min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

隷属国家 日本の岐路

2008-09-24 13:03:49 | ノンフィクション
北野 幸伯著『隷属国家 日本の岐路』ダイヤモンド社 2008.9.4第一冊 1,500円+tax

オススメ度 ★★★★☆

ロシア外務省付属「モスクワ国際関係大学」卒業生の半分は外交官に、半分はKGBになるといわれている。そんな大学を私は卒業した、と自ら本書の中で述べている。
更に、卒業と同時にカルムイキヤ自治共和国の大統領顧問に就任し、プーチン大統領のブレーンのひとりになった、とのこと。
このようなお方の著作となると普通は“どん引き”してしまうところであるが、ある筋?からの紹介があって読んでみることにした。

結論から言わせてもらうと、かつ何ら前もっての偏見を抜きにして言わせてもらうと、
『この方の書いている事はまさに正論だぁ!』ということ。
彼がロシアにいて周囲の言論、情報から判断し分析している“日本の姿”の大半は僕も感じ考えていたことに合致する。

特に「米国一辺倒の政治・経済路線の破綻」の後、行き着く先は「中国の天領になる」というのは100%正しいものの見方である。
「日本は自立しなければならない」という命題のもとに、

第一章 崩壊寸前の日本は大減税で復活する
第二章 移民労働者受け入れに反対!
第三章 平和ボケ 外交音痴 日本の行く末
第四章 食糧危機とエネルギー危機をどう乗り切る?
第五章 世界一教育熱心な国 日本が失った“教育”
第六章 脱アメリカ信仰! 日本は世界から愛されている

の内容が記されており、一応彼なりの「解決策」が提示されている。
特に第四章の食糧危機とエネルギー危機の問題提起は昨今の焦眉の課題でもあり、興味深い。食料危機については外国への依存体質を変えないと本当にヤバイことになる。これは国民一人一人がもっともっと自覚せねば。
「メタンハイドレート」の話、もしこれが実現したら日本は一挙に“資源大国”になるでないの!?そうなったら真に痛快!だ。


ロシア発の異色な「日本論」、大いに楽しませてもらった。同時に大いに賛同するところの多い著作である。

ジェイムズ・カルロス・ブレイク著『掠奪の群れ』

2008-09-23 11:10:11 | 「ハ行」の作家
ジェイムズ・カルロス・ブレイク著『掠奪の群れ』文春文庫 2008.9.10一刷 819円+tax
原題:[HANDSOME HARRY]

オススメ度★★★★☆

1930年代に実在した“デリンジャー・ギャング”団の一員、ハリー・ピアポント、原題にある通り、通り名を“ハンサム・ハリー”の短くも激烈な生涯を描いたクライム・ノヴェル。
親父の退屈なだけの40年のクソみたいな人生よりも、たとえ40時間の人生であったとしても、強盗の瞬間にこそ生き甲斐を感じるハリーは後者の40時間の人生を迷うことなく選択したであろう若者であった。

生まれついてのアウトローは前作『無頼の掟』でも取り上げられたわけであるが、今回はより集団的な強盗団を結成し、その中で仲間同士の結束、信頼と裏切り、また愛人たちとの愛憎を余すことなく描いている。
彼らの全てが強盗を犯罪とは認識しているものの、事の善悪から判断すると悪いことなんぞと思っていない。どうせ農民や年寄りを騙して吸い上げた銀行屋から上前を撥ねる感じで、自分たちの良心の呵責なんぞカケラも感じてはいないのだ。

時あたかも大恐慌の時代であり、半端者の彼らが真っ当に稼いだってなんぼにもならない社会状況であった。どっちを向いても八方塞の社会状況の中で、単純なお頭(オツム)のハリーの反骨魂は警察権力へと向けられた。
何度も懲罰房に放り込まれてもけっして刑務官におもねることはなかった。最後の最後まで、そう電気椅子に座らされ焼き殺される瞬間まで。

さて、物語として読む分には何とも面白い小説であることは間違いないのであるが、やはりアナーキーな空しさは否定のしようがない。
大恐慌のあの時代がひたひたと迫っているような昨今の米国、世界の状況の中で、ハリーのような反骨の心意気を持った犯罪者が出てくるとは思えない。
完全に閉塞された社会状況下、出現するのはせいぜい無差別殺戮者の群れであろうか。そこが当時と現代の違いであろう。




