min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

クリス・ライアン著『反撃のレスキュー・ミッション』

2014-12-28 15:33:25 | 「ラ行」の作家
クリス・ライアン著『反撃のレスキュー・ミッション』(原題:Strike Back)ハヤカワ文庫 2008.10.20第1刷 860円+税

おススメ度:★★★☆☆

今や路上生活者にまで身を落とした元SAS隊員ジョン・ポーターが店主に追い立てられる寸前にみたテレビニュースに映った顔は紛れもなくあのアラブ人であった。
あれは17年前のレバノンでの人質救出作戦。爆弾を身体に巻いた少年が突っ込んできた。ポーターはまだ小さな少年であることに気づき、瞬時に殺すことが出来なかった。彼は少年を殴って気絶させたのであったが、その事が同僚の3人を失う結果となりその責めを一挙に受ける形でその後SASを除隊したのであった。そうだ、あの時の少年だ。笑う時の口の歪み方があの時と寸分変わっていない。今は誘拐した組織ヒズボラの大幹部となっているではないか!
自分をここまで貶めた男ハッサド・ライミ。この17年間に及ぶ雪辱の落とし前をつけようではないか!
SIS(国家情報機関)に乗り込んだものの今のポーターの身なり、姿では相手にされる訳がない。しかし、イギリス政府もその救出の命を受けたSISも拉致された英国人ジャーナリストのケイティ・ダートマスを救いだす手立ては全く持っていなかった。
彼女は唯一人ヒズボラの手に墜ち、今はレバノンにいるのか隣国へあるいはイランに移されているのか全く不明だ。
あと3日以内に英国軍をイラクから撤退させねば、捕まったケイティの首が刎ねられる。その模様がネットで生中継されるのだ。
全英はこのヒズボラの脅しに震撼し、国民の多くは軍を撤退せよ!という世論が高まりつつあった。
レバノンには英国のあるいはアメリカの情報網は寸断されてから久しく無に等しい。
ジョン・ポーターは運よくSIS長官の目が止まったことで、自分はあのアラブ人テロリストを少年時代命を救った。だから自分には会ってくれるはずだ。アラブ人は信義に熱いのだ!と説得。あとの解決策は何もないのだから長官を彼に賭けてみる事に。
捕まったケイティの首が刎ねられるまであと3日であった。それまでに解決しないとネットで彼女の首が落ちるシーンが生放送される。
かくして成功の見込みなどほとんど無い人質レスキュー作戦が開始されたのだ。ポーターがこの絶望的ミッションに身を投じた直接のきっかけは、数日前に17年ぶりに自分を探し出して会いに来た愛娘サンディのためであった。
何としても娘の為に自らの汚名を払拭し、SISから相応の命の代価を得たかった。
そして結局ポーターは先方のハッサドの了解を得てレバノンへ単身のりこんだのであるが・・・・・・。
いや全くこのような作戦が(作戦などほとんどないに等しいのだが)有り得るのか?一体どのような話し合い(交渉の落とし所があるのか)で二人して帰国しようというのか!?
このにっちもさっちも行かない混沌からの脱出は見ものである。そして物語の大円団では読者の胸のツカエがきっと晴らされるでありましょう!

これでクリス・ライアン氏の元SAS隊員シリーズもののほとんどを読破したと思う。北アイルランド、フォークランド、そして中東各地の紛争地に送られるSAS隊員の任務の多くはほとんど地獄と言える戦場だ。間違ってもこんな職業には付きたくないものだ。




星川 淳著『タマサイ 魂彩』

2014-12-24 10:45:10 | 「ハ行」の作家
星川 淳著『タマサイ 魂彩』南方新社 2013.11.11第1刷 1,800円+税

おススメ度:★★★★☆

1545年3月、種子島のリュウタは訳あってひとり琉球へ向かって船を出した。だが途中酷い嵐にあって船は流されどこを漂っているかも分からなかった。更に飢餓のため生死の境をさまよっていた。
その時薄れゆく意識の底に耳慣れぬ掛け声のような音を聞いた気がした。気付いた時には女の膝枕。たどたどしいが和人の言葉をかけられた。女は松前藩にいたアイヌのチマキナであった。
船は双胴船のカヌーでかこ達(漕ぎ手)は顔や体じゅうに入れ墨を施した異形の民であった。着いた先はなんとカナダの東岸であった。

2013年、ユキは親友のアメリカ人考古学者パメラの招きでカナダのクィーンシャーロット島に向かった。そこでパメラが示した物は男女と思われる白骨2対であった。白骨体はカヌーらしき中にあったと思われる。その木質と思われる部分を後日炭素年代測定法で調べたら約7,000年前のものと測定された。

