min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

オマル・エル=アッカド著『アメリカン・ウォー 上・下』

2018-01-10 09:21:57 | 「ア行」の作家
オマル・エル=アッカド著『アメリカン・ウォー 上・下』新潮文庫 2017.9.1 第一刷

おススメ度 ★★★★☆

21世紀後半、地球温暖化はいよいよ深刻化し、米国の沿岸部は海面上昇により水没し始めた。時の合衆国政府は事態の深刻化にかんがみ石炭や石油のいわゆる化石燃料の使用を全面的に禁止する法律を制定した。
この政府の施策に全面的に反対したのがミシシッピ、アラバマ、ジョージア、サウスカロライナ、テキサスの南部5州であった。
彼らは「自由南部国」を結成し独立を宣言したのであった。
ここに第二次南北戦争という内戦がアメリカ合衆国内にて勃発したのであった。
本編はルイジアナ州に住むチェスナット家が迫りくる戦火から逃れる為難民キャンプに移って以降の悲劇的運命を描くとともに何故このような戦争事態となったかを作者自身の独特な視点から描く衝撃的近未来小説である。
現在のアメリカで内戦なんて起きるわけがない!あまりにも荒唐無稽な内容だ!と思われる方がいるかも知れないが、今日トランプ大統領によって生み出され、アメリカ国民の間に広がる対立と分断の状況を見るにつれ、このような事態が起こり得ることを示唆している。
この作品が昨年の合衆国の大統領選挙の前に書かれたというのを聞いて、この作者の時代を読む鋭さが覗える。著者の名前が語るように彼は中東系アメリカ人である。
エジプトのカイロで生を受け、16才までカタールのドーハで育つ。その後一家でカナダに移住。
カナダの大手新聞社でジャーナリストとして活躍。アフガニスタン紛争、グアンタナモ米軍基地収容所、エジプトの春などを取材してきたとのこと。
このような経歴のある方のみが本編のような作品を書くことが可能であろう。
アメリカ人は知るべきだ。「他人にしたことは自らに降りかかる」と。

小川一水著『天冥の標IX PART2──ヒトであるヒトとないヒトと 』

2017-07-19 10:06:11 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標IX PART2──ヒトであるヒトとないヒトと 』 ハヤカワ文庫2016.10.20第1刷
 
おススメ度 ★★★★☆

Amazonの本の内容紹介に
「セレス地表で世界の真実を知ったカドムら一行は、再会したアクリラとともにメニー・メニー・シープへの帰還を果たした。そこでは新政府大統領のエランカが、《救世群》との死闘を繰り広げつつ議会を解散、新たな統治の道を探ろうとしていた。いっぽうカドムらと別れ、《救世群》のハニカムで宥和の道を探るイサリにも意外な出会いが――。あまりに儚い方舟のなか、数多のヒトたちの運命が交錯する、シリーズ第9巻完結篇」

とあるが遂に現在までに刊行されたシリーズの最後まで辿りついた。最終巻は来年に刊行予定とのこと。一体どのようにこの長い長い宇宙叙事詩をまとめるのであろうか。この似た思いは同じく超長編のダン・シモンズによる「ハイペリオン・シリーズ」を読んだ時以来だ。著者小川一水氏はどのような結末を我々に提示しようとするのだろうか?
救世群(プラクティス)と非感染者(ジャームレス)との戦いは互いに決して譲り合うことが出来ないまでの死闘を繰り広げてきたが、果たして両者だけで和解の道は開かれるのであろうか!?両者を取巻く種々の勢力の中で宇宙人カンミア以外の正体不明の存在があり、それらがどの様に人類に関与してくるのか全く分からない。
特に最後の数ページで記された存在が全く理解できないのは私だけであろうか?