真保裕一著『発火点』

2008-09-22 08:38:57 | 「サ行」の作家
真保裕一著『発火点』講談社文庫 2005.9.15一刷 819円+tax

オススメ度★★★☆☆

父親が殺された場合、単に病死した場合とは違い、かくも残された子供は卑屈になってしまうのだろうか。
僕も7歳の時親父が病死し、その後同級生の母親から「お父さんは何をしておられる方?」と聞かれ「死んでしまいました」と応えた時の相手のうろたえる姿が今になっても憶えている。幼心にもかえって相手が気の毒に思ったくらいだ。だが、殺されたとなると反応はやはり劇的に違ったのであろうか。

本編の主人公はこの時12歳であった。彼にはもうひとつ事情があった。それは父親の殺害に自分も関与したのではなかったのか、という思いがあった。
父親を殺害したのは父の小学校か中学校時代の同級生であったのだが、ある夏の日その同級生が自殺に失敗し彼を自分の家においてあげたらと母親と共に提案したからだ。

12歳の少年敦也は今21歳となり、どうして父の友人が犯行に及んだのであるか、その真相を確かめずにおかれなくなった。
結局、事の真相を突き止めない限り今までの自分のあまりにも卑屈な人生を修正できないと感じたからだ。それほど父亡き後の9年間は悲惨な状況にあった。

本編は主人公敦也の、失われた9年間を取り戻すための真相究明のミステリーなのであるが、著者があとがきで書いている通り、
【作者の愛着と評価は別物だ。作者が過剰な思い入れを込めてしまうと、作品が窮屈になってくる面がある】
まさにその状態になってしまった感がある。

ところで最後の最後に再会した子連れの相手は一体どっちだったのであろう?
未だに釈然としないのは私ひとりであろうか。




岡崎大五著『アジアン・ルーレット』

2008-09-13 13:10:07 | 「ア行」の作家
岡崎大吾著『アジアン・ルーレット』祥伝社文庫 2008.7.30一刷 695円+tax

オススメ度★★★☆☆

本の帯には【成功か、死か? 混沌と熱気渦巻くバンコクで、欲望のルーレットが回る!】とある。

本のタイトルの「アジアン・ルーレット」なる賭博があるわけではないようだ。「ロシアン・ルーレット」がリヴォルバー拳銃に一発の弾丸が込められた“死のルーレット”であるのは良く知られるところであるが、この「アジアン・ルーレット」の意味合いは特にない。
タイのような国では幸運も不運もまるでルーレットのように誰の手に転がり込むのかまるで分からないのだ、という程度の意味で使われている。
確かに本編で登場するタイを生活の場として住み着いた日本人の野島と寺崎にしても、ルーレットの玉が転がり落ちるところが分からないままその日を暮らしていた。
ある日、更に悪質なルーレットが自分たちの知らないところで回りだし翻弄される事態となる。ルーレットを回したのは誰か?
このルーレットに参加する他の客の顔ぶれは多彩だ。現地法人野島コンサルタントの野島と寺崎のほかに日本人バックパッカーの悟、中華系実力者の陳、タイ軍警察のパサン少佐と軍警察内部の犯罪集団、武器密輸をもくろむミャンマーゲリラ組織、タイ南部を拠点にするイスラム系過激派、そして軍事コンサルタントなどなど、武器と麻薬をめぐりこれらの勢力がルーレットの転がる先を目指して殺到する。

さて、著者であるが、ご本人もかっては世界を旅してまわった“バック・パッカー”のひとりであったらしく、30才で日本に帰国後、旅行会社のパック旅行の添乗員をしていたらしい。その豊富な旅の経験に基づいて2冊ほど旅行案内書を書いておられる。
今回のような小説の執筆は初挑戦であったらしい。本編を読むうちに何か素人くさい感じがして気になった背景は、確かにタイ事情には詳しいことがうかがえるが、政治、軍事面での描写になると内容が鵜呑みできない場面が出てくることだ。
そうした素人臭とは別に、本来主人公であるべき寺崎と楓の行動と心理描写がおざなりとなり、中途の過程、更に最後の行く末についてはもっと丁寧に描写すべきであった。


