min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

ケン・フォレット著『ハンマー・オブ・エデン』

2009-01-30 08:44:27 | 「ハ行」の作家
ケン・フォレット著『ハンマー・オブ・エデン』小学館 2000.12.1 1,800円+tax

オススメ度★★★☆☆

次にフォレットの作品を読むとすれば、傑作といわれる『大聖堂』にしようとかねてから思っていたのであるが、たまたま図書館で本作が目に留まったので読んでみた。
本の帯に著者自ら「これが私の最高傑作」という言葉がのっており、これはかなり面白いのでは?!と期待した。しかし、読み進むにつれ「これがマジに最高傑作かい?」と先の著者の言葉を大いに疑い始めた。
地質探査用の車載型バイブレータを使って地震を発生させ、それを武器にカルフォルニア州知事を脅す、という発想は悪くないかも知れない。
実行グループが自分達の“コミューン”をダム建設による水没から守ろうというのだが、そのグループなるものが1960年代後半に登場したヒッピーの生き残りという設定にはがっかりさせられた。
ヒッピーたちが絶滅したとは断定できないが、いかにもアナクロニズムではないか。

更にコミューンを率いるリーダー、プリーストという男がまたなんとも魅力がないのだ。若い頃はけちな犯罪者であったのが何とか25年間このコミューンを維持してこれたのはそれなりの指導力があったのかも知れないが、いわゆる悪役でもヒーローになりうる要素をほとんど持ち合わせていない。
対するFBI捜査官は白人の父とベトナム人の母より生まれたジュディ・マドックスという混血の美人が登場する。
彼女はある意味では非常に自立した芯の強い女性なのであるが、別の見方をすると非常に出世欲が強い“鼻持ちならない”女に見えてしまう。
正邪双方どちらかにでも肩入れできる人物造形がなされているのであればまだ救われるのであるが、どちらも大して魅力あるキャラではないのが辛い。
新書版サイズの厚みが5cmにもならなんとする大作なのだが、後半になってやっと何とか読み応えが出てくる程度で、これは本当にケン・フォレットが書いた小説であろうか?と思える出来具合だ。
かれの作品は多くを読んだわけではないが、読んだ作品はいずれも第二次世界大戦下の小説であった。
現代を舞台にするとこうも作品の感想が違ってくるのは何故だろう。ケン・フォレットといえども常に傑作を生み出すわけではなさそうだ。
後半部分の盛り上がりがなければオススメ度は★2つとなるところであった。

樋口明雄著『約束の地』

2009-01-26 07:37:15 | 「ハ行」の作家
樋口明雄著『約束の地』光文社 2008.11.25 2,300円+tax

オススメ度★★★★☆

環境省に勤めてから地方を数年ごとに転勤してきた七倉航は、おそらくこれが最後のドサ周りとなるであろう山梨県の「環境省 野生鳥獣保全管理センター」へ向かった。
初日の着任挨拶をしに来たのであるが、総務の係官は七倉が赴く「同センター八ヶ岳支所」はいわば“独立愚連隊”のような所で、七倉のような2年くらいの腰掛のつもりで支所長を務めようとする者には無理だろうと決め付けた。
支所で待ち受けた部下たちは確かに一筋縄ではいかない面々であった。
この地域は近年再開発が進むにつれ、山に棲む鳥獣たち、中でもツキノワグマやイノシシといった大型獣が餌を求めて里に降りてくるケースが目立つようになってきた。
彼らの被害を受けた農家の多くはこれらを「害獣」とみなし駆除=殺害を望んでいた。一方、ヒステリックに動物愛護を叫ぶ環境保護団体もいて、七倉たちが所属する八ヶ岳支所はその間に挟まれ苦闘していた。
そしてとうとう人間を餌として襲い始めた大型野生動物が出現した。更に部下の不慮の死とその闇に潜む不可解な“死”のいくつかが浮上してきた。
ストーリーは急転直下怒涛のクライマックスを迎えることに。ひとりの公務員が、ごく普通の男が、自らの人生をかけて、いかに自然と野生動物が共に生きていけるを模索する物語である。
著者の樋口明雄氏は「頭弾」や「狼は瞑らない」に代表される冒険小説の旗手であったが、近年自らが山梨県の南アルプス山麓に住み着いた模様で、しっかりと現地に根付いた、現実感溢れる作品を生み出している。
本編はより一層生活感あふれる描写が随所にみられ、生活者としての著者の視点が好ましい。