小川一水著『天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと 』

2017-07-04 08:52:18 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと 』 ハヤカワ文庫2015.12.25第1刷
 
おススメ度 ★★★★☆

カドム、イサリそしてラゴスらの一行が惑星セラスの地上にあると言われるシェパード号を探す旅に出たのであったが、「倫理兵器」のロボット群に襲われた。そんな中咀嚼者(フェロシアン)が何故300年の眠りに入りそして今目覚め、セレスの地上に出て来たのか、また彼らの行動の真の目的は何か、その驚愕の事実が明らかにされる。
ここ29世紀のセレスには今、ヒトとそうでない者たちの全てが参集する結果となり、メニー・メニー・シーブの歴史が徐々に明らかになっていくのだが、その全ての裏にあの訳の分からない被展開体ダダーの存在があったことが明らかとなる。
一方、救世群の命運を握るのが宇宙人カンミアの存在であり、人類の生末にも大いに関与するのだが、最終的にはダダーとカンミアの対決になるのではないか?
物語は大円団に向かっているようにも思えるのだがまだ先に何があるのか予測できない。Part2の後10巻で完結予定とのことであるが10巻は未刊である。

小川一水著『天冥の標Ⅷジャイアント・アークpart2』

2017-05-08 11:02:28 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標8 ジャイアントアークpart2』ハヤカワ文庫 2014.12.25第1刷 

おススメ度 ★★★★☆

メニー・メニーシーブ星の首都オリゲネスはある日突然現れた夥しい数の咀嚼者フェロシアンの襲撃に会い、たちまち占拠された。
本編はこのフェロシアンに立ち向かうエランカ大統領率いる新民主政府の戦いと、メニー・メニーシーブ星の真実を探るべく調査行を敢行するカドムらの冒険の二部構成となっている。
本編を読んでいると、一体ここが何処でいつの時代なのか混乱してくる。そもそも星の名前が時代によって変わるし星の地下層にある世界の名称が交錯し訳が分からなくなる。
そして登場人物も数百年に渡って生き続ける者や各年代で微妙に名前を変えながら登場する子孫だの混迷に拍車をかける。
ま、それはともかくカドムらの冒険行が興味深い。地下から2千メートルはあろうかという天井に向かうのであるが、そこに驚愕の真実が一行を待ち受ける。このメンバーが面白い。
唯一の普通の人間?はセアキ・カドムただひとりで、あとは咀嚼者イサリ、海の一統のオシアンとユレイン三世元総督、ラバースのラゴスなどなど。
本編で特記すべきは咀嚼者フェロシアン・イサリのエロさであろうか。もともと硬殻化する以前は救世群のリーダーの長女イサリであって冥王班患者ではあるが魅力的な少女であった。
硬殻化した後もその美貌と艶めかしさが残り、当初よりファンの一人に僕はなったのであるが、今回カドムとの絡みの中で彼女の乙女の部分にグッと来るものがあった。
さて物語はいよいよ最終場面にむかうのであろうか!?











小川一水著『天冥の標Ⅷジャイアント・アークpart1』

2017-04-19 11:09:29 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標Ⅷジャイアント・アークpart1』ハヤカワ文庫 2014.5.20第1刷 
★★★★☆

メニー・メニーシーブ星の水槽に隠れていた怪物がそこから這い出して広まった奇怪な病気。その怪物とは硬殻化した救世群の盟主の長女イサリであった。かくして読者は長い長い物語の航海の後でやっと本シリーズの最初第一部に舞い戻って来たことを知る。
そのイサリは冥王叛未感染の人類との、種の存続をかけた壮絶な戦いの中でアイネイア・セアキを逃すといった救世群への裏切りの罪を問われ妹ミヒロの命によって冷凍睡眠されたのであった。その間何と300年の長きに渡って。
今そのような長い眠りから起こされたイサリに与えられた役割とは何なのだろう?

本編によって今まで謎であった事柄が徐々に理解されるのであるが、物語がいよいよ佳境に入って来た予感がする。だが、まだ先の巻が多くあることを考えると予断は許されないのかも。
本編はイサリの視点から第一部の物語が語られて興味深いのだが、アインの面影を残すカドム・セアキへの恋心が切ない

小川一水著『天冥の標7 新世界ハーブC』

2016-11-19 11:12:37 | 「ア行」の作家
本編の前に天冥の標6がある。1から3の三部構成なのであるが全編これクライマックスとも言えるおもしろさだ。内容は救世群が種の尊厳の為に全人類に対し宣戦布告し全面戦争に突入した。彼らは異星人カルミアンの技術により全員硬觳体となり、今までより更に強力な冥王斑ウィルス爆弾を巧妙に人類の元に送りつけた。
激烈な抗争の結果人類は死滅の淵にたたされたのであった。最後の人類の頼りの綱はシェパード号に乗り込んでいたアイネイアー・セアキであったのだが・・・・
あまりの面白さに感想をアップする間も無く月日が経ってしまった。このシリーズの最後まで読んだわけではないが、この三部作は最高に面白い!勿論オススメ度は★5だ。


