min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

サリー・ビッセル著『人狩りの森』(

2013-03-26 16:44:06 | 「ハ行」の作家
サリー・ビッセル著『人狩りの森』(原題:In the Forest of Harm)二見書房 2001.10.25 第一刷 829円+tax

オススメ度 ★★★★☆

米国のノースカロライナとテネシー州境に広がるナンタハラ国有林で繰り広げられる“人狩り・サバイバルゲーム”。と聞くと何か安っぽいB級スプラッター映画のような内容かと思ってしまう。
だが原題にある通り、禍々しくも神秘的な深い森の中で人間の本性みたいなものが丸裸に剥かれていく物語である。
著者はサリー・ビッセルというチェロキー族の血を引く一介の主婦であった。そんな普通の主婦が同じくチェロキー出身の女性地区検事補を主役にして、彼女の知的職場環境から遠く離れた森林山岳地帯を舞台にした戦慄のサバイバル・ゲームを描いたところに一番興味を惹かれたのだ。

主人公メアリー・クローはアトランタの法廷でいまアトランタの資産家の放蕩息子を第一級の殺人罪で有罪を勝ち取った。父親はその財力にものを言わせて彼の幼少時代からかばって来たのであるが、メアリーの鋭い追及の結果あえなく敗訴した。
メアリーは大学時代の旧友ふたりを誘ってかの地、生まれ育ったナンタハラ国有林へキャンプに出かけた。かの地は12年前に母を何者かに殺害された曰く因縁の地であったのだ。彼女の母が眠る墓地へそして母が殺された家を訪れる鎮魂の旅でもあった。
だが3人を待ち受けていたものは凶悪な殺人鬼とメアリーを狙う裁判で負けた放蕩息子の兄という追手であった。

普通の主婦が描くデビュー作とは思えない傑作であるのだが、最後のクライマックスとも言える場面展開にもう少しページをさいて欲しかった。クライマックスに到る過程の描写とのバランスが取れないほどあっさりとエンディングしてしまったのは残念だ。

東直己著『抹殺』

2013-03-17 15:58:35 | 「ア行」の作家
東直己著『抹殺』光文社 2007.5.25 第一刷 1,600円+tax

オススメ度 ★☆☆☆☆

本編は8作の短編をそれぞれ「小説宝石」及び「ジャーロ」(光文社が発行するミステリー誌)に発表したものを集めた短編集。
車椅子に乗った画家と特別老人養護施設の理事長が組む異色の殺し屋の物語。発想は東先生にしては良いのだが、どうにも物語の内容、構成、展開がいただけない。
特別老人養護施設の理事長龍犀が“営繕係り”と称する謎の機関?組織?から暗殺指令を受け、画家から暗殺者に変身する宮崎一晃に実行を命ずるというものであるが、この“営繕係り”については最後の「私怨」まで明かされない。
暗殺理由そのものの説明が全く不十分であるばかりではなく、狙撃に使用する特殊な銃器に関しても読者を納得させるようなディティールが無い。これは作者自身がその方面の知識がいかに希薄であるか自己曝露しているようなもの。途中なんどもこの本を投げ出そうとしたが思い止まって最後まで読んでしまった。
最終編「私怨」で“営繕係り”の組織の概要が多少語られるものの、結末があまりのもお粗末で苦笑いしてしまった。
ススキノ便利屋シリーズも終わり、しばらく東先生の作品に触れることはなかったが、こんな駄作の群れを三流雑誌に投稿していたのね、センセ・・・・





石田衣良著『夜を守る』

2013-03-10 21:13:28 | 「ア行」の作家
石田衣良著『夜を守る』双葉文庫 2010.5.16 第一刷 619円+tax

オススメ度 ★★☆☆☆

東京は上野のアメ横が舞台。夜、ひとりの老人が黙々と放置自転車を整理していた。
繁が傍を通りかけた時突然「あんた4年前の12月12日に何をしていたかな」とその老人に聞かれた。とっさに答えられるわけがない。
物語の全てが始まった瞬間だ。繁は近くのレンタル・ビデオ店でアルバイトするフリーター。この時彼が向かっていた先は電車のガード下にある定食屋「福屋」であった。暖簾をくぐると彼の幼馴染である区役所に努める通称“ヤクショ”とアメ横でアメカジを売る店の二代目直明、通称“ノモハン”が待っていた。彼らはそれぞれの仕事を終えた後はたいていこの店で飲んだり食事をしていた。
そこへ多少知恵遅れの由紀夫、後に“天才”と呼ばれたのだが、が現れて繁たちのグループに入りたいと言ったものだ。由紀夫はちょっと前に地元の中学生に絡まれているところを繁たちに助けられたのであった。
さて、そんな彼を追っ払うアイデアが繁の頭に閃いた。先ほど見かけた老人がやっていた自転車整理を彼にやってみろ、ガッツを見せてみろと言った。アメ横は500メートルはあり放置された自転車の数は数百台は下らないと思われた。
ひととき飲んだ後彼らがアメ横を通りかかったら、背中からもうもうと湯気を出して自転車を片づける天才の姿があった。
先に登場した老人は息子を4年前のアメ横のガード下で何者かに殴られ、それが原因で死んでしまった。その犯人を探して、今でも目撃者がいないかを聞いてまわっているのであった。この老人と出会った事をきっかけに4人の若者は少しでもアメ横の雰囲気を良くしたいと考え、放置自転車の整理やゴミの回収そして酔っ払いの介抱などを行う“ガーディアン”を結成したのであった。

