min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

志水辰夫著『待ち伏せ街道』

2011-12-25 10:32:46 | 時代小説
志水辰夫著『待ち伏せ街道』新潮社 2011.9.20 第1刷 

おススメ度:★★☆☆☆

「なまくら道中」「峠ななたび」「山抜けおんな道」の短編3作より構成されたもの。
先に述べたのだが、“通し飛脚”というものは歴史的に実存したものではなく、著者が当シリーズを始めた際に定義した言葉であるようだ。いわく、
「通し飛脚はひとりの飛脚が中継ぎすることなく最終の顧客まで一人で行う。したがって飛脚の力量が非常に大事になる。足も速ければ、腕も立つことはもちろんだが、それだけではだめなのだ。何よりも危険を嗅ぎ分け、どんなときでも自分を抑え、いざこざを避けられる意思と、分別を持ち合わせている人物でないとだめなのである。」

ということで単なる足の速い飛脚のお話とはならないのであるが、どうも今回の話しの筋が、物を届けることから派生する物語から逸脱し、主人公である通し飛脚の好奇心を満たすためだけの行動が目立つ。
確かに「なまくら道中」では仏像を運ぶ仕事を依頼される物語ではあるのだが、主人公並びに脇役の魅力があまりに乏しく今一つ熱中できないまま終えてしまう。
他の二編は上述のように本来の業務から離れ主人公の一方的な好奇心から取る行動であって、その好奇心の中身に対する読者の興味がシンクロしない。
ただし「山抜けおんな道」は時代は変われど女の持つ“したたかさ”がよく描かれていた。
ま、ちょっと著者も自己の袋小路に入ってしまった感があり、もうこのシリーズはこれで終いかな、と思ってしまった。



米映画『リアル・スティール』

2011-12-18 22:58:32 | 映画・DVD
本作の公式HPであらすじ見て下さいネ。

http://disney-studio.jp/movies/realsteel/main.jsp

とってもハリウッドらしい“映画のツボ”を押さえた作品です。ま、ひとことで言えば「ロボットを通して、父と子の絆を回復してゆく」という単純なストーリー。

舞台背景は2020年なんだけど、人間の代わりにボクシングで死闘を演じるロボットたち。登場するロボットの中にはJAPANの影響が大!父親チャーリーが入手した歴戦の中古ロボットのコマンド言語が日本語になっており、息子がゲームで培ったニホンゴで「右、左」という号令に反応する場面には爆笑。
また父子が起死回生の一打を放つチャンスを作ることが出来たG2世代の旧式スパーリング専用ロボットの名前がナント“ATOM”なんですよね。

近々未来にロボット技術がここまで到達するかどうか疑問を持つ方々が多いと思われますが、一度青山にあるホンダ・ショールームで新型アシモ君をご覧になってください。
その可能性が高いことを実感出来ます。
少なくとも“トランスフォーマー”に出てくるロボットより遥かに親近感?が沸くというものです。

主演の父親チャーリー(元ボクサー役)の顔、どっかで見た顔だと思ったらあの「Xメン」のウルヴァル(手が刃物になる)役をやっていた男優でした。それよりも彼の息子マックス役のカナダ出身のダコタ・ゴヨ君。君は転載だ!
完全に彼の魅力に周囲の大人たちは全員喰われてしまいました。恐るべき演技力で末恐ろしい役者になるであろうこと請け合い。
ATOMと踊るダンスが瞼に焼きついて離れません。久しぶりに理屈抜きに楽しめた感動作品です。

Eric Clapton&Steve Winwood Japan Toure 2011

2011-12-13 22:57:20 | ノンジャンル
12月6日(水)、冷たい雨が降る中17時40分頃武道館に着いた。会場は18時からであるが多くの聴衆が既に列をなして並んでいた。
武道館は初めてだ。というか、東京に出てきてから始めてコンサートに来た。
武道館は想像していたほど巨大ではなかったが、今まで経験した室内コンサート会場では最大だと思う。
平日のコンサートだから満杯にはならんだろう、と高をくくっていたら開演前にはびっしりと聴衆で埋まった。
さすがクラプトン、ファンの年齢層も厚いのには感心させられた。僕の前列には20代前半の女の子が二人座っていたのだが、そこへもう70代と思われる老婆が二人やってきて、自分たちの座席の番号が老眼?で読めず、若き女の子たちにチェットを見せどこにあるんか訊いていたw

