min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

挑発者

2007-06-24 22:11:51 | ノンフィクション
東直己著『挑発者』角川春樹事務所刊 2007.6.8 1,900円+tax
★★☆☆☆

私立探偵・畝原シリーズの最新刊。冒頭からこんなことは書きたくないが、東先生は正直もうネタ切れしたと言わざるを得ない。この畝原シリーズばかりではなく俺シリーズにおいても感じたことであるが、もう札幌、いや北海道にはこの両シリーズにて語られるべき“巨悪”は存在しない。
東先生が最も忌み嫌い憎んだ「道警の腐敗・汚職」について書き込み、書き上げた時点で彼の怒りの最大の対象はなくなってしまったと言っても過言ではない。

今回のネタは脈絡があるようで実は無い3つのストーリーが並行して語られるのであるが、結末は最初からおぼろげに分かる気がすることから読むほうも力が入らない。
特に前半から中盤にかけて夜のホステス嬢のコンペティションに係わる饒舌な語り、描写は読む側からすればかなりの忍耐力を強要される。
地元の、男女にかかわらないのだが、会話における“北海道弁”にしても「今頃こんな方言使う連中はそうそういるもんじゃない!」と鼻についてしょうがない。

初期作品の「渇き」や「悲鳴」にみられる硬質なハードボイルドを期待するには、今の東先生自身が「たらふくメシを食いすぎている」ために無理な注文なのであろうか!?

欅しぐれ

2007-06-22 21:21:02 | 時代小説
山本一力著『欅しぐれ』朝日文庫 2007.2.28第1刷 600円+tax

★★★★★

通常ならけっして出会うことも、ましてや親交を結ぶなどありえようがないはずの男と男が出会い、ほぼ一瞬にして「相手の器量」を見切り互いに惹かれあう、という物語。
ただし、高村薫ばりの“やおい”の臭いは一切しない。

ひとりは江戸深川の大店、桔梗屋の五代目当主である太兵衛。いまひとりは同じく深川で賭場を張る貸元である渡世人、猪之吉。
このふたりが出会い、親交を結ぶさまは読んでいて気持ちが良い。ある程度年輪を刻み、内容は相互に違うもののそれぞれ“修羅場”をかいくぐって生きてきたふたり、互いに住む世界は違うものの「男気」あふれるふたりの生き様が眩しいほどだ。

物語は、太兵衛の店が何者かの指図により乗っ取りを図られる。その乗っ取り実行犯の親玉及びその手下どもは、最初はからめ手(経済的手段)から最後は正面から(暴力的手段)桔梗屋を付け狙う。
太兵衛から店の後見人を頼まれた猪之吉が、己の持つ全ての力を振り絞りこの敵に立ち向かう。現代で言えば壮絶なエスピオナージ戦がお江戸で火花をはなって繰り広げられわけだ。
猪之吉は戦う、全ては「友情」のために!
彼の「男気」、それは単に情念の世界にとどまらず、実務としての段取り、気配り、先読み等々、まさに「男の美学」といっても過言ではなく、平成の腑抜けの男読者たちを唸らせるに違いない。
『損料屋喜八朗始末控え』に続く山本一力氏の骨太な時代小説だと思う。出来はこちらのほうが上とみた。


Gボーイズ冬戦争―池袋ウエストゲートパーク7

2007-06-19 23:34:36 | 「ア行」の作家
石田衣良著『Gボーイズ冬戦争―池袋ウエストゲートパーク7』文芸春秋刊 1600円
★★★☆☆
今回は「要町テレフォンマン」「詐欺師のヴィーナス」「バーン・ダウン・ザ・ハウス」「Gボーイズ冬戦争」の4話から構成されている。

今や池袋の高名な“お助けマン”となったマコト君の、トラブルシューティングの腕も上がった様がよく描かれており、読者は安心してサクサク読み進めることが出来る。1作から3作はそんな感じの短編である。

最後の「Gボーイズ冬戦争」はちょっとトーンが変わり、親友?のGボーイズのキングの危機(Gボーイズの内紛)に際し自らが身を挺してキングを守ろう、という意気に燃えるマコト君。
池袋の負の勢力の安定したバランスを崩そうという外部勢力に対し、池袋の2大ヤクザ組織、その予備軍とも言えるGボーイズの頭が集まる対策会議?に同席するマコト君。
本人はけっして喜んで座っているわけじゃない、と弁明するのだが、やはり「マコト君って何なの?」という素朴な疑問がわいてくるのを押さえることはできない。
そろそろマコト君の立位置の設定が物語構成上難しくなってきたのではないだろうか?