彼らの地道な活動は周囲の商店街の人々に徐々に認められその存在を知られていったが、特に事件らしい事件を解決した訳ではない。確かに窃盗犯を見つけ出した事もあったが、ほとんどのエピソードには切迫したシリアスなものはない。
最後に上述の老人の息子を捕える顛末がなければ何とも気の抜けたガーディアン達なのである。IWGPシリーズに登場するようなシャープな主人公や脇を固める登場人物を期待してはならない。
石田衣良さんにしては何ともチープな題材を選んだものだ。主人公の繁(アポロ)や他のメンバーのキャラクター造りはそこそこ職人芸的に上手いのだが、やはり物語全体が薄っぺらな感じになったのは否めない。


垣根涼介著『勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4』

2013-03-08 05:48:54 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『勝ち逃げの女王 君たちに明日はない4』新潮社 2012.5.20 第一刷 1500円+tax

オススメ度 ★★★★☆

このシリーズも本作で4巻目となった。巻を重ねるにつれ多少マンネリぎみとなったのではないかとの疑念を持ちながらも毎回楽しみに読ませていただいた。
さて、今回はどんな物語を垣根さんは用意してくれたのであろうか。今回は本編の表題となった「勝ち逃げの女王」をはじめ「ノー・エクスキューズ」「永遠のディーバ」そして「リヴ・フォー・トゥデイ」の4編で構成されている。
本作の大きな特徴は「勝ち逃げの女王」及び「リヴ・フォー・トゥデイ」の2編において顕著である。リストラで解雇を促すとは逆に全体的にはリストラの為の面談であるもののこの対象者は何とか残留させて欲しいという顧客の要請があるという、ちょっと今までにはないパターンである。
「勝ち逃げの女王」で語られるAJAという航空会社はJALであることは明らかであるし、「リヴ・フォー・トゥデイ」の「ベニーズ」とは「デニーズ」であることが容易に想像される。
「ノー・エクスキューズ」での「やまさん」とはかって倒産した「山三証券」であり、「永遠のディーバ」での「ハヤマ」とは「ヤマハ」を指す。これら4つの異なる業界を取り上げて、それぞれの事情の下真介の面談が始まる。いつものようにこれらの業界内の問題点が簡潔に社長の高橋から語られ、読者はリストラのターゲットそして重要なポイントがよく分かる仕組みになっている。
この辺りはいかにも作者の手慣れた語り口で巧いのだ。4編の中で「ノー・エクスキューズ」だけが現実にリストラの面接の無い異色の展開となっている。ここで初めて真介が務める『日本ヒューマンリアクト』社の社長である高橋の過去が明らかになるところが興味深い。
一般の読者には「永遠のディーバ」が一番グっと来るものがあるであろう。個人的には「ノー・エクスキューズ」で団塊の世代のふたりが登場し、彼らの生きた時代の“臭い”みたいなものが語られる部分が好きだ。恐らくこの時代を共に過ごした世代の者だけが共有できる感覚、認識ではなかろうか。
ともあれ、本シリーズの4作目は決してマンネリに陥ることなく新たな切り口が作者によって示されたと思う。更なるシリーズの続編に期待したい。





ベン・アフレック監督米映画『アルゴ(原題:ARGO)』2012年制作

2013-03-05 17:39:19 | 映画・DVD
1979年11月に発生した在テヘラン米国大使館占拠及び人質事件のサブストーリーである。
米国大使館が学生を中心としたイラン国民によって占拠された際、この混乱のさ中かろうじて大使館を脱出しカナダ大使私邸に逃げ込んだ6人の外交官がいかにしてテヘランから脱出したかのサスペンス・ドラマ。
CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)はこの6人を救出するために架空のSF映画「アルゴ」の制作という名目を作り、テヘランに潜入。6人を制作スタッフに偽装させメヘラバード空港から一緒に出国しようという大胆不敵な作戦を考えだした。
傍目に見ても荒唐無稽な計画であるが、これは事実に基づいた物語というからあきれてしまう。
ま、頭を空っぽにして単なるエンタメ映画として鑑賞する分には面白い。

