり躓いて転びそうになったのをリーチャーが手を伸ばして支えてやったことにあった。リーチャーが彼女の持つクリーニングが終わった品物を受け取った途端、二人の男が銃を二人に突き付けて傍らに留まったヴァンの後部に押し込まれたのであった。
気が付いた場所は拉致されたシカゴから千数百マイル離れたモンタナ州のカナダ国境に近い深い森の中であった。
リーチャーはいわばホリーの拉致に巻き込まれた形で連れて来られたわけだが、彼一人なら途中で逃れることが可能であったが、ホリーの出自を知った途端自分一人だけ逃れるわけにいかなくなった。
彼女はFBI職員であったが彼女の父は合衆国陸軍統合参謀長であった。
そして彼女の誘拐を企んだのはこの地で生まれ育った巨漢ボー・ボーケンという民兵組織のリーダーであった。彼はこの地域の賛同者ばかりではなく他のいくつかの民兵組織を統合して合衆国からの独立を画策していた。ホリーはまさにその為の重要な道具として確保されたのであった。
ま、この辺りの独立論者の理屈というのが不透明で、たとえ透明性があったとしても何の現実味も興味も湧かないので、こうした敵性分子を相手に選んだこと自体が作者のあやまりではないだろうか。
物語の進行の中で、民兵組織側にFBI側の捜査状況が筒抜けであったことからFBIの中にスパイがいることが判明。こうした要素も含めてクライマックスに向かうのであるが、どうもテンポが今一つ追いつかない。タイトルにあるように当然リーチャーからの反撃が始まるわけだがちょっと遅すぎる感がしたのは僕だけか?
とにかく本編でより詳細にリーチャーの人となりが理解できた気がする。なぜ彼が軍役を離れこのような流浪の旅に出たのかをよりよく知るためにはやはり第一作を読むことを決意し、てもとにその第一作「キリング・フロアー」があることを報告しておきたい。