min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

疾走

2008-05-20 19:15:25 | 「ア行」の作家
東直己著『疾走』角川春樹事務所 2008.4.8 第一刷 1900円+tax

オススメ度★★☆☆☆

丸高建設の社宅に住む児童を中心に、同社がJVで建設した日高の「低レベル核廃棄物処理施設」の見学会が催された。運転手と引率の同社の女性社員そして児童合わせて26人がバスで訪れた。
そこで見学者は施設内部で起こった事件、見てはいけない事件を見てしまった。施設の所有者「機構」及び警備を請け負う会社が取った処置とは?それは信じられない惨劇を引き起こすことに。

あの殺人マシーン健三が三度(みたび)の登場となる。惨事からからくも逃れたのは又も恵太(前作「残光」で命を狙われた少年)であったのがミソ。実際はもうひとり彼の友達の少女がいたのだが。
これは著者が「柳の下の3匹目のドジョウ」を狙った作品である。

物語の設定がいかにも苦しい、というか荒唐無稽と言わざるを得ない。
今時、イラン人の不法滞在者を引っ張ってきて「タコ部屋」に入れるなど、時代錯誤もはなはだしい。
作中でひとりのイラン人がつたない英語でウエノから来た、というくだりがあるが、10年前ならいざしらず、今時東京の上野公園あたりに行ってもイラン人などいるものではない。
「機構」(原燃のようなものか)が取った処置にしても、作中で「小説や映画の出来事ではあるまいし」と何度か出てくる表現なのだが、いかに小説の中でも起こりえない代物と言わざるを得ない。
どんなに荒唐無稽なストーリーであれ、作者に旨く騙されたな、乗せられたな、と感じるのであればまだしも読者は納得するのであるが、「機構」が取る対処はますます現実味から遠ざかるばかり。

作中にてやくざの桐原、便利屋、探偵畝原が登場することによって、作者のファンは喜ぶものの、なにかご都合主義的「共演」と思えてならない。
一番喜んだのは札幌駅西口にある紀伊国屋書店ではなかろうか。同書店に行くと平積みされた本書の脇に「作中になんと当店が登場!!!」と舞い上がった紹介文がケースに入れられ貼られている。
やはり「柳の下にはそうそうドジョウはいないのだ」ということを再確認させられた一篇であった。

サハラ

2008-05-19 07:57:28 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『サハラ』徳間書店 2008.4.30初版 1600円+tax

オススメ度★★★☆☆

主人公である檜垣耀二は気がついた時には周りが一面の土漠で、墜落したヘリの残骸があり傍らにはAK47突撃銃があった。檜垣、いやこの男は自分の名前はおろか今、何故にこのような場所にいるのか皆目分からなかった。この男は全ての記憶を失って倒れていたのだ。
墜落したヘリにあったアタッシュケースにはほとんど黒コゲになったアラビア語で書かれた論文と、かろうじて名前が判読できる「檜垣耀二」名義のパスポートが入っていた。
やがて捜索の別のヘリが飛来し、それを撃ち落すベトウィン姿の男たち。彼らはポリサリオ戦線の戦士たちであった。
記憶がないまま聞くところによると、檜垣はポリサリオ戦線の招きで軍事顧問として赴任する途中、行方をくらましたらしい。
アラビア語の論文は判読できる部分から推して、西サハラにあると思われる新たな石油油田に関するものらしい。
これを檜垣はポリサリオ戦線に持ち込もうとしていたのか。ここから檜垣はポリサリオ戦線の軍事部門総司令官マンスールの全面的な助けを借り、自らの記憶を取り戻し本来の自分の任務が何であったのか必死に探ろうとする。
かっての傭兵仲間であるフランス人ピガールやパリ在住の日本人武器商人、戸崎と会うことによって、記憶を失う以前の檜垣がどのような男であったのかを知り、最近何かのミッションを密かに行う予定があったようだ。
更に調べるに従い、西サハラに眠る新たな油田をめぐって米国、CIA、ロシア、モロッコ、そして日本が絡む壮大な謀略が浮かび上がってくる。
檜垣が最も悩んだのはジュネーブかどこかにPTSDに苦しむ妻を残したままこのミッションに入ってしまった、ということが判明したことだ。
果たして檜垣は記憶を取り戻し、妻の行方を探し出すことが出来るのか?油田をめぐる陰謀とは一体何かを解明できるのであろうか?