1,500年代のカナダに向かったアイヌのチマキナの胸と現代のユキの胸には全く同じようなターコイズ(トルコ石)がかかっていた。実はチマキナには姉がおり彼女も同じターコイズを持っていた。
物語は時空を超え、数千キロの距離も厭わず二つのターコイズが惹かれあうように会うべき二人を結びつける。

著者いわく誰かがこの物語はSF(ソウル・フィクション)ですねと言ったそうであるが、確かにその類の物語である。
著者は15年前にモンゴロイドたちが氷河期のベーリング海を渡って北米大陸に移動したことを描いた「ベーリンジアの記憶」を上梓した。
だがその後南北アメリカの先住民を調査するにつれ、モンゴロイドの拡散は陸路だけではなく海路にこそあったのだという確信に到った。
物語は上述の二つの異なった年代の主人公たちがやがて7,000年前の男女の物語に収斂されていく様をファンタジックに描いたものである。
しかし、別の見方をすると各章の初めに著者の調査資料や見解が載せられており、それらはある意味著者の調査のフィールドノート的存在となっている。
環太平洋をめぐる壮大な人類の移動、いわゆる“グレート・ジャーニー”に興味ある方は大いに楽しめるはずだ。

さて、本書にも述べられている幾つかの証拠事例に私自身の意見も含め、モンゴロイドの一員である日本人の祖先たちの旅について記したい。

1.3.11の東日本大地震で500万トンにも及ぶ東北沿岸部から流出した建物や船の残骸が、その内150万トンほどがアラスカ、カナダ及び米国の西海岸に漂着し我が国はその補償を余儀なくされた。このことは明確に日本から北米大陸に向かって強い海流があることを証明している。

2.アイヌ民族は松前藩によって禁止される以前は自ら刳り舟を操り、カムチャック半島は勿論、対岸のロシアまで航海し、アムール河上流域まで進出し交易を盛んに行っていた
海洋民であった。
縄文時代は紀元前15,000 年から2,000年まであったと言われるが、彼らはこんな長期に渡って原始人のような狩猟採取の生活を続けたのか?否!近年の三内丸山遺跡の発掘で明らかになったように大規模な集落を持ち畑作なども行っていた。
そして、明らかに彼らは船出した。
何故バヌアツ共和国のエファテ島に5,000年前の縄文土器があるのか。何故南米エクアドルから縄文土器が出て来たのか?

3.3,500年前のインディオのミイラからズビニこう虫の卵が発見された。この虫は寒さに弱くもしもこのインディオの祖先がベーリング陸橋を渡ってやって来たとしたら、この虫が生き残る可能性はない。

その他まだまだあるのだが、我々は学校の教科書では決して習わなかった事項・事例がたくさん出てきている。今後もっと多角的に、統合的に調査を行ってもらいたいものだ。

クリス・ライアン著『究極兵器 コールド・フュージョン』

2014-12-20 17:40:25 | 「ラ行」の作家
クリス・ライアン著『究極兵器 コールド・フュージョン』(原題:Ultimate Weapon)   ハヤカワ文庫 2007.10.20第1刷 

おススメ度:★★☆☆☆

湾岸戦争時特殊任務でイラクに潜入したSAS隊員ニック・スコットは捕えられ厳しい拷問を受けながらも何とか命を失わずに帰還した。だがニックの受けた肉体的、精神的な傷はあまりのも大きかった。
ニックは帰還後、SASを除隊しスイスでスキースクールを開くも酒に溺れ、更に妻を事故で失ったことで益々酒に溺れていった。だが残された愛娘のため生活を立て直し、娘はケンブリッジに進むほど優秀であった。
今のニックにとっては一カ月に一度海外勤務から戻って愛娘セアラに会うのが最大の楽しみであったのだが、そのセアラがどうも失踪したみたいだ。
周辺事情を探った結果、彼女の失踪理由は彼女の大学での研究内容のせいだろうと思われた。
そんな中、セアラの男友達である同じくSAS隊員であるジェドがSISの命令で開戦前夜のイラクへ仲間3人と共に潜入偵察を命じられる。大量破壊兵器を開発中と見られるバクダット郊外にある工場に潜入し兵器の詳細を探れというものであった。
その後、セアラが拉致されたのはイラクであった。彼女の研究テーマにからむ究極兵器がイラクで開発中でありその手伝いをすることが拉致の目的であったようだ。その究極の兵器とは何か?
セアラの救出のためSISがその任務を指名したのは父親たるニックその人であった。
かくして3人がイラクのバクダットへまるで磁石に吸い寄せられるように行くのだが、はたして彼らの運命や如何に!?