で、本編の天冥の標7に移ろう。

小川一水著『天冥の標7 新世界ハーブC』ハヤカワ文庫 2013.2.20第1刷 760円+tax
オススメ度: ★4半

救世群艦隊との戦闘から何とも逃れたアインは恒星船ジニ号でミゲラと再会した。そのジニ号から生存している人類を求めて小惑星セレスへちゃくりくした。セレスの地下シェルターにはスカウトの連中が5万人の子供たちと共に避難していたのだ。
救世群の目を逃れ果たして彼らは生き延びることが可能か!?大人たちのほとんどが死滅し残ったスカウトの連中の年は18,19才というまだ少年とも言える若者たち。その連中が5万人もの子供たちを守る為には、ある種の国家を運営するにも等しい試練が待ち受ける。それは内部権力抗争であり、地下シェルターの維持、拡張、更に救世群からのぼうえいなどなど、未経験な難問が次から次へとスカウトたちの前に持ち上がる。
本編の最後の部分で読者はこのシリーズの第1巻の世界に舞い戻って来たことを知る。ここに至って今迄の謎の多くが解明されたかに思えたのであるが、まだいくつかの疑問は残る。ああ、先が読みたい!

池井戸潤著「下町ロケット2ガウディ計画」

2016-11-01 16:26:42 | 「ア行」の作家
池井戸潤著「下町ロケット2ガウディ計画」 小学館発行 2015.11.10第一刷 ¥1,

おススメ度:★★★★★

前作「下町ロケット」において国産ロケットのエンジン部分に使われるバルブシステムの採用を巡り大手企業帝国重工との激しい受注合戦の末、見事に勝利した東京下町の町工場・佃製作所の快挙に我々読者は大いに感動したのであった。
今度は「ロケットから人体へ」のキイワードの通りロケットエンジンから人工心臓へのバルブシステムへの転用を巡る熾烈な技術開発競争とその受注を巡り新たなライバルの出現を迎え、再び佃製作所の戦いが繰り広げられる。
冒頭物語は前作の流れをくみ帝国重工から新たに佃製作所製バルブシステムの試作品製作依頼があったのだが、試作品が完成し次の量産体制へ移行しようという段階になり、そこへNASAで培ったという技術を売りにサヤマ製作所なるライバルが割り込んできたのだ。この逆転劇の裏には前回佃製作所の持つ特許権で煮え湯を飲まされたと恨む帝国重工の調達部の一部の者たちの陰謀があった。
一端ロケットエンジンのバウブシステムの受注合戦に敗れたように思われる佃製作所に対し、同社が参入しよう試みる人工心臓「コアハート」のプロジェクトに対してもこのサヤマ製作所及びその上に立つ日本クラインそしてアジア医科大学の巧妙な陰謀が繰り広げられる。
更に福井の無名大学より要請のあった人工弁の開発に関してもアジア医科大学の金と権力に目がくらんだ貴船教授の妨害が始まり、佃製作所は会社の存続すら危うくなる窮地へと追いやられたのであった。
この医学界に於ける「白い巨塔」的な陰湿な権力闘争、大企業におけるあからさまな下請け企業への蔑視が行われる中、佃製作所は果たして反撃が可能なのであろうか?
ま、結果はある程度予測は立つものの、後半に描かれる「勧善懲悪」的物語の進行には思わず拍手喝采を叫びたくなるのであった。
下町企業の経営者およびその従業員が持つ技術者集団の矜持に対し心より感動した。皆さんに是非お勧めの一遍であります。


小川一水著『天冥の標5羊と猿と百掬の銀河』

2016-01-25 09:17:18 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標5羊と猿と百掬の銀河』ハヤカワ文庫 2011.11.10 20 第一刷 


