min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

マイケル・デイ著『奪還』

2012-06-06 00:01:57 | 「タ行」の作家
マイケル・デイ著『奪還』ヴォレッジブックス 2005.4.20 第1刷 


おススメ度:★★★★★

本のカバーの紹介文から引用

200X年、インドネシアに生まれた新政府の野心的な独裁者による、中国系インドネシア人の弾圧がはじまった。彼らを強制収容所送りにする背景には暗号名「インデラ」と呼ばれる、世界を戦争に巻き込みかねない鉱物の採掘が隠されていた。やがて、その採掘の謎をめぐり、息子と父の命を手にひとりの女性が、いやおうなく戦いの場に巻き込まれていった。英国、米国、中国など国際間の勢力争いは、情報合戦の域を超え、やがて環境兵器使用の危険領域へと足を踏み入れていく…津波をも兵器に変える現代戦の恐るべき姿を描いた、迫真のエンバイロメント・サスペンス。



この紹介文を読んでも中々手に取らない内容かも知れない。自分がそうであった。何度かブ○○クオフで手に取りながらも購入しなかった。なぜならインドネシア政府の陰謀?女性がその陰謀を阻止?環境兵器?著者は英国の現役高校教師?、といった?マークがいくつも頭をよぎって読む意欲を阻害したからだ。
数か月後再び本作を手にした時、環境兵器が台風ばかりか「人工津波」を兵器として使用という所に“ひっかかり”を覚えた。
あの3.11東日本大震災災の後であったらこの作品は世に出ていなかったかも知れない。
本作の中で起こされる「人工津波」は多少発生状況は違うものの、原爆を使用して地層をスライド(まさに本作の原題が“SLIDE”なのだ)させて想定外の大きなツナミを発生させるもの。
実は3.11の大津波は日本に対する某勢力による「人工津波」テロだと執拗に訴える人々がいるということを僕は知っている。その真偽は別として、本編で米国の西海岸を大津波が襲うシーンはあまりにも我々がTV画像で見せられた三陸海岸の大惨事シーンとかぶってくる。3.11の前だったら全然現実味のない描写だろうが今読むと震えが来るほどリアルだ。

話が「人工地震」にばかり行ってしまったが、本作は冒険小説としての要素が満載で、この方面からの読者の期待をけっして裏切ることはない極上のエンタメ小説であることを記しておきたい。



邦画『外事警察 その男に騙されるな』

2012-06-05 08:57:17 | 映画・DVD
邦画『外事警察 その男に騙されるな』を封切日の6月2日に観た。この映画はご存知の通り2年前にNHKドラマとして全6話放映された『外字警察』の劇場版であるが、内容はその後の物語となっており、ストーリーも別である。
詳しい本作の内容は公式サイトを参照願いたい。
http://gaiji-movie.jp/

NHKドラマの内容があまりに秀逸であったため、どうしても本編劇場版をドラマと比較して同質のレベルで撮ってくれたかどうか懸念した。だがそれは杞憂に終わった。
監督(テレビでは演出か)は変わったものの、プロデューサー、脚本、音楽、そして何よりも出演者の大半がNHKドラマよりそっくり移動したから、映画の雰囲気は大きく変容していない。
照明の素晴らしさもあるし今回はハンディ・カメラを多用しており、その微妙に揺れる画面が臨場感を倍増させると共に全編に渡り緊迫感をかもし出している。
本編の原作は読んでいないが、原案者の麻生幾氏よりも脚本の古沢良太氏の辣腕のおかげで原作を凌駕しているのではなかろうか。少なくとも過去の事例では原作よりも脚本の効果が現れていたものと確信する。
主演の渡部篤郎の“公安の魔物”と呼ばれる住本の演技は益々その凄みを増し、特に重要な鍵を握るターゲットの妻を協力者として嵌めていくくだりは見るものをしてゾクリとさせる。一介の交通警官から抜擢された松沢陽菜(尾野真知子演じる)の成長振りに注目。確実に住本に対抗しうる人材になるであろう。
其の他に注目すべき演技者は在日二世で核爆弾技術を北に持ち込んだ学者役を演じた田中泯。この方はもともと世界的に有名な現代舞踏家なのだが、山田洋二監督『たそがれ清兵衛』でみせた怪演を覚えておられる方も多いと思う。今回も狂気を漂わせる学者を演じる演技には脱帽する。この先も是非映画界での活躍を期待する。
また外事警察の協力者になるよう嵌められた悲劇のヒロイン役を演じた真木よう子の鬼気迫る演技にも拍手を送りたい。
あと脇を固める俳優陣に言及したい。ドラマの時からその際立った個性を各々発揮してくれた遠藤憲一、石橋凌、余貴美子の存在は欠かせないものとなった。
常々、邦画は時代劇でなければ日本人の存在感がないのではないか!?と思い続けていたのであるが、本当に久しぶりに存在感のある現代劇の登場となった気がする。
最後に本編における韓国ユニットも秀逸であった。韓国俳優も良い味を出してくれたし、アクション場面での銃器に関しても日本のチャチなオモチャと違ってリアリティー感を充分に与えてくれた。

以下本編とは直接関係のない蛇足であるが、日本の諜報機関について述べておきたい。

そもそも我が国には「外事警察」という警察組織は存在しない、いや存在しないと思われている。現公安警察の内部に似たような組織名を見出すことが出来るが、原案者の麻生幾氏が描く「外事警察」はあくまでも架空の存在である。
映画の冒頭で登場した住本は“内閣情報調査室”の所属となっていたが、この組織は実在する。あと小説世界でよく取り上げられた諜報機関としては自衛隊の陸幕二部別班がある。この組織は現在名前を変えて存在しているようだ。
かっては第二次世界大戦前及び戦中の諜報機関はいろいろあったようだ。最も有名であったのが「陸軍中野学校」だろう。戦時中中国大陸で暗躍した諜報機関で有名なのは“児玉機関”。その他中野学校出身者でいくつかの諜報機関を中国以外でも作ったようだ。
現在の我が国では米国のCIAや英国のMI6、イスラエルのモサドなどに匹敵する諜報組織はない。
日本がよくぞ世界のエスピオナージ戦の中で生きてこられたのが不思議だ!と思わざるを得ない。こんな寂しい状況では先の中国大使館の一等書記官を捕まえ損なってスパイよばわりするくらいか。真のスパイは現政権の中にいるような気がするのは私ひとりであろうか?