min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

雪嵐

2005-07-31 20:15:29 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著 早川書房 2,310

前作『鋼(はがね)』の続編。前作では主人公クルツとその取り巻きの連中、そしてクルツのパートナーが殺された背景や理由が今ひとつ説明不足であったのだが本作においてその詳細が明らかになってゆく。ということは作者は初めから続編があることを前提として『鋼』を書いたということだ。
前回、この主人公、元私立探偵が正義か悪か?と書いたが、こいつは正真正銘の悪(ワル)であることがわかった。だが、彼の相対する連中がはるかにワルであるためそんな議論は無駄というものだ。
今回はパートナーの殺害を指示したマフィアのドンを前回ほぼ壊滅させた敵対するマフィアの生き残りの女を使ってドンの命を狙う作戦に出たクルツであったが、その前にとてつもない強敵が現れる。この4者4つどもえの戦いの結末やいかに?
本作は前作よりもクール度は増し、徹底的にハードボイルドである。連続殺人機が殺人課の警部になりすます、ということが果たして可能か?という疑問が生じるのであるが、そこは日本の戸籍制度がない米国社会ならではの物語設定なのかも知れない。
とまれ、更に続編を期待できる作品だ。

俺たちのマグロ

2005-07-23 13:54:35 | ノンフィクション
『俺たちのマグロ』<ノンフィクション>(斉藤健次)小学館 2005.7.1 \1400+tax

著者はマグロ船を降りた後、千葉県の船橋でマグロ料理の居酒屋を開いて20年になる。
この間マグロを仕入れる機会を通じマグロをめぐる種々の問題が見えてきて、「マグロが危ない、海が危ない!」という重大な危機感を抱くに至った。そこで著者斉藤氏は北の大間から駿河湾焼津、那智勝浦等の漁港を巡り現場の漁師や漁業関係者から話を聞く。そして懐かしき高知は室戸の安芸を訪ねる。
著者にとっては各地のマグロ漁の最前線基地を訪れ実態を把握するにつれ、マグロの将来が本当に危ういことを確信する辛い旅となってゆく。
最大の問題は「大型巻き網漁法」で小さなマグロの果てまで獲りつくす外国船、なかでも台湾船の跳梁であるという。
日本を始め国際資源管理機構は再三に渡り台湾に注意、警告を重ねてきたが国際ルールを無視し続けているという。だがこの違法な漁獲を買い取るのは日本の商社である。
こうした違法な魚を買わない、売らないという毅然たる態度を日本、日本人が持たない限り違法な操業を続ける外国船を駆逐することはできない。
根本的な問題は実は日本人のマグロに対する飽食こそが問題なのではなかろうかと著者は喝破する。問題意識を持たない日本人がマグロ資源を枯渇させるのでは、と危惧する。
そのほか知られざる世界規模で行われているマグロの養殖(正確には蓄養)の実態にも驚かされる。
なんでここまでマグロに固執するのだろう?日本人!

昨年暮れに斉藤健次氏の前作「まぐろ土佐船」を読んで次のような感想を記している。
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『まぐろ土佐船』<ノンフィクション>(斉藤健次)小学館文庫 オススメ度:★4

現代の「マグロ遠洋漁船」を“コック長”としての内なる目線から描いた感動的なドキュメンタリー。500トンに満たない小さな漁船は途中獲物を専用運搬船に移しかえ2年にも及ぶ連続操業を行なう。生死をかけた海の男達の濃密な人間関係と想像を絶する自然の猛威にただただ魅入られるように読んだ。ゆめゆめマグロを粗末に食せなくなる一篇。
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2005-07-20 19:20:36 | 「サ行」の作家
ダン・シモンズ著 原題:HARDCASE 早川書房 2002.5.31 1900+tax