どうも部分的な記憶喪失というのが気に食わない。今回は自白剤の投与によって引き起こされたらしいという設定であるが、どうもこの設定自体がご都合主義的に思えてならない。
本編では檜垣は自らが何者であるかを探す旅に出るのであるが、この過程で読者にも彼、檜垣ばかりではなく登場する人物たちを間接的に知らしめる手段として「記憶喪失」が利用されている。
実際、主人公を含めた登場人物及び物語の進行を理解する為には、以前に上梓された「フォックス・ストーン」や「マングースの尻尾」を読まなければ何も分からない。
記憶が戻るまでの半ば“説明”部分にページをとられ、肝心の陰謀の真相、顛末にさくべきページ数が圧縮されてしまい、妙にバランスがとれない構成となってしまったのは残念だ。
だが、陰謀の中味を知った時、よくもまぁこのような発想が出来るものだ!と感心させられるほど著者の国際感覚は研ぎ澄まされたものがある。
久方ぶりの著者の「国際謀略巨編」を楽しんでいただきたいものだ。


駿女

2008-05-16 08:04:49 | 「サ行」の作家
佐々木譲著『駿女』中央公論新社 2005.11.25初版 1900円+tax

オススメ度★★★☆☆

いわゆる“義経伝説”の変形ともいえるストーリーである。
平泉にて、藤原泰衡の裏切りによって討たれた源義経に実は隠し子がいた。義経がまだ平泉に着いて間もない頃、下女と情を通じ、懐妊させたもの。
周囲の配慮もあり、成人するまで藤原氏の家臣のひとり相馬元次郎に命じ、下女ともども糠部というヤマト族と蝦夷の混住する地へ移り住まわせた。
下女は男の子を出産し、名を八郎丸といった。彼は詳細を知らされることなく、元服が近いある日、父とその弟の娘を連れだって平泉に向かった。育ての親である相馬元次郎は初めて義経にその隠し息子である八郎丸を会わせようという計画であった。
ところが会う前日に義経は討たれたのであった。

藤原泰衡は義経並びに実の弟の首を源頼朝に差し出すことによって、恭順の意を呈し、奥州の温存を図ったのであったが、源頼朝はあくまで奥州の併合を画し、関東さらに西国から十数万の討伐軍を差し向ける。
一方、藤原泰衡は義経の隠し子の探索を配下に命じたのであった。

果たして、義経の子八郎丸は迫りくる源頼朝軍そして藤原泰衡の追求の手を逃れ、自らの数奇な運命を切り開けるのであろうか?
本編は相馬元次郎の弟の娘、由衣の視点から描いており、あくまでも従兄妹である八郎丸に付き従い男勝り(馬の調教、乗馬術に秀で、弓の名手)の活躍をする。
歴史は変えようがないのは自明の理であることから、義経の子が鎌倉に攻め上り天下を取ることはかなわないものの、最後の最後に由衣が放つ奇策は読者に大いなるカタルシスを与えてくれる。

落雷の旅路

2008-05-13 17:32:43 | 「マ行」の作家
丸山健二著『落雷の旅路』文藝春秋 2006.10.30 第一刷 2000円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

「星夜」
「海鳴り、遙か」
「夢の影」
「牙に蛍」
「もっと深い雪」
「直下の死」
「波も光も」
「桜吹雪」
「対岸の日溜まり」
「落雷の旅路」

の10編からなる短編集。

先ず一作目の「星夜」を読み出したとたん圧倒させられる。
芥川賞を23才の若さで受賞したという著者の「文学者」としての語彙の豊富さ、表現力の深さ、多様性、に驚愕の念を禁じ得ない。言葉の魔術師とも言うのであろうか。
多分、自分が高校生くらいの若さで読んだとしたら、男の魂の叫びの内容は理解できないかも知れないが、魂の咆哮とも言える文章の表現力に自らの魂も根こそぎ揺さぶられる快感に酔いしれたかも知れない。
だが、もう還暦を目前とした今の自分にはこれらの文章を味わう「体力」が失われてしまったのを自覚する。(著者の丸山氏のエネルギーにただただ感服するのみ)
「海鳴り、遙か」「夢の影」と読み進めるに従い疲れの度合いが増し、「牙に蛍」で多少息を継いでほっとしたものの、もう次からいけない。
「自分はこのような純文学を受け付けない体質になってしまったのか」と独りごち、ほとんど丸山健二氏の世界に浸って味わおうという姿勢ではなくなっている、いやむしろ執拗なまでに抉られる人間の魂の奥底の表現に疲れ果てる。

