min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

青に候

2007-04-22 12:59:36 | 時代小説
志水辰夫著『青に候』 新潮社 2007.2.25 1700円+tax

志水辰夫氏は齢70に近くなり唐突ともいえるほど初期作品の世界に近いものを、「時代小説」のカタチをとって舞い戻ってきた。
氏はどちらかと言えば他の作家よりも遅く作家としてのスタートを切ったのではなかろうか。
何が氏をして原点回帰へのベクトルに向かわしたのかは知らない。が、私個人の最近の傾向から察するに特に奇妙な心境でもないような気がする。
人間だれしも齢を重ねるにつれ自らの出発点に一度戻りたくなるものだから。

本編の主人公神山佐平は他の初期作品でたびたび登場したと記憶する主人公にその姿が重なる。とにかく生き様がヘタ、他人との接し方に不器用な青年なのである。特に愛しく思う女性に対する接し方をみると歯がゆさを通り過ぎ、いらいら感を覚え、更には怒りほど覚えるほどぎこちないのだ。
そして愚直とも言える正義感、いらぬ他人への気遣い、義理ともいえない義理感、無意味な負い目、そんな多くの「こだわり」を抱えた多感な青年である。
だがひとたび不正への怒りを覚えたり、愛するひとが窮地に陥ったりすると我が身の不利、危険を顧みることなく敢然と突き進むのである。
相手がどんなに強くとも、事態がどんなに深刻であろうと自らが定めたルールに従って死をもいとわず立ち向かう様は正にハードボイルドの主人公といえそうだ。

時は幕末、黒船がちらほら来航し江戸幕府も俄然動揺し始めた時代。封建制度の端っこにかろうじて生き延びてきた播州の小藩にあるきっかけで仕官できた佐平であるが、同じ時期に仕官した縫之助とともに殿の交代によりあっさりと首にされてしまう。
先に首切られた縫之助の後、佐平もまた脱藩するようなかたちで江戸へ戻ってきた。彼はやむをえない理由で小藩の武士を斬り殺してしまったのだ。
物語は縫之助が江戸に戻ったものの行方不明となっており、その理由がどうも殿の死をめぐる陰謀らしきものをネタにこの小藩の江戸屋敷を脅していたせいらしいことが分かってくる。
しつように小藩の手のものに追われながら事の真相を探るサスペンス仕立てでストーリーは展開される。

普通の時代小説であれば諸悪の根源を突き止めそれを懲らしめめでたしめでたし、と終わるところであろうが、今や熟達した作家志水辰夫氏はそんな通りいっぺんのストーリーでは終わらせない。
確かに神山佐平の一途な生き方に照準を合わせて書いてはいるのであるが、ここに登場する播州の小藩、山代家の目付け役の六郎太の存在を忘れるわけにはいかない。
この六郎太の体制を影で支える苦しみ、現実から逃避しない、出来ない境遇で苦悩しながらも己の役目を全うする姿が時代を超えて共感できるのだ。
神山佐平に向かい「おまえが羨ましい!」と叫ぶ六郎太にも作者の万感の思いが込められている気がした。
それは江戸時代の封建国家体制の下懸命に己が藩、家族、郎党を守ろうとする姿が、時空を超えて同じような閉塞感に覆われた現代を生き抜くサラリーマンの姿に重なる気がするのだ。
「青に候」。題名の通り時代を変えていくのは青き青年である。その未来がよりよい時代であるのかより暗い時代であるのかは不明であるが・・・・


マングースの尻尾

2007-04-08 00:38:52 | 「サ行」の作家
笹本稜平著『マングースの尻尾』 徳間書店 2006.2.28 1600+tax

主人公戸崎は日本の商社のパリ駐在員であった。銅の先物買いで失敗し(過去これに似た某商社マンがいたなぁ)その穴埋めにリスキーなデリバティブに手を出したのが完全に墓穴を掘る結果となった。
商社に起訴され5年の実刑をくらってパリの刑務所に入った戸崎は3年目に仮釈放された。
そんな彼に救いの手を差しのべたのは欧州随一の武器の目利きとして名高いポランスキーという武器商人であった。ポランスキーの狙いは戸崎の商社マン時代に培った中東・アフリカ方面への武器販売ルートであった。
かくしてふたりは申し分ないパートナーとして相互に信頼する関係を築いてきた。そんなある日ポランスキーがノドを掻き切られて殺害された。
戸崎がやったと思わせるタレこみを信じたポランスキーのひとり娘ジャンヌは戸崎への復讐のため深夜彼の寝室に寝込みを襲ったのだが・・・

戸崎は事件の背後に“マングース”と呼ばれる男の存在を嗅ぎ取った。このマングースとは一部闇の世界で知られるDGSE(フランス対外保安総局)の中東:北アフリカ部長の要職につきながら裏では「死の商人」としてのビジネスを手広く行っている危険かつ狡猾な男であった。
マングースの存在を知った戸崎はかって傭兵であった親友ピガールの助力を得るためマルセイユへ出向こうとする。だが彼への疑念を晴らしたポランスキーの娘ジャンヌも強引に同行すると主張するのであった。
かくしてマングースへの復讐心に燃える戸崎、ジャンヌそしてピガールは宿敵マングースを倒すために立ち上がったのであるが、敵はより巧妙に先手を打って彼らの前に立ちはだかる。
何と言っても国家の諜報機関の幹部としての立場がマングースの強みであり、ジリジリと3人を追い詰めるのであるが復習の機会は思わぬ形で訪れることになる。

「太平洋の薔薇」や「極点飛行」などの長編冒険小説と比べると確かに骨太な作品ではないと感じるかも知れない。だが小粒ではあるが時折ピリッとスパイスが効いた作品もお気軽に読めてよいのではなかろうか。
本編は短編連作のかたちを取っているがその効果が良いほうに出たか裏目に出たかは読者それぞれの嗜好によって違いがあるかも知れない。僕個人の感想としては、たまにはいいんでは、といった感想である。

「フォックスストーン」の主人公桧垣耀二が凄腕の傭兵として登場してきたのにはビックリした。「フォックスストーン」は当ブログでも取り上げているので興味がある方はのぞいてみて下さい。
http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/3153554895e3a10ae754cde18b83827c

また「極点飛行」もご参考までに紹介させていただきますね。
http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/c7ba5a6487fafec7c8fd9caa8b62dbf2