min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

大沢在昌著『天使の爪 上・下』

2011-07-22 21:16:49 | 「ア行」の作家
大沢在昌著『天使の爪 上・下』 小学館 2003.8.10 第1刷 各1,700円+tax

オススメ度:★★★★☆

この「天使の爪」は「天使の牙」の続編である。したがって本編を読む前に「天使の牙」を読む必要がある。
が、そもそもストーリーの内容が人間の脳移植手術という未だ人類が達成したことのない外科手術を扱っており、「そんなバカなことが有り得るものか!」という固定観念の呪縛に捕らわれている読者にはお勧め出来ない作品である。
前作「天使の牙」において、自ら望んだわけではない脳移植手術を受けて生まれ変わった神埼アスカは、一連の事件が解決された後上司であった芦田警視正のはからいで警視庁から麻薬取締官へと転職した。
それはアスカが望んだことで、警官時代同様犯罪者、犯罪組織を許せないからであった。今は亡き柴田はつみの美貌と美しいボディを得たアスカではあったが、心は警官時代の明日香と変わりなかった。
それ故に事件は解決したものの仁王との関係においては身体と心のアンバランスに悩み始め、手術前に交わした婚約はその後進展をみなかった。

さて物語であるが、かってアスカの手術を執刀したポーランド系米国人医師コワルスキーは、アスカへの手術の不当性を問われた。結果、米国から逃れロシアへと渡った。
ロシアで彼を庇護したのは旧KGBの流れを汲む諜報機関SVRであった。SVRのソコロフ大佐は自らの野望を隠し、コワルスキー博士に新たな脳移植手術を行わせた。
それは狼と呼ばれた伝説の暗殺者の脳を元特殊部隊で犯罪者でもある朝鮮系ロシア人の身体に移植したのであった。
結果は、とほうもない“怪物”が生まれたと言ってもよい。双方とも実の妹に対する拘った感情を持っており、その拘りが後に想像も出来ないほどの結果をもたらすとは誰も思わなかった。

その“狼”と熊と呼ばれる相棒がSVRのソコロフ大佐の命で日本へ潜入する。目的はロシア政府の手によって偽造されたニセ米ドル一千万ドルを強奪したチェチェンマフィアから奪い返すことであった。
だが、ソコロフの真の目的は他にあり、また“狼”たちの目的も違った。それは自らの妹と思い込むアスカをロシアの地へ連れ戻すことにあった。
事態は日本警察の公安、米国のCIAをも巻き込み、「脳移植手術」を巡る一大諜報戦が繰り広げられることになる。
アスカはかっての恋人、仁王こと古芳刑事と共に、生死を賭けた戦いに挑むのであった。果たしてアスカは生き延びることが出来るのか?そして二人の愛の行方は?
敵が強大であればあるほど、アスカの戦いが鮮明となる。やはり敵はこうであらねばならないことを証明した作品。
ここんところふがいない?敵にイラついていたが、ちょっと年代を遡れば大沢さん!ちゃんとやれるではありませんか!?

さて、本編は再読であった。今回もまた内容の詳細はほとんど記憶しておらず、新鮮な気持ちで楽しんだことを記しておく。

蛇足ながら、最近「鮫シリーズ」の最新刊が出たようであるが、一体どのような作品となったのか興味津々・・・・。



志水辰夫著『引かれ者でござい』

2011-07-08 00:25:00 | 「サ行」の作家
志水辰夫著『引かれ者でござい』 新潮社 2010.8.20 第1刷 各1,600円+tax

オススメ度:★★★★☆

副題に「蓬莱屋帳外控」とある。実は、本書『引かれ者でござい』の前に『つばくろ越え』というのがあって、こちらが蓬莱屋帳外控の第一作らしい。
いずれにせよシミタツ氏(志水辰夫氏の通称)が『青に候』以来の時代小説分野へ挑戦する新シリーズである。
「蓬莱屋」というのは通常の飛脚業とは違い、ひとりの飛脚が届け先へ最後まで一人で届ける、といういわゆる“通し飛脚”というもので、何故かいわく因縁のあるカネやモノを運ぶケースが多い。
この蓬莱屋に雇われた幾人かの飛脚の目を通した江戸時代の人々、社会、事件を描く物語で、サムライ社会とは離れた種々の階層、職業を持つ庶民の物語はなかなか新鮮で興味深い。
何よりシミタツという稀代のハードボイルド作家(あ、この方をこういうジャンルにひとくくりは禁物なのだが)による江戸時代に生きる人々が、どうしても僕には“シミタツ”調の語り口になるのが面白い。
主人公が現代であれ近代であれ、生き方が不器用なのである。特に女性に対する主人公の不器用さには苦笑せざるを得ない。