が、本作品が今年度アカデミー賞作品賞を受賞したと聞き、それはないんでないの?と思わず驚いてしまった。内容的にはアカデミー賞を取るほどの映画としての芸術性はさほどあるとは思えない。どちらかと言えば「反イラン映画」「CIA称賛映画」と受け止められてもしょうがない。
現在イランが核開発疑惑を受け欧米による経済制裁がなされる中、米国がこれ以上核開発を続行するのならば軍事介入も辞さないとアナウンスした状況を考えると、やはり“政治的理由”によるアカデミー賞受賞という線が強い。
映画の冒頭、大使館占拠事件に至るイラン現代史がナレーションのみでさらりと語られるのであるが、これはいかにもおざなりな説明であり、史実はこんなものではない。
イラン現代史の中でアメリカ、具体的にはCIAがなした事実はイラン政府がアメリカを称して“大悪魔”と呼ばわったほどの悪行の数々を行ってきた。
特に第二次大戦後、モサデク政権を陰で倒し、パーレビ傀儡政権を樹立したわけであるが、パーレビ国王在任中の秘密警察組織SAVAKを使ってのCIAの暗躍には戦慄すべきものがあった。当時の米国大使館はまさにCIAの巣窟と言っても過言ではない。

以下余談ではあるが、当時のイランに滞在していた僕はある種感慨深く本作品に見入っていた。1980年の8月に初めてイランの土を踏んだわけだが、当時のテヘラン市内のホテルから見たテヘラン郊外の山並やバザール(市場)の場面が懐かしい。
熱狂的とも狂信的とも言えるイラン人群衆の雰囲気もよく映像に捉えられているのには感心してしまった。
ホメイニ革命が起こった後にもパーレビ時代を懐かしむ人々が僕らの周りには多かったがやはり国民の貧困層には根強くホメイニ支持者が多かったわけだ。
イラン革命防衛隊は通称コミッティと呼ばれたが、その存在は旧SAVAKに劣らず国民に恐れられた。いわばナチスの親衛隊にも匹敵する組織であった。
映画でもその禍々しい雰囲気が出ており、僕も虫酸が走ったほどリアル感が出ていた。


百田尚樹著『海賊とよばれた男 下』

2013-03-03 13:16:59 | 「ハ行」の作家
百田尚樹著『海賊とよばれた男 下』講談社 2012.7.11 第一刷 1600円+tax

オススメ度 ★★★★★


下巻のハイライトは何と言っても自前のタンカー日章丸によるイランからの原油買い付け強行であろう。
戦後、GHQの配給統制に耐え、石油の輸入自由化を切に望んだ鐡造の前に立ちはだかったのは石油メジャーのセブンシスターズであった。
彼らは日本の石油業界のほとんどを傘下に収め(株式の半数以上を入手し外資系子会社化を図った)唯一の独立系民族資本会社である国岡商店の外油輸入を阻んだのだ。
そこで鐡造は彼らの全世界規模のネットワークから外れたイランの原油入手を狙ったのであった。しかし英国は英国のアングロ・イラニアンがイラン政府によって同社の所有した石油施設を国有化されたことに抗議し、イラン産原油の所有権を主張し国際裁判にかけていた。
この間イランの原油をタンカーで運び出そうとしたイタリアのタンカーは英国海軍によって拿捕され積み荷の原油は没収されるという事件が起きていた。
国岡商店のタンカーがイランの原油を持ち出そうとすればイタリアと同じ目にあうことが予想された。
しかし鐡造は自社のタンカーをペルシャ湾に向けたのだ。この間の鐡造の戦略と読みは見事と言えた。セブンシスターズの妨害をはねのけ、英国海軍を向こうに回し見事に裏をかいた鐡造の快挙は日本国民の喝采を浴び世界を驚愕させた。
こんサムライがまだ日本にいたとは!と世界の耳目を一身に集めた鐡造であったが、彼は自社の為のみに行ったのではなく日本の将来の為を思って成し遂げた。このことは特筆すべき事である。
20代の学生の時、秋田で出合った石油に魅せられ、以来70年間を石油に捧げた国岡鐡造という稀有な巨人の英雄的人生を綴った本書は、今混迷の中にある現代日本人の多くの方々に読んで欲しい作品である。本書は百田氏の『永遠の0』と並んで彼の金字塔作品となったことを確信する。