といった内容でスケールだけはやたらと大きい。イラク戦争におけるいわゆる「衝撃と畏怖」作戦が発動され、米国・英国軍本隊が侵攻する前夜に空爆(主にトマホーク巡航ミサイルによる)が行われた裏にはこの究極兵器を破壊する狙いがあった。との設定だが、いかんせん開戦直前の敵国内に白人4人がヘリで下され、工場プラント内に潜入するなんぞ、あまりにも荒唐無稽な物語ではないか。それになんぼ天才的頭脳を持った学生とはいえ、人類全体の行く末に影響を与えるような研究をしていること事態容易に納得できない。
ま、単なる戦争アクションものとして読むには面白いだろうが、その信憑性があまりないことから手放しで楽しむことは出来なかった、というのが正直な感想。



佐伯 泰英著『弓張ノ月-居眠り磐音江戸双紙(46)』

2014-12-14 15:47:34 | 時代小説
佐伯 泰英著『弓張ノ月-居眠り磐音江戸双紙(46)』双葉文庫 2014.7.12 第一刷 648円+tax

おススメ度:★★★☆☆


前回、第43巻徒然ノ冬を読んでから第44巻、第45巻と刊行されているのだが、双方とも物語の進行上読まなくとも全く差支えが無いものと判断し飛ばしてしまった。
そしてこの第46巻となるのであるが、停滞していた田沼意次との対立のこう着状態がぞろりと動く気配がした。
田沼意次にだまされ家系図を取り上げられ、そればかりか幕府の要職に取り立ててくれようという意次の甘言に乗らされ多額の金子を貢いだ新番士佐野善左衛門はやっとのこと自分が嵌められた事を自覚し、一時逐電していた。
佐野邸を見張っていた霧子がみたものは行方を絶っていた佐野善左衛門が屋敷に密かに戻ってきたのであるが、腰にあるはずのない刀が差してあった。それも何やら松平定信より借り受けた銘刀であるらしい。
そしてなにやら慌ただしく登城する気配があった。霧子は急に胸騒ぎを覚え、磐音の下へ急行したのであった。
この後、松の廊下で起こった事態を書けば完全にネタバレとなってしまうので書けないが、ここに一年以上足踏み状態が続いた田沼一統との対立に大きな転機が訪れようとしていた。
とはいえ、歴史上実在の人物との間に大々的な表だっての抗争が勃発したわけではないので、その詳細は読んでもらうしかない。
とにかく「こういう決着の付け方があったか!?」とちょっと不意を突かれた感じだ。幾年にも及ぶ激しくも厳しい対立、抗争が終焉を迎えたかに思えた磐音であったが、山形にある元許嫁の奈緒の身に風雲急を告げる事態が発生したとはまだ知る由もなかった。こちらの解決がまた難しそうである。





マーク・グリーニー著『暗殺者の鎮魂』

2014-12-07 18:13:38 | 「カ行」の作家
マーク・グリーニー著『暗殺者の鎮魂』 ハヤカワ文庫 2013.10.20第1刷 


おススメ度:★★★★☆



前作でロシアンマフィアのシドレンコから依頼された仕事を結果的に裏切ってしまったわけだが、「見つけ次第射殺」を指令する側に、新たにロシアンマフィアが加わることにあいなった。
ということでグレイマンことジェントリーは南米アマゾンの奥地まで逃げ込み、ここで2カ月ほどのささやかな安らいだ生活を送っていた。そんなアマゾンの密林まで追手がせまるのであったが、その気配を知ったジェントリーの心の奥底では、それを歓迎する部分があったのだ。
この男はもうこの阿修羅の世界でしか生きがいを感じなくなったのかも知れない。追手の魔の手からかろうじて脱出した彼の向かった先はメキシコ。ここまで南米各地を陸路でやって来たが、ここから船でヨーロッパに渡り、宿敵シドレンコを抹殺するつもりであった。
とある食堂で流れてきたTVのニュースがその後の彼の運命を大きく変える事となった。そのニュースとは昔ラオスである男を救うつもりが逆に救われた命の恩人がいた。まさにその彼の死を告げるニュースであった。
彼の出身地は港からさほど遠くないところにあったため、墓に行ったのであるが、そこで彼の身重の妻に出会ったことが更に彼の運命を決定づけた。今度はメキシコを牛耳る麻薬カルテルの一つから徹底的に狙われることになったのだ。
もうこれで御終いかという危機が何度もジェントリーと彼が護るべき命の恩人の家族に襲いかかる。もちろんジェントリーはタフに危機から脱するわけだが、彼の強さというよりも、その絶妙なタイミングと手段を編み出すこの著者であるマーク・グリーニー氏のあざとさに舌を巻くしかない。
よくもよくもそんな手段を考えだすものだと感嘆する。
先に亡くなった日本の俳優高倉健さんのセリフじゃないけど、本当にこの男ジェントリーという暗殺者は“生きるのが不器用”なのだ。そのあきれるばかりの不器用さが際立った一編である。