ディックさんがかって書いておられたように、このシリーズはR.B.パーカーの「スペンサー・シリーズ」にだんだん似た雰囲気がしてきたようだ。そろそろ卒業しようかな・・・


憑神

2007-06-15 23:43:06 | 時代小説
浅田次郎著『憑神』新潮文庫 H19.5.1発行 514円+tax
★★★★☆(今回から星5つ評価を開始いたします)

別所彦四郎、260年続いた御徒士組に属すのだが見事なまでに“貧乏”である。
この男、そこそこ文武両道に優れ世が世なら他人より出世も望めたのであろうが幕末の混沌とした世相の中で次男の身でろくな仕事にありつけるものではない。
男子の嫡男がいない他家の嫁婿として迎えられたのはまだ運が良かったとも言えようが、男の子が誕生したとたん“お役御免”とばかり離縁されて実家に戻りゴロゴロするばかりの体たらく。
一杯の蕎麦と店主に酒をおごってもらって酩酊した帰り道、ひょんなことから土手の草むらに隠れた小さな祠に神頼みしてしまったのが運の尽き。
ここは「三巡稲荷」といい、神は神でも“憑神”といわれるとんでもない神様であった。
霊験あらたか、さっそく彦四郎の前に現れたのはなんと“貧乏神”であった。次は“疫病神”こうなれば残るは“死神”と相場は決まっている。
この神々がまたユニークで、擬人化しての登場となる。こうなるともう荒唐無稽な話で普通の作家が書くと噴飯ものになるであろうところを、さすが浅田先生、見事に読者を欺き笑わせてくれる。
だが単なるユーモア怪奇小説と思われると困るのである。浅田先生はここで極めて真面目に『人は何のために生きるのか』という大テーマを大上段に振りかざし読者に問いかける。読者にだけではない、先の神々にまで問いかける始末。
かくして神をも超える人間、彦四郎の感動的な終末が読者をして感動の極みに誘うのだ。いつもながらの浅田先生の天才詐欺師的技法の真髄が発揮されたストーリーテリングに拍手、拍手!

上海クライシス

2007-06-12 02:34:00 | 「ハ行」の作家
春江一也著『上海クライシス』集英社 2007.04.30  1,900円+tax


1989年、再開発の槌音で活気づいている新疆ウイグル自治区の首都ウルムチの高層ホテルが自爆テロによって崩壊した。六四天安門事件が起こるわずか一ヶ月前の出来事であった。
この事件の実行犯のひとりである少年と彼の妹が巡る苦難の人生の始まりであった。「東トルキスタン民族殉教団」に属するふたりは数々の苦難を乗り越えた後、再び上海で邂逅する。兄はCIA要員として、妹は今なお教団のムッラーによる暗示を受けた密命を抱いて。
共に敵とするのは中華人民共和国。
妹ライラと運命的な出会いをする日本人香坂雄一郎。彼は在上海総領事館の電信官である。ここに「東トルキスタン民族殉教団」及びその鎮圧者としての中国公安、更に中国の国力増強を阻止したいCIAの陰謀が三つ巴となり、物語は北京オリンピックを控えた時代に激しく互いの思惑が交錯する。運命の嵐に弄ばれる香坂とライラの恋の行方はいかに?

かねてより、この中国という“共産党独裁政権国家”なるものは打倒されるべきで「国家の分散」が妥当と考えている僕としては本作で述べられている歴史認識は極めて納得のいくものである。たとえそれがCIAによる分析の形を借りたとしても。いわく、

『毛沢東という人物によって組織された中国共産党一党独裁体制のありようは中国独特のものであって、あたかも軟体動物のように、環境や状況によってその姿をどのようにでも変える、そんな無節操さが、国際社会や中国の民にとっていかに危険であるか(中略)、共産党員という一握りの特権階級が、十数億の中国人民を絶対的な隷属の元に置く。このような形は太古から中国人に刷り込まれてきた。かっての皇帝による独裁体制が形を変えて、今日の共産党独裁にまで脈々と受け継がれてきたに過ぎない。』というもの。まことにその通りだと考える。

更に一歩進めて考えると、そもそも周辺の新疆ウイグル自治区であれチベット自治区の併合も彼ら漢族としての「中華思想」が根底にあると思われ、全ての中国人の諸悪の根源はこの「中華思想」に尽きる感が在る。
したがって、かって森詠が「燃える波濤」の中で述べたように、現在の中国は4つか5つに分かれることが望ましい。
前述の新疆ウイグル自治区やチベットは本来中国のものではないのだから。ましてや彼らは中国人でもないし、完全に独自の文化を築いている民族なのだから。あと、内モンゴルや旧満州の東北部もまたかって漢人が呼んだところの“蛮族”なのだろうから手を出すべきではないだろう。
漢族は漢族だけで固まり、いつまでも勝手に「中華思想」をおしいだけばよろしい。決して外に向かってそのエゴ丸出し、傲慢不遜な態度を持ち出してはならない。

本編に登場する著名な人物はほぼ実名である点が興味深い。例えばマスード(北部同盟の指揮官)オサマ・ビン・ラディン、コンドリーザ・ライス(現国務長官)、江沢民ほか黄菊、買慶林などのいわゆる上海幇、そして胡錦濤(国家主席)。

最後の“落ち”は賛否両論分かれるところであろうが、現実的にはあのような決断を中国人が取るとは到底信じられないことを記しておきたい。エンタメとしては及第点の冒険小説ではなかろうか。