★★☆☆☆


西暦2349年の小惑星パラスでの宇宙農業の話と6000万年前地球からかなり離れた惑星の海底で芽生えた何かの自我。こんな二つの物語が相互に進行する。宇宙での農業とそれに従事する親子、それに地球から来た女の物語はそこそこ読ませるのであるが、もう一つの原始サンゴ虫の中で芽生えた自我意識を持った被展開体のノルルスカイン?なるものが出現し、それがミスチフなる別の被展開体となって海底から宇宙へと進出。
事態の黒幕はダダー云々、ああ、もう止めて!一体全体何のことを述べているんじゃい!オジサンには全くチンプンカンプン。
ま、内容なんざ理解できなくとも構わないのだが、この訳の分からない存在が第一巻から出てくるし、また後で出てきそうでそれも結構重要な存在となる予感がするので始末が悪い。
読者の中にはこの世界がたまらなく面白いとのたまう人がけっこういるようで、つくづく宇宙は広いものだ、と思う次第。
前巻ではあまりのエロさに手を焼いたが今度は訳のわからないノルルスカイン他にすっかり翻弄されてしまった。是非正常な世界?に戻って欲しいものだ。



小川一水著『天冥の標4 機械じかけの子息たち』

2015-11-21 15:39:13 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標4 機械じかけの子息たち』ハヤカワ文庫2011.5.20 第一刷

おススメ度:★★☆☆☆

第一巻から登場したラヴァーズと呼ばれるアンドロイドを描く一巻。だがその内容は何と言おうか、一大宇宙エロチカ本とも言える相当な「エロ本」とも呼べる代物とあいなった。場合によっては「フランス書院」あたりに入れても良いのでは?笑
ま、それは冗談としても、一巻丸ごと性愛を描写するに値するほどこのラヴァーズ達に存在価値があるのであろうか。
宇宙のとある人工小惑星に紛れ込んだ救世群のグレア・アイザワ議長の義弟キリアンがその小惑星にある[ハニカム]で体験する凄まじいまでの性体験は読者の想像をはるかに凌駕する。このハニカムを創造しラヴァーズたちアンドロイドを生み出した大師父の究極の思惑は何であったのであろうか。アンドロイドたちに与えた究極の性愛の果てに得られるという「混爾」(マージ)という概念とは?
時に形而上学的な追及もあるがほとんどは形而下的?アプローチが延々と繰り返され辟易されるのみ。結局、この概念(一種の性愛の極み)は明らかにはされない。
元々そんなに意味があるとも思えないが。とにかくこの巻で先に登場したアンドロイドたち、ラゴスやアウローラなどのキャラは理解した。それと同じアンドロイドでもラヴァーズとは敵対関係にある「聖少女警察」のエンゼルアナたちにはあきれ返った。ピンクの髪に超ミニスカ姿そしてその言葉使い。これはアキハバラおたくの世界。笑うのみ。一体この第4巻をどう捉えようか・・・

小川一水著『天冥の標3 アウレーリア一統』

2015-09-08 15:39:45 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標3 アウレーリア一統』ハヤカワ文庫 2010.7.10

おススメ度:★★★★☆+α


第一作で登場した《酸素いらず》(アンチ・オックス)アウレーリア一統を描いた第三作。本シリーズで登場するキャラクターの中でも特に注目する人々、個人である。
なんたって、宇宙の真空状態に適応するために人体改造を行った一統なのだから。その戦闘艦隊を率いる館長はあのスコットランドのキルトを身にまとった金髪の美少年とくる。前作とタイムラグはかなりあるのだが、登場する館長の風貌は変わらずの美少年。
物語は彼らの祖先が何故、どのように人体改造を遂げたのか、その起源となる物語を語る。そしてこの当時銀河系宇宙を暴れまわる海賊たちを狩るハンターとして縦横無尽の活躍を行うのであった。
この戦いの中核には謎のリアクター、ドロテア・ワットを手にしたと思われる救世群の女指導者グレアがおり、更に医師団の一員セアキがいた。
彼らもまた第二作で登場した人物たちの末裔であることが覗いしれた。更に更にこのドロテア・ワットを残したのは宇宙人であった模様でその不気味な一端が披露される。
実は本編にはちょっとしたどんでん返しがあるのだが、それは読んでのお楽しみとしておこう。
とにかく本三作目は過去の二作とはまた趣を異にし、ある意味アウレーリア一統が織りなす海賊戦艦群との熾烈な戦闘を描く手に汗握る一大スペースオペラを見る思いだ。実に楽しいのだ。
さて物語はまだまだ続くようだがこのあたりでひとまず中休みとし他の作品に手をだそうかなと思う。