米映画『フューリー(原題:Fury)』

2014-12-04 16:10:35 | 映画・DVD
米映画『フューリー(原題:Fury)』

おススメ度:★★★★☆


監督:デビッド・エアー
製作総指揮:ブラッド・ピット
キャスト:ブラッド・ピット、ローガン・ラーマンほか

米国映画としての戦争映画は最近少ない気がする。自分が観た戦争映画として記憶している最近の作品としては
プライベート・ライアン(1998年)
シン・レッド・ライン(1999年)
戦場のピアニスト(2003年)
硫黄島からの手紙(2006年)

くらいなもので、往年の作品数と比べると確かに少なくなった気がする。

戦争の舞台は第二次大戦で、ベルリン陥落までほど近いと思われるドイツ国内。連合軍の米国戦車隊の一台のシャーマン中戦車を中心に描く対独侵攻作戦。
この戦車にはあだ名がついている。その名はフューリー(Fury)、“憤激”の意味である。
ウォーダディー軍曹が率いるシャーマン戦車はある激戦の後、操縦士を失った。後方陣地に戻った戦車は故障個所の修理と新兵の補充を受けた。配属された新兵は8週間訓練を受けただけの18才の少年兵。副操縦士として配属されたものの、自ら戦車の中は一度も見たことがないと正直に語るのであった。
4台のシャーマン戦車は歩兵とともに次の攻略地点(村)を目指して出撃した。途中ドイツ兵の待ち伏せに遭い、他の戦車乗員が火だるまとなった。
新兵のノーマンは藪の中に潜む敵兵を見付けたのであるが発砲しなかった。いや出来なかったのであった。味方の死がノーマンのせいだ!と激しく責められるのだが「自分は一分間に60文字タイプする能力はあるが人は殺せない!」と叫ぶ。
そんなノーマンをみたウォーダディー軍曹は捕えたドイツ兵の射殺を彼に命ずる。出来ない!と泣きわめくノーマンを引きずり、手に拳銃を握らせ、力ずくで発砲させドイツ兵を処刑したのであった。
ウォーダディー軍曹は北アフリカ戦線に始めて投入されその後フランス、ベルギー、そしてドイツと転戦して来た。今こうして生きているのは運もあるが、敵を殺して生きてきたのだ。だからお前も敵を殺せ!とせまるのであった。
残り少ない戦車隊4台の次なる任務は交通の要衝となる、ある十字路の確保であった。その地点に向かった車列を突然襲ったのは当時世界最強であったティーガー戦車であった。たちまち3台のシャーマン戦車の装甲が破壊されたのであるが、フューリーは敢然とこのティーガー戦車に立ち向かったのであった。この戦闘場面は本編中でのクライマックスの一つである。
そしてなんとか辿りついた十字路で地雷に触れて立ち往生してしまったのだが、そこへ進軍して来たのはドイツ軍SS大隊の300人であった。5 対300人の戦いとなるのだが、果たしてフューリーは任務を遂行出来たのであろうか?

臨場感溢れる激しい戦闘シーンばかりがこの映画の売りではなく、ハリウッド映画にしてはめずらしく米兵の蛮行(捕虜の私的処刑やら女性へのレイプなど)をも描き出している。戦時での人間の狂気を余すことなく描くことによって「平和は理想であるが歴史は残酷だ」とウォーダディー軍曹の口から吐露させる。
この映画はもちろん戦争映画であるのだが、新兵のノーマンの成長譚でもある。上述のようにタイプしか打てなかった彼が、数々の戦闘を通して、軍曹が語る「フューリーは俺にとって我が家みたいなもんだ」というように、フューリーの家族の一員となっていく物語なのだ。最後に家長でもあるウォーダディー軍曹が息子のようなノーマンに示した“愛情”に観客は涙することになる。