西木正明著『極楽谷に死す』

2009-01-21 09:46:15 | 「ナ行」の作家
西木正明著『極楽谷に死す』講談社 2008.3.25 1,600円+tax

オススメ度★★★☆☆

70年代の学生運動の盛り上がりと連合赤軍事件に代表されるその終焉。学生時代に何らかのかたちで学生運動にかかわった者たちの四半世紀を経た後の姿を、ひとりの売れない物書き(複数の設定となっている)の目を通しほろ苦いテイストで描く6つの短編からなる。
「夜、ダウ船で」
「極楽谷に死す」
「紅の海」
「ボスボラス海峡」
「ノースショアの風」
「風の王国」
以上の6編。
「夜、・・・」と「紅・・・」は政治色がない。
いわゆる全共闘世代と呼ばれるオヤジたちが読めばそれなりの“感慨”を持って読めるであろうが、それ以降の世代の人々が読むにはどうなんだろう?という疑問符を抱きながら読んだ。
この作者には短編が似合わない。長編としてリライトしてほしいと感じたのは「夜、ダウ船で」。「風の王国」のテーマは面白いのだが既に五木裕之や他の作家が描いている。
「夜、ダウ船で」は明治時代にアフリカのザンジバル島まで流れていった“からゆきさん”の末裔の物語で、これは歴史的にも事実であることから是非長編として描いてほしい世界だ。

和田竜著『忍びの国』

2009-01-19 08:01:54 | 時代小説
和田竜著『忍びの国』新潮社 2008.5.30 1,500円+tax

オススメ度★★★★☆

昨年随分と話題になった『のぼうの城』を世間の風評は当てにならないとは思いつつも読もうと決心し、図書簡に予約を申し込んだのが昨年8月の末。
その時の予約者数が250人を越えていた。
「こりゃ、相当待たされるなぁ」と覚悟し、「その前にもう一作あるみたい」
と同時に予約したのが本書であった。これも作者の人気を反映してか先日まで実に半年弱待たされた。
まぁそんなわけで特に本作に期待をせずに読み始めたのだが、やはりなんか読みづらい。なんでだろ?とおもうのだが理由はわからない。単にこの作者の書き方になじまないせいだろうと思いつつ前半を読んだわけだが、理由がおぼろげに分かったのは半分ほど読んでからだ。
「こりゃ一体誰が主人公なんじゃ?」という単純な理由でくすぶって読んでいたのだが、徐々に“無門”という伊賀の下忍が主人公であることに気がついた時は物語が大きく動き出した。

本編の物語の主題は織田信長勢の伊賀征伐なのである。だが、信長自身が攻めたわけではなく、彼の次男坊信雄が大将として攻め入った。
実はこの伊賀征伐そのものが伊賀の謀略であった、という意外な側面を持つのであるがそのわけは是非本編を読んで知っていただきたい。
さて、主人公と思しき“無門”なのであるが、こいつがなかなか面白い。
恐らく伊賀忍者の最高峰の技を持ち、カネにめっぽう執着する。権力に対しては徹底的に反抗するのだが、西国で盗むように連れて来た女には頭があがらない、という情けない一面も持つ。
だが、一朝事が起きてからの無門はまるでハードボイルドのスターに変身する。
というか、この時代小説そのものが「時代小説」という名を借りたハードボイルド小説と言っても良い。丁々発止の謀略戦と大活劇がてんこ盛りなのだ。
『のぼうの城』が俄然楽しみになってきた。


山本一力著『かんじき飛脚』

2009-01-13 08:38:51 | 時代小説
山本一力著『かんじき飛脚』新潮文庫 2008.10.1 743円+tax

オススメ度★★★★☆

加賀百万石、前田家の江戸詰藩主に対し幕府の家老から内室同伴で宴に出るよう指示がなされた。これは極めて異例の招待であり、内室が病に臥せっているのを察知した上でこのことを理由に前田藩を意のままにしようという幕府の企みであろうことが考えられた。
同時期、同じ招待が土佐藩にもなされていることを知った前田藩江戸詰め用人は懇意にしている土佐藩の用」人に探りをいれたところ土佐藩も同じく江戸の内室が病に罹っていることを知る。
幕府によるあからさまな外様大名に対する牽制策であった。
唯一の解決策は加賀藩内で作られている秘中の秘である万能薬“密丸”を早急に取り寄せることであった。
ここで登場するのが加賀の“三度飛脚”である。この名の由来は月に3度加賀と江戸の間約145里(約570km)を夏場では5日、冬場で7日間で行き来することからきている。
“三度飛脚”は加賀藩国許と加賀藩江戸上屋敷を結ぶ公用文書や小包を専門に運ぶ特急便であり、夏場には加賀の氷室から“献上氷”を運ぶ任務が与えられている。
今回、加賀藩存亡にかかわる窮地を救うのは江戸班8名加賀班8名計16名の飛脚の足にかかっていた。
ただでさえ難儀を極める道中は折悪しくも厳冬期を向かえ、親知らず子知らずの大波や碓氷峠の大雪が彼らの行く手を阻もうとする。
一方この飛脚の運行を阻止すべく幕府のお庭番が暗躍し彼ら飛脚の内部に密通者を放ち(数年がかり)、そして直接阻止行動に出るべくお庭番の手練れの者たちが放たれた。
果たして三度飛脚たちは無事に特効薬“密丸”を江戸まで運ぶことができるのであろうか!というとてもスリリングでスピーディな物語が展開される。
特に最後のクライマックスである冬の山中の死闘は飛脚たち、暗殺者どもに更に猟師たちが加わり読むものを興奮させる。
本編は山本一力さんの作品系列(主に江戸人情を描く)とは趣を異にしているが、飛脚たちの“おとこ気”を描く一方、個々に登場する人物を丁寧に描くことによって単なる活劇に留まらず作品に厚みを増しており、さすが山本さん!とその手腕に感服した。

