min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

垣根涼介著『月は怒らない』

2012-03-26 22:58:37 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『月は怒らない』集英社 2011.6.10 第1刷 

おススメ度:★★☆☆☆

東京近郊、武蔵野のある町の市役所戸籍係りに勤務する平凡な職員三谷恭子を巡る3人の男たちが織り成す奇妙な四角関係を描く。
三谷恭子は通りすがりに誰もが振り返るような美人ではない。作品中で彼女の容姿を記述された部分によれば、「肌が驚くほど白く、小振りな頭部の女だった。そしてその頭部より、顔の横幅が明らかに小さい。顔の輪郭は下にいくに従って細くなる。鋭角的な顎に向かってすっきりと絞り込まれている。鼻筋の通った鼻梁の下に、ほどよく引き締まった薄い唇があった。」とある。
これだけではちょっと普通の娘よりも見栄えが良い、という程度で誰でも惹かれるという容姿ではない。服装も常に地味な白いブラウスに紺色のツーピースを着ておりけっして他人の目を引くこともない。
だが、彼女と目を合わせた時、ある種の男たちは忘れることが出来ない“磁力”をもって引き付けられるのだ。
その独りが梶原。ヤクザ組織に属さないものの、裏金融の取立て代行を生業にしているチンピラ風の三十男。そして三流大学で学業よりもナンパにあけくれる大学2年の弘樹。もうひとりが恭子の勤める市役所の向かいにある交番務めの巡査和田。3人に共通するものは一見何も見当たらない。この中で和田だけが既婚者で他の二人は独身である。
3人ともひょんな事から彼女と出会い、たちまち彼女の“磁力”に吸い込まれる。恭子は独身の二人とは肉体関係を持つが妻帯者の和田とは自宅でお話し相手になるだけだ。
彼女の持論は「私は、誰の人生も背負い込むつもりはないし、誰かに背負い込んでもらいたいとも思わない」というもので、自分の過去も家族構成も一切明かそうとしない。寝ても何の代償も求めようとしないのだ。男たちにとってはミステリアスな存在のまま事態は進行する。
やがて、ある時期を堺に恭子が決定的な心境の変化によって付き合う相手を一人に絞り込む。当然彼女を取り巻く四角関係が一挙に崩れ、不測の事態へ突入する。果たしてどのような結末が四人を待っているのか?といったもの。

登場人物は上記の4人の他に、恭子が毎週土曜日に公園の池端で出会うホームレスの老人(話す内容から元大学教授と思われる)がいる。彼との間に交わされる会話はある種の“禅問答”のようなもので、他の三人とは決して交わされることのない内容のもので、恭子の内的精神世界を読者に披瀝するのだが、どこか机上の空論に聞こえる。
こんな精神世界を有する女子がいるとはとうてい思われないのだ。

とまれ、垣根氏の“新境地”を切り開く一冊と謳い文句があるものの、「ワイルドソウル」や「ヒートアイランド」に代表される冒険小説的要素からはかなり隔たった“変形?恋愛小説”とも言える代物で、この路線の延長は個人的に望まない。
垣根氏ひとりの“空想世界のこねくりまわし”であって、次なる“作風”への過渡的段階作品なのであろうが、この路線?はあまり期待出来ないと思われる。



ダイアナ・ガバルドン著『時の旅人 クレア Ⅰ&Ⅱ』

2012-03-22 23:32:36 | 「カ行」の作家
ダイアナ・ガバルドン著『時の旅人 クレア Ⅰ&Ⅱ』ヴィレッジブックス 2003.1.20 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

正直に告白すると、単に他に読むべき本が何もなく時間つぶしにでもなればとブックオフで手にした本であった。
読み始めてしばらくして退屈な物語の出だし部分と主人公クレアが何とも安易なタイムスリップの方法で200年前のスコットランドに迷い込み、そこでハイランダーの逞しくも美しい赤毛の青年ジェイミーと出会う。
ある理由から彼と結婚するはめになり、彼女の現代への帰還はどうなるのか?などなど第一部を読む限り「ありゃま、これってアメリカの女流作家が暇にあかせて書くハーレクイーンのロマンチック本か!?と思ったものであった。

