min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

垣根涼介著『張り込み姫 君たちに明日はない3』

2010-06-20 12:10:49 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『張り込み姫 君たちに明日はない3』 2010.1.15 初版 1,500円
+tax
オススメ度:★★★★☆

「君たちに明日はない」シリーズも本作で3作目となった。当初、この作家にしてはジャンルが今までとはあまりにも違うので同作家のファンのひとりとして戸惑いを覚えたものだ。
だが、予想に反して第一作、第二作とも非常に面白かった。
ひとえに垣根さんの着眼点が独創的であるとともに、人間観察眼が極めて秀逸なことによるものと確信する次第。
また、世の中が“大リストラ時代”の真只中にあることが、このシリーズが時代を先取りしてヒットした理由であろう。

さて、今回真介が担当したリストラ対象となった業界は、英会話学校、旅行会社、自動車業界、そして出版社。
確か垣根さんは作家になる以前は旅行業界に就職したはず。なかなかこの業界を知悉していることが伺われる。
更に自動車業界、なかでも修理関係においては著者自身をも物語で登場させるくらい入れ込んだ作品であり、シリーズを通しても一番ほろりとさせる内容となっていることを特筆したい。
世の中の不況は自民党から民主党に移っても相変わらず続き、この先景気が上向きになる気配をみせないまま、同シリーズの真介がまだまだ活躍するであろうことを想像すると、何か複雑な心境になってしまう。
同シリーズは極めて面白いのでこの先も続いてほしいのだが、こんな物語が「過去の思い出」となる日が早く来てほしいものだ。


垣根涼介著『ボーダー ヒートアイランド4』

2010-06-13 15:02:08 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『ボーダー ヒートアイランド4』 2010.4.24 初版 1,700円

オススメ度:★★★☆☆

かって、渋谷でストリート・ファイトのイベントを行い、渋谷を中心とするちょっとワルな若者たちを熱狂させたグループ“雅”はある事件を境にグループを解散した。
グループを率いた若きリーダー、アキとNO.2のカオルの姿も忽然と渋谷の街から消えた。

アキはその後本作のシリーズでその活躍を知ることが出来たのだが、カオルは一体どうしているのであろうか?と、多くの読者が思っていたことであろう。
そのカオルは何と東大生になっていた・・・・
カオルはある種退屈で孤独な学生生活を送っていたのであるが、ある筋から今、“雅”をかたるグループが再び渋谷の街でストリート・ファイトの興行を行っていることを知る。
友人のつてでチケットを入手したカオルはニセ“雅”が主催するイベント会場に足を踏み入れて愕然とする。
ニセモノのアキとカオルがイベントを取り仕切り、会場に集まった若者達に向かって当時のヤクザを潰したのは我々“雅”であったことをとくとくと自慢しているのだった。
これは決して看過できる事態ではないと思ったカオルは何とか音信不通のアキに知らせねばと行動を開始する。

今回はさほど派手なアクションがあるわけでもなく、正直シリーズ第一作『ヒートアイランド』、『ギャングスター・レッスン』そして『サウダージ』を読んでいなければ物語の展開がピンとこないだろう。
それと特筆すべきことは、今回、あの垣根涼介のデビュー作となった『午前三時のルースター』の主役、長瀬慎一郎がカオルの同級生として登場すること。
もちろん、「裏金強奪」グループのプロ犯罪者である柿沢と桃井も登場し、かっての“雅”の中心メンバーたちも登場する。
いわば“オールスター・キャスト”のファンサービスの様相を呈しているわけだ。
したがって、本シリーズを読みついできた読者にはたまらない魅力となるが、そうでなく初めてこのシリーズに触れる読者にはさっぱりワケがわからないかもしれない。
垣根涼介の大ファンである私にとっては、かのデビュー作『午前三時のルースター』を思い起こし(かなり詳細に著者はこの作品内容を本作で描いている)、この作家がたどった作品群のことへも思いをめぐらすことが出来て幸せであった。
本「ヒートアイランド」シリーズは垣根作品の中でも徹底的にエンタメ性を狙ったものであり、軽く読み流して楽しめるシリーズである。
続編もあることを期待している。


ロバート・ホワイティング著『東京アンダーワールド』

2010-06-05 23:06:48 | ノンフィクション
ロバート・ホワイティング著『東京アンダーワールド』角川文庫 2004.4.25 初版 838円+tax

本書は2000年6月に角川より刊行された単行本を文庫化したもの。

オススメ度:★★★☆☆
ニューヨークのイースト・ハーレムで生まれ育ったイタリア系移民の子ニコラ・ザベッティは第二次大戦終結後に米軍GIのひとりとして東京へ進駐した。
退役後一旦生まれ故郷のNYに戻ったものの、東京で一発当ててみようと舞い戻って来た。
彼は東京にてありとあらゆる“ボロイ儲け商売”に手を染める。
その大半は米軍の闇物資の横流しであった。ユニークな商売として当時力道山の登場で日本国民を狂喜乱舞させたプロレスでの八百長外人レスラーになったりもした。
そんな彼が目を付けたのがイタリア系だけあって、本格的本場の味を持つピッザ・レストランの開業であった。
このレストランは大当たりし、当時の東京に居た外国人のたまり場となり、更に政界、闇社会、高級娼婦などありとあらゆる人々がやってくるようになる。
ニコラはまたたくまに財力と人脈を築き上げ、いつのまにか「東京のマフィア・ボス」と呼ばれるようになる。
その後日本人と4度の結婚をし、事業の上でも繁盛と破綻を繰り返す波乱万丈の人生を送ることになる。
戦後の在日アメリカ人の中でも際立った破天荒な人物の目を通し、戦後日本の混乱期からバブル経済までの日本を特異な切り口で著者は描いてみせる。

実在した有名な人物が実名で登場して、今まで我々には思いもつかなかった事実をバンバン抉り出してくれる。
例えば著者と親交が深かった力道山の死をめぐる事実関係を初め、日本のフィクサーと言われた児玉誉士夫や小佐野賢二、住吉連合会の町井、ロッキードのコーチャン、田中角栄、金丸信などなど戦後から現代に至るまでの闇社会、政財界の隠されたエピソードが満載なのである。

著者ロバート・ホワイティング氏は米国の大学から上智大学に編入し、政治学を専攻。卒業後日本にとどまり出版社に勤務。後に『菊とバット』や『和をもって日本となす』を上梓し、日米比較文化の視点から書かれた両書は日米双方から注目を浴びたとのこと。
本作は日本人ではまず書くことがない世界を描いておりなかなか興味深い内容である。