ケン・フォレット著『鴉よ闇へ翔べ』

2008-09-12 23:40:36 | 「ハ行」の作家
ケン・フォレット著『鴉よ闇へ翔べ』小学館 2003.5.1一刷 1,900円+tax

オススメ度★★★★★

これぞ冒険小説だ!というエッセンスがふんだんに盛り込まれたケン・フォレットの傑作。
第二次世界大戦下のフランスの小さな町リーム。ここにはドイツ軍の最新鋭の電話交換設備をそなえた通信基地があった。
Dデイを目前にしたイギリス軍の情報機関のひとつであるスペシャル・オペレーションズ・エグゼクティヴ(SOE)は、なんとしてもこの施設を破壊すべくイギリス軍特殊工作員を送り込み、現地のレジスタンスの応援を得て一度は破壊工作の作戦に出たのだが無残な失敗に終わった。
この作戦の指揮をとったのはSOEの一員であるフリック少佐であった。
彼女は失意の中にも確固たる信念を持ち、再度同施設を破壊する作戦を上層部に提案した。
今度はドイツ軍電話施設に出入りするフランス人婦人清掃員に化けて潜入しようという、女性だけを集めた特攻作戦であった。
メンバーとなる条件はとにかくフランス語を流暢にしゃべることに加え、もちろん電話施設攻撃のためそれぞれのスペシャリスト、すなわち電話技師、爆破の専門家、狙撃のプロなどが求められた。
そんな女性が果たしているのだろうか?否、そうそうSOEの中には見つからない。
そこで集められたのは、いわば“ならず者”たちであった。それも女性ばかり。
一人は尻軽女、一人は人殺し、一人は金庫破り、一人は女になりたがる男、一人は未熟な貴族、更にもう一人がフリック自身であった。
このフリック少佐が何とも魅力的に描かれえおり、女性といえどもこの骨太な戦争冒険小説のヒロインを担う素晴らしい主人公である。
なんかこんな戦争映画がなかったっけ?脱獄囚とか死刑囚とか性格破綻者ばかり集めて特攻作戦を敢行するハリウッド映画が。
帰還はほぼ望めず、捕まれば死刑。その前にたっぷりと拷問が待っているという絶望的な作戦。果たしてこのミッションが成功するのか、そして一体何人が無事生還できるのか?
一方、敵側ドイツ軍も手ぐすねひいて彼らを待ち受ける。ケン・フォレットの素晴らしい点は、敵側のキャラクターをも充分に描きこむ点だ。
今回もロンメルの部下である情報将校のフランク少佐。彼は恐るべき尋問並びに拷問のプロでもある。
そして悪名高きゲシュタポの面々。ゲシュタポの中には拷問そのもものが好きという変態的異常性格者も交じっている。この拷問シーンは気の弱い読者は読み進めることが出来なくなるであろうほど凄まじい。
全てのお膳立てが整い、いよいよ雌の鴉たち(原題のJACKDAWS)が闇夜に向かって敵地へパラシュート降下していくのだが・・・。

まさに“ページターナー”になることは請合い!の作品である。久しぶりにスッキリさせてくれる冒険小説だ。




谷甲州著『紫苑の絆(上・下)』

2008-09-01 19:13:53 | 「タ行」の作家
谷甲州著『紫苑の絆(上・下)』幻冬舎 2003.09  第1刷 各1,900円+tax 

オススメ度★★☆☆☆


上下巻を通し、プロローグだけが良かったと言っても過言ではない。
トンネル工事の場面に移り、「あれっ!これは読んだんじゃないか?」と自問するが記憶が定かじゃない。
改めて発行年を確かめると2003年とある。う~む、読んだような読まないような。
「ま、いいか・・・」と読み進めると小樽のシーンもなんとなく覚えがあるが、その後ウラジオストックに渡った以降は全く記憶なし。
なんでこんな事をくだくだ書くというと、要は読んでいて飽きてくるのだ。ひょっとして数年前に読んだときに「投げて」しまったのかも知れないのだ。

残留日本軍人、中国系組織、白系ロシア組織、朝鮮系民族ゲリラなどなど多彩な勢力が入り乱れ、それぞれの利権、思惑のための抗争が繰り広げられるのであるが、描写が反復を繰り返すようで飽きてくるのである。
またも前回読んだ『パンドラ』のトラウマがよみがえる。
「谷甲州」ってこんな作家だったっけ???
『神々の座を越えて』あたりのキレはどこに行ってしまったの?

アマゾンからのストーリー展開を紹介すると
【シベリア出兵から帰国して以来、無頼の徒となっていた松涛禎は、かつての恋人・綾乃から失踪した鍬形正吾の捜索を頼まれた。鍬形は同郷の戦友であり、松涛から綾乃を奪った男でもあった。複雑な思いで依頼を受けた松涛は何度も危機を潜り抜ける中、大陸に消えた父を捜す娘・小田桐千佳と出会う。鍬形が小田桐を追っていたという情報を得た松涛は、千佳を連れ厳寒のウラジオストクに渡る決意をする。だがそこはソ連軍と民族派武装集団、そして密輸利権を争う中国系組織と白系ロシア組織がそれぞれに熾烈な闘いを繰り広げる非情の地であった…。】

となり、いかにも面白そうではあるが期待に反してつまらなかったのを正直に告白する。
本当にこの作家は女性とのカラミを描くのがヘタクソだなぁ・・・・