『ボーン・レガシ-(上)』

2009-01-05 11:30:10 | 「ラ行」の作家
『ボーン・レガシ-(上)』ロバート・ラドラム/原案 エリック・ヴァン・ラストベーダー/著
ゴマ文庫 2009.1.10 667円+tax
オススメ度★★☆☆☆

ラドラム原案「暗殺者」の続編と称するこのシリーズ。映画のノベライズ本とは違う(まだこのストーリーの映画は公開されていない)のであるが、テイストとしてはやはりその類か?と思わざるを得ない。
逐一どこが、とは指摘しないが全体のトーンがやはり違う。これは単に訳者の相違とかではない。
そして公開されたマット・デイモンのボーンシリーズとはまたストーリーが違うのではないだろうか。何故なら妻となったマリーが生きており子供がふたりいるのであるから。
ボーンが現在米国で言語学の教授として生活しているところから本編はスタートする。
話の筋を明かすわけにはいかないし、また(上)だけではまるで筋道が見えてこないのであるが、これはまさに映画を前提にして描かれている、と言っても過言ではない。
はて、このまま(中)及び(下)に進もうかやめようか思案中。



佐々木譲著『ワシントン封印工作』

2009-01-03 22:47:08 | 「サ行」の作家
佐々木譲著『ワシントン封印工作』講談社 1997.12.25 1.900+tax

オススメ度★★★☆☆

同作家の第二次大戦三部作『ベルリン飛行指令』『エトロフ発緊急電』『ストックホルムの密使』の他に本作があることはずっと認識はしていたが読み残していた作品。
中古品を105円で見つけたので読んでみた。ただ単に安かったからという理由ではなく、先月67年前の真珠湾攻撃に改めて興味を抱いたからである。

1941年の米国首都ワシントンDC。日本大使館の野村大使はハル国務長官との戦争開始直前の息詰まる交渉を事態の変遷と共に続けていた。
物語の展開はこの交渉事の推移を語りながらも両陣営代表配下の男女の物語を中心に進行してゆく。ひとりはハル国務長官の部下ホルブルックという官僚と彼に見出され、日本大使館にタイピストとして送りこまれた美しき日米ハーフのミミ。
もうひとりは日本大使館に臨時雇いで入った滞米5年になる精神科医の卵、留学生の幹夫。
ホルブルックは色仕掛けでミミにスパイ活動をさせるのであるが、恋の鞘当として幹夫の存在がだんだん浮上する。

今では既に大方知れ渡っている事実であるが、小説上でもこの時期米国は日本の暗号文をほぼ解読しており、したがって日本の奇襲攻撃は事前に察知していたことが綴られる。
「最初の一発は日本に撃たせろ」というルーズベルト大統領の思惑についても語られている。もちろん12月7日から8日にかけての現地日本大使館員たちの不手際についても。
そのほか英国首相チャーチルの思惑、この時期のソ連の思惑をも織り交ぜながら当時の世界列強がいかにしたたかに自国の利益を追求していたかにも触れている。
こうした世界情勢を冷徹に回顧すると日本がいかに情報戦に稚拙であったことかが浮かび上がってくる。
特に米国の諜報網は抜きん出ており、もはや日本は戦う前に既に敗れていたと言わざるを得ない。
戦後マッカーサーが日本を12才の子供に例えてその精神性の未発達を冷笑したが、残念ながら米国にとって日本という国はその程度にあしらえる対象であった。
そして現在はどうであろうか?という思いをめぐらせる時、暗澹たる気持ちになるのは僕だけではあるまい。

本編の最大の見所は最後にミミがとった行動であろう。これは半分米国人の血が流れていなければ決して在り得ないものと思われる。時間の余裕がある方にはおすすめできる作品。