が、しかしである、第一部後半から第二部にかけて読み進めるうちにどんどんとこの物語に引き込まれて行く自分がいた。
何たってヒロインのクレアの“男気”に魅了され、結婚相手となるジェイミーの純な愛に感動するのだ。
200年前のスコットランド及びイングランドとの確執をしっかりとした時代考証を踏んで描き、けっして派手なアクション活劇はないものの手に汗握る場面が登場し読者をハラハラッドキドキさせる。

クレアは第二次大戦中、英国軍の従軍看護婦で戦場に勤務したことから、かなりの現代医療知識を有している。このことが200年前のスコットランドで生き抜く術の一助となるのだが、本作を読みながら日本のマンガ後にTVドラマ化された「仁―JIN」の英国版みたい、と思ったりもした。
やたら遠い過去でないところが両者共通しているのかもしれない。

第二部のラストはちょっと感動的で、第二作以降も「アウトランダー」シリーズとして米国始め主要各国で出版されているらしい。
機会があったらこの先の物語も読んでみたい。


ジェフリーディーヴァー著・『ロードサイド・クロス』

2012-03-09 22:00:43 | 「タ行」の作家
ジェフリーディーヴァー著・『ロードサイド・クロス』文藝春秋 2010.10.30 第1刷 

おススメ度:★★★★☆

本編の主人公はあのキャサリン・ダンス。リンカーン・ライムシリーズのひとつ「ウオッチ・メーカー」においてゲスト捜査官として登場し、彼女の特殊技能“キネシクス”(一種の尋問テクニックで対象者のボディ・ランゲイジを読み取り瞬時にウソを発見する捜査法)を駆使し容疑者、証言者のウソを次々に暴いては捜査を進める専門家。
そんな彼女の本拠地であるカルフォルニア州モンテレー半島で発生した連続殺人事件を追う内容。
事件というのがこれまた妙なモノで、高校生男子が運転する車が事故を起こし同乗していた3人の女子高生のうち2人が死亡した。
この事件がある人物のブログにアップされ、運転していた男子高校生の個人情報がたちまち暴露され、ブログが炎上。いわゆる“ネット”いじめ”の状況が雪だるま式に拡大されていく。
そんな中、ブログのスレッドで男子高校生を叩いた女子高生が襲われ一命をとりとめた。彼女の証言により犯人はネットで叩かれた男子高校生トラヴィスであると証言。この犯行前には近くの路上に十字架とバラの花びらが置かれ事故・事件が起きる日時が記されていた。すわ!男子高生の予告殺人の反撃か!?とブログ上で大騒ぎとなる。
そのトラヴィスが姿を消し、十字架が置かれては次々と事件が発生しモンテレー半島に住む住人を震いあがらせた。

しかし、物語はこのトラヴィスの犯行を未然に防ぎ彼を逮捕する、といった単純なものであるわけがない。何故なら著者がJ.ディーヴァーであるからだ。
絶対に真犯人は別におり、その“どんでん返し”があることを我々読者は知っている。我々の想像する真犯人と著者が用意する真犯人の落差が大きければ大きいほど楽しいのだ。

ゲームおたくの連続殺人劇を本編の縦糸とするならば、ダンスの捜査を妨害しようとするカルフォルニア州司法局検事ハーパーの横槍が物語の横糸として織りなされる。その横槍はなんとダンスの母親を“安楽死犯”として検挙しようというものであった。
更にダンスの良き相棒でもある保安官事務所のマイケル・オニールとの「恋の行方」に立ちはだかるように登場するジョン・ボーリングというカ大教授の登場。この“恋の糸”がダンスに絡まって物語りは進行する。

さて、本編中で起こる“ネットいじめ”の状況はインターネットが全世界に普及された今、洋の東西を問わず陰湿、陰惨に繰り広げられる。SNSヤブログで不用意に発言する恐ろしさが胸に沁みる。
またゲーマーオタクと称されるゲーム中毒患者を全世界中に生み出した要因の大半が日本のゲームソフトにあり、アニメの浸透ぶりには呆れるばかりだ。