最後の「落雷の旅路」を読んでがっくりと疲れを感じ、「ああ、こんな読み物はこれだけにしよう」と思う自分がいるのを発見する。
短編集の出来不出来から言えば十分に秀作なのであろうが、他人様に敢えて「読んでみて!」とは言えない気持ちが正直なところであろう。

魔女の笑窪

2008-05-12 08:10:49 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『魔女の笑窪』光文社カッパ・ノベルス 2008.4.25 952円+tax

オススメ度 ★★★☆☆

大沢在昌氏の女性を主人公にした作品は、古くは『相続人TOMOKO』があり、その後『天使の牙』や『天使の爪』なんかがみなさんお馴染みかも知れない。
本編の主人公も女性なのであるが、物語の設定があまりに特殊である。

なんと、「島抜け」(通称地獄島と呼ばれる)をした女が東京でアンダーグランドの世界で成功したものの、地獄島からの追手と対決!というもの。
江戸時代の話しか!?いや、現代の物語であるから唖然とさせられる。
「地獄島」とは一体何か?という謎解きは章を重ねるに従い判ってくるしかけになっているのであるが、謎解きがなされても釈然としないものは残る。

だが、ま、そう堅苦しいことを考えずに「大沢流エンタメ」を楽しもうという心がけで読むとよろしい。
主人公は単なる悲劇のヒロインとしてではなく、一個の極めて自立した女性として描かれており、生き様はまさにハード・ボイルドしている。

本作は先にハード・カバーで出された後最近光文社よりソフトカバーで再び出版されたモノで、本編の続編『魔女の盟約』が既に出されているようだ。
続編がやはり気になるのであるが、さて、どうしようか?



雷桜

2008-05-08 18:03:54 | 「ナ行」の作家
宇江佐真理著『雷桜』角川文庫 2008.3.15 第七刷 552円+tax

オススメ度★★★★★

僕は宇江佐真理さんのファンだ。特に「髪結い伊三次捕物余話」が好きである。そのほかの作品もそうであるがほとんどが江戸深川の下町人情、情緒を描いて我々を魅了してきた。
ところが本作品はそれらの作品とはかなり趣を異にしているのだ。

ストーリーを紹介すると何かつまらない物語にしか映らないような気がするので敢えて詳細は紹介しないが、幼児のときに誘拐された少女が十数年ぶりに帰還し、“狼少女”と呼ばれるほどワイルドな育ち方をした。そんな少女が江戸幕府の御三郷と呼ばれた清水家の殿様と出会い、ありえない恋に陥る様がスリリングに描かれる異色の恋愛時代劇?なのだ。

巻末の解説で、あの冒険小説を語らせると天下一品の評論家「北上次郎」が熱く語り絶賛する、といえば僕ががなりたてる必要など何もない。
この少女の凛とした生き様と、彼女を支える両親、兄弟の深い肉親愛は最後に最高の感動を与えてくれるであろうことをお約束する。是非一読あれ!

アキハバラ@DEEP

2008-05-06 17:32:04 | 「ア行」の作家
石田衣良著『アキハバラ@DEEP』文春文庫 2006.9.10 686円+tax

オススメ度 ★★★★☆


アキバにたむろする3人の若者がネット上の人生相談を主催する「ユイ」の紹介で更に3人の若者が結集し、新たなネットビジネス(と言ってもITビジネス成功譚とも違うのだが)を創造しようとする。検索エンジンなんだけど、今までのと違うのは「進化するサーチエンジン」というか、AI人工知能すら有する画期的な検索システムを創出しようというのだ。
その画期的なシステムに目をつけたのが電脳界の帝王ともいえる中込。彼らの「クルーク」が初期段階で完成した時点で根こそぎ取り上げてしまう。
6人で構成する「アキハバラ@DEEP」は彼らの子供達とも言える「クルーク」奪回作戦を敢行したのだが。。。。

アホらしい内容!とひとこと批判するのは簡単だが、なかなかどうして6人のオタクのキャラが面白い。
敵対する電脳界の帝王・中込及び側近の悪の設定と彼らとの戦いぶりがいかにも劇画っぽいのは笑わせるが、これもありか。

余談なんだけど、美少女戦士?アキラの活躍が一番キラキラしてカッコよい(笑)
ところで、「クルーク」の人工知能の構想は石田氏の別作品『ブルータワー』に登場する人工知能へと引き継がれたのだろう、などとボンヤリ考えてしまった。ま、どうでもよいか・・・