min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

網野善彦著『海人と日本社会』

2012-04-16 21:26:57 | ノンフィクション
網野善彦著『海人と日本社会』新人物文庫 2009.12.12 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

著者である網野先生は日本中世史、日本海人史を専攻された学者であり、いわゆる「網野史観」と呼ばれた独特の歴史学者であったと思う。
一般の歴史学者からすればある意味“異端の学者”の部類に入れられそうであるが、この先生の影響力は特に『無縁・公界・楽』の著作などで稀代の時代小説家、隆慶一郎の作品群に反映されたのは有名である。

本作は先生が各地で行ったシンポジュームでの講演をいくつか編集したもので、僕はその中で「能登の中世」の部分に大いに興味を引かれた。というのも僕の祖先の地であり、祖先は海人の類であったのではなかろうか?という思いが過去2回に渡る現地調査でおぼろげながら分ってきたからだ。
前近代、中世の頃の能登半島の経済状態を知る上で本書は大いに参考となった。網野先生の最大の着目点は、日本が前近代から果たして「農業社会」といえるのかどうか、だ。

その考察の例を奥能登に求めたのは極めて興味深い。「農業」を語る前に先生は「百姓」「村(むら)」の定義から入ってくる。大方の学者ばかりでなく我々の大半が、百姓といえば農民を意味すると考えている。
古代から近世までの人口の大多数を占めている百姓が農民であり、さらにそうした百姓によって構成される「村」は当然ながら基本的に農村であるが故に、前近代の社会を農業社会とする見方が生じる。
「百姓」とは文字通り本来の意味は一般ピープルを意味し、「村」も群と同じ語源で人家の群がっている区域をさす。
その好例が奥能登半島最大の都市輪島やその他沿岸都市でみられる。もともと能登半島は現代の考えでみれば交通機関が発達していない不便極まる“辺境の地”とみられかねない。
そこで中世の輪島は人口の7割以上が水呑(田畑を持たない百姓)であった。それではこの地域の人々が極貧の生活をしていたのか?となるが、実際は田畑を必要としない貨幣的な富を蓄積した豊かな回船人、商人が活動する日本海交易の先端的な地域だったのである。
このような都市は瀬戸内海の島々や裏日本の何箇所にも見られ、前近代の日本社会が「自給自足」を基本とする「農業社会」であるとする従来の「常識」も、また根底から崩壊し、非常に古い時代から河海等を通じて、活発な交易が広域的に展開し、とくに十三世紀後半以降の社会は、商工業、金融、運輸、情報伝達が極めて活発に展開した都市的な特質を色濃く持つ経済社会であったことが明らかにされつつある。
こうした観点から日本史を見直すと、中世以降の戦国時代、江戸時代といった、ある種の“停滞期”があったものの、明治維新によって急速に日本が強国にのし上がった理由が判ろうというものだ。
網野先生の意思を継ぐ学者先生の更なる研究に着目したい。

ということで、更に僕の一族(回船業を営んでいたといわれる)の詳細を何とか今後調査したいものだ。

和田 竜著『忍びの国』

2012-04-10 07:51:49 | 「ワ行」の作家
和田 竜著『忍びの国』新潮文庫 2011.3.1 第1刷 

おススメ度:★★☆☆☆

先に読んだ『のぼうの城』もそうであったが、この作家さん、ちょっと変わった感じの時代小説を書く方だと思う。
取り上げる時代背景は戦国時代なのだが、そこに登場する主人公はけっしてその時代を動かしたような大物ではない。フィクションはフィクションなのであるが、登場人物たちは歴史の片隅に埋もれてしまうような無名な人物が多いように思われる。
今回の主人公は伊賀の郷で百地三太夫につかえる下人忍者の“無門”である。この男、忍者としての技量は伊賀一と評されるが無類の怠け者でかつ変人である。
さる経緯から京の近くの戦国武将の娘をかっさらい嫁にしようとするが、このお国という女も変わっており、当初無門が約束した稼ぎを果たせないことから夫婦の契りを認めない、ときた。
さて、本編は織田信長の次男信雄が父より先に伊賀攻めを行ったのだが、実は伊賀攻めそのものが迎え撃つ伊賀の「十二家評定衆」の一員である百地三太夫の仕組んだ壮大な陰謀であった、というストーリー。
何故あえて織田軍に伊賀攻めを行わせたのか?は読んでみてのお楽しみであるが、この作家さん、忍者というものを徹頭徹尾、人として描いている。
確かに忍者に信義やら人情といったものが通用しないことは百も承知であるが、ここまで忍者の“あざとさ”を見せ付けられるとげんなりして、登場人物の肩入れがしにくくなる。
今や故人となった児玉清さんが解説で「痛快無比、超のつく面白忍法小説に出逢いたいものだ、と長い間、新人作家の登場を待ち望んでいたが、ついにその念願を叶えることが出来た。」と絶賛しているが、それほどでもないことを書き添えておきたい。