min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

もう一度、逢いたい

2005-08-24 19:06:27 | 「ナ行」の作家
鳴海章についてはこのブログではないが過去幾度か紹介してきました。
’91「ナイト・ダンサー」で江戸川乱歩賞を受賞以来、航空小説としての独自の分野を確立した作家です。あるいは原子力空母「信濃」シリーズでは艦船についての造詣が深いことも読者は知っております。
ところがこうした一連のいわば戦記ものとは別に「俺は鰯」に代表される青春小説、また「撃つ」に代表されるノワールなども手がけ、この作家の真の姿についてはなかなかひと括りにできない部分があります。
こうした他分野を手がけてきた作家ですが、更にホラーまで分野をひろげていたとはこの短編集が出るまで知りませんでした。
’91~’99年にかけて主に小説雑誌に発表した短編7作に書き下ろし1作を加えた8作の短編。
うち4作は航空機あるいは航空機事故にまつわる“怪異譚”が描かれております。最新テクノロジーの集積とも言える航空機と幽霊という取り合わせは常識では相容れないようにも思えるのですが、何故かすんなりとその怪異現象を受け入れることができるのはこの作家の力量のせいでしょうか。
特に「茅蜩が鳴いている」は読んでいて本当に背筋がぞくり、とする作品です。
あと本編の題名ともなった「もう一度、逢いたい」は作者の出身地である帯広が舞台で、私も一時期この街で過ごした時期も有り、ストーリーともども妙に懐かしい感情になってしまいました。
鳴海章の主流な作品群ではないけれどもファンにとっては捨てがたい魅力があります。

極点飛行

2005-08-09 18:33:05 | 「サ行」の作家
笹本稜平 著  光文社 1,785+tax

南極、ブリザード、黄金、ナチス、CIA、ときて美女、ツインオッター(航空機)の日本人パイロットなるキーワードが並ぶともうこれは胸がわくわくの「冒険小説」のお膳立てが出来上がろうというもの。
特にくそ暑い真夏に氷点下60度なんていう世界が舞台だとぐ~んと涼しくなる。以前マクリーンの『北極戦線』を読んだのも真夏だったなどと、どうでもいいことを思い出してしまう。
今回は対極の南極が舞台。南極を舞台にして「ナチスの金塊」伝説をめぐる血なまぐさい争奪戦が繰り広げられるのであるが、一見荒唐無稽な物語に真実味を与える手立て、お膳立てをこの作者笹本稜平はしっかりと整えている。
元ジャンボジェットの副操縦士であるアキラの一途な生き方に共感するとともに脇役陣が多種多彩で魅力的である。特にアイスマンと呼ばれる日系二世の強烈な生き様と個性が周囲を圧倒し、唯一アイスマンを制御できるのがその姪っ子である女医だったりする。
敵側の悪党もこれまた役者ぞろい。「冒険小説」に欠かせない自然の猛威と強大な敵がてんこもり状態で物語は思わぬ方向に突き進む。
綿密な歴史の虚構を組み立てながらナチスの亡霊と南米の独裁国家の謀略と欲望が交錯する、久々に堪能した本格的冒険小説の傑作である。