演目はほとんど聴いたことのない曲ばかりであった。今回共演するスティーブ・ウィンウッドとの兼ね合いもあり、自らの古いヒット曲は差し控えたのであろう。
全般的にブルースっぽい曲目が多かった。エレクトリック・ギターでもアンプラグドの生ギターでも十分に彼のギター演奏の魅力が発揮されていた。
ヴォーカルとしての歌声も声量があり全然衰えを感じさせない。
演奏は超絶技巧とは違った円熟味あふれる確かなテクニックを持ち、聴衆には深いインパクトを与えてくれる。
今回あらためてクラプトンの原点はブルースなのだと認識した。ブラック・ブラックなブルースよりもホワイトっぽいブルースが僕は好みなので、今回のブルースの数々は満足出来た次第。
とはいえ、「レイラ」はやはり聴いてみたかった。これが最初で最後のクラプトン・コンサートとなるだろう、との予感を持って9時過ぎに武道館を後にした。

石田衣良著『非正規レジスタンス』&『ドラゴン・ティアーズ』

2011-12-10 18:50:42 | 「ア行」の作家
石田衣良著『非正規レジスタンス』&『ドラゴン・ティアーズ』文春文庫 2010.9.10,2011.9.10 第1刷 

おススメ度:★★★☆☆

『Gボーイズ冬戦争』以来の久々のIWGPシリーズを立て続けに2作読んだ。
同シリーズは始まって既に10年以上経っているのだが、主人公マコトこと間島誠は未だに20代半ばで、相変わらず生家の果物店で店番をしている。
今やすっかり池袋の街では有名なトラブルシューターとして名を馳せたマコトのもとには種々の“相談事”が持ち込まれるようになった。
シリーズ第8作の『非正規レジスタンス』と第9作の『ドラゴン・ティアーズ』で共通して語られる世界は、現代日本の「格差社会」についてである。

派遣業者から不定期的に送り込まれるいわゆる非正規の労働者は別名“ワーキング・プアー”と呼ばれる。働いても働いてもその生活レベルの向上は期待出来ないし、社会保障制度下の恩恵には与かれない現代社会の最底辺に置かれた労働者である。
著者は彼らを作品の中で、「まるで透明人間のように扱われる」と表現している。社会の中では実在するのだがその存在を注視しようとしない人々が大半である、ということらしい。

さて二編の作品ではそんな格差社会の狭間に埋もれる“透明人間”を更に食い物にしようという企業、黒社会の実態について語られ、更に同じ境遇にあるはずのワーキング・プアーがその仲間を食う、というまるで“地獄絵図”描かれる。
『非正規レジスタンス』に登場する悪質な派遣業者は破綻した「グッド・ウィル」を連想させる。この止まることを知らない“派遣労働”を蔓延させたオペラ好きの前首相って分る?確かにアイツはこの泥沼のような格差社会を作った首班のひとりではある気がする。

『ドラゴン・ティアーズ』においてはこの格差社会の拡大が日本だけに留まらず隣国の中国では更に悲惨な様相を呈していることが語られる。
そこから何とか逃れようとして来日した中国人若者たちは、日本政府の“研修生制度”という法制度の下で日本企業から合法的?に酷使され、更に在日中国系黒社会及び背後の日本の暴力団の餌食にされる者も出てくる。
筆者石田衣良氏は同じくワーキング・プアーの立派な?一員であるマコトの視点を通じて、現代に拡大される格差社会の実態を照射し問題点を抉り出す。
しかしその小さな“世直し”を行うマコト自身がGボーイズという街の不良グループの頭目タカシや池袋のメジャーな暴力団の幹部となった同級生サルの手を借りるわけで、そこにマコト自身というか著者の自己矛盾が露呈されていることに気がつかない。
とまれ石田衣良氏はマコトという一見“リベラルな自由人”という狂言回しを使って現代世相の“語りべ”として自身を位置づけようとしているかに見えるのだが、そろそろその欺瞞性が鼻についてきた。
ま、暇つぶしに読み流すには手頃な作品かも知れない。