ダン・シモンズの著作は前回の「ダーウィンの剃刀」に次ぎ2作目。
本作の主人公はかなり強烈!正義の味方かはたまた悪の権化か一概に判断できない存在である。

私立探偵のジョー・クルツは事務所のパートナーであった赤毛のサマンサを惨殺されたのであるが、殺した相手を探し出すや躊躇することなくその男を襲い殺してしまう。
冒頭からその殺人シーンから入り、11年のムショ暮しを終えシャバへ出てきたところから物語りは始る。
ムショの中にいても「懸賞首をかけられており、無事シャバに戻ってきたこと自体が奇跡とも語られ、主人公ジョー・クルツが置かれた立場は容易でないものが想像される。
ムショから出て直ぐに向かった先がマフィアのドンであり、ファミリーのトラブルの調査を申し入れるのであるが、とたんに殺し屋が現れ命を狙われる。
殺し屋の面々がまた空恐ろしい連中ばかりで、一体この連中を雇っている背後にはどんな奴が存在するのか読むほどに緊迫感が増してくる。
とにかく主人公を含め登場する人物がみな超ハード・ボイルドしてる?感じだ。特に通称“デンマーク人”と呼ばれる殺し屋に至ってはこっちを主人公にしたいくらいクールなのだ。
全編に渡るクールな暴力シーンには背筋が冷たくなるほどで、ドンデン返しにつぐドンデン返しでこの男(主人公)はいつまで命が持つの?とハラハラドキドキ。
「固ゆで卵」度満点の一作であります。オススメ度4★

鬼の剣

2005-07-12 13:48:11 | 時代小説
田中光二著 ハルキ文庫2005.6.18 620+tax

上背が七尺を超え五尺の長刀を背中に吊るした異形の剣士、その名は無双伝鬼。
仙台藩の松林道場を皮切りに江戸を迂回しながら各地の有名道場破りを繰り返し列島を南下している。この異形の者の正体と目的は何か。尾張柳生の里にある理由で蟄居を命じられていた柳生十兵衛はこの無双伝鬼の討ち取りを父から命じられる。
十兵衛は無双伝鬼の目的地は肥後の国であることを直感する。かの地には天下無双の剣客・宮本武蔵がいた。
天狗の落とし子かと思われる無双伝鬼の剣。その異常な膂力は人間離れしており、かつその敏捷さは空を飛ぶツバメさえも切り落とす。ま、ちょっと荒唐無稽な剣法ではあるが迫力は十分だ。
やはり最大の関心は宮本武蔵との一騎打ちだ。そして十兵衛は使命を全うできるのであろうか。

時代小説としてはかなり奇妙なテイスト(柳生十兵衛と宮本武蔵の組み合わせなど)を持っている。それもそのはず田中光二といえば初期の頃は優れたSF作家として鳴らした作家であり近年だと仮想戦記もので名を売っている。
一体いつから時代小説作家に転向したの?と聞きたくなるほど、個人的に作家イメージと内容が重ならない点にその違和感の理由があるのかも知れない。
軽く読み流す程度には楽しめる作品だ。

ラスト・ライト

2005-07-08 16:42:41 | 「マ行」の作家
アンディ・マクナブ著 角川文庫 H17.4.25895+tax

元SAS隊員の作家である。本作はニック・ストーンシリーズの第4作ということであるが初めて読んだ。
前作を全く読んでいないので多少人物のキャラがよく分からない。印象としては随分しまらない感じのイギリス情報部の下請工作員である。
最初に指示された狙撃ターゲットの人物に躊躇した彼は、情報部の上司に抹殺されそうになる。ここは彼の「保険」が奏効し、次の指令をまっとうすれば命は助かるという譲歩を得る。しかしニックには致命的な“人質”を情報部に取られている。この辺りの経緯は前作を読まなければわからない。
狙撃しそこなった同じターゲットを追ってパナマのジャングルに赴くのであるが・・・。とにかく主人公がショボい。が、いざとなると輝きを示すのであるが、なんか思考と行動がぎくしゃくして気にくわない。単なる狙撃の依頼の裏には想像を絶する陰謀が隠されていた。はたしてニックはミッションを遂行し無事帰ることができるのか?

アンディー・マクナブのドキュメンタリーな作品「ブラヴォー・ツー・ゼロ―」を読んで、実際その作戦に参加した著者が語る“事実”の迫力に感動した記憶があるのだが、本作のようなフィクションになるとどこかやはりピンとこない感じがする。