min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

山本一力著『くじら組』

2009-04-25 16:01:48 | 時代小説
山本一力著『くじら組』 文藝春秋 2009.9.3第1刷 1,700円+tax

オススメ度★★☆☆☆

アマゾンの紹介文では
[土佐・津呂浦の鯨組がアメリカの蒸気船をいち早く発見。伝え聞いた幕閣から黒船対策のため召し出しの声がかかるが、その前に、鯨組には仲間を屠った巨大マッコウクジラ“黒船”との死闘が待っていた。江戸時代の勇壮な鯨漁師たちの心意気を今に伝える傑作時代小説]

とあるが、何が傑作時代劇なもんか!
この作家にも駄作というべきものがあるんだ、ということが分かった。
まず本作品のテーマが分からない。
勇壮なくじら漁を描くのかと思いきや、ペリーの黒船を見かけたことによる幕府隠密と土佐藩の確執を描くのに重点が置かれ、テーマが絞り切れていないが故に話が何か中途半端で終わり方もすっきりとしない。

くじら取りを描いた傑作時代劇といえば、紀州太地を舞台にしたC.W.ニコルの「勇魚」や津本陽の「深重の海」を想起させるのだが、両作品に比べるとえらく見劣りがする。
とにかくまともに「くじら漁」の場面が無いに等しいのだ。巨大マッコウクジラとの対決!というが読んでいて肩すかしをくらわせられた思いが強い。

池上 永一著『テンペスト(上・下)』

2009-04-22 10:44:15 | 時代小説
池上 永一著『テンペスト(上・下)』 角川書店 2008.8.31第1刷 各1,600円+tax

オススメ度★★☆☆☆

琉球王国の末期を舞台に、滅び行く清国と幕末の薩摩藩の二重支配の中で何とか生き延びようとする王朝。その真っ只中に飛び込んでいく一人の美少女。
初代尚氏国王の末裔であることを隠し、更に女性であることをも隠して超難関な菅史登用試験を突破。正統王族の復権を望む父親の意思により、琉球王国の政権中枢に入り込んだ孫寧温の、波乱万丈の生き様を描く大河ドラマである。
この小説を読み始めて多くの読者が気がついたことと思うのだが、これは琉球版「蒼穹の昴」ではないか!?と。
あるいは、僕は仔細はよく判らないのだが、男装の麗人が、あるいは女装の美少年がふんだんに登場する「ベルサイユの薔薇」琉球版ではないか?
はたまた、この物語は宝塚歌劇団の演目にふさわしいのでは!?などなど余計なことをつい考え出してしまう内容なのだ。

ストーリーの詳細紹介は割愛するとして、この作品は恐らく賛否両論が極端に分かれるものと思われる。
物語を構成する上で、普通は“あり得ない!”と思われる設定がいくつか出てくる。例えば代表的な例として、主人公の少女が女性と男性の一人二役をこなす、という点。
これは作者がどんなにヘリクツをこねても無理があり、読者を納得させるものではない。
この小説のコンセプトがどこにあるのか知る上で、重要な手掛かりとなるのでは?と思われることがある。それは表紙の「みかえし部分」にあった。
僕なんか表紙のみかえし部分に描かれた“画”なるものを見つけた時に、口をあんぐりと空けてしまったのだが、どうもこりゃいつもの読書とは勝手が違うぞい!とちょっと引いてしまったことを正直に申し上げる。

ま、骨太な歴史小説を期待するむきにははなはだ戸惑う展開となろうが、世にも珍しい琉球王国を舞台にした絢爛豪華な御伽噺?を単純に楽しむというのであれば、それはそれ、楽しいではござらんか。

和田 竜著『のぼうの城』

2009-04-13 07:00:48 | 時代小説
和田 竜著『のぼうの城』 小学館 2007.12.3第1刷1,500円+tax

オススメ度★★★☆☆

この本を札幌図書館に予約したのが昨年8月の下旬であった。あれから約7ヶ月半ぶりにやっと自分の番になり読むことが出来た。これほど長きに渡り待たねばならないほど本編は世間で人気があるらしい。

一読してみて確かに時代小説としては風変わりというか、ある種斬新な嗜好で書かれていると思われるし、読んでいて楽しい作品である。
天下人、秀吉の懐刀である石田三成率いる2万強の軍勢を向うに回し、その10分の一にも満たない軍勢で忍城を守る坂東武者の戦いの様は胸のすく一面がある。
この忍城が実在の城であったとは意外であるが、城代の“のぼう様”こと成田長親を初め登場する家臣の尋常ならざるキャラを見せ付けられると、一体どこまで史実に忠実に描かれているのであろうか、いやいや、こんなキャラが揃いも揃っていた訳が無いと、途中で突っ込みを入れながら読んだものだ。
のぼう様が本当のところバカなのか利口なのか自分には最後の最後まで判断がつかなかった・・・・

これほどまでに平成の今にヒットした要因とは一体何であろうか?と最後までそんなことを考えながら読み終えた。


白川 道著『海は涸いていた』

2009-04-13 06:56:39 | 「サ行」の作家
白川 道著『海は涸いていた』 新潮社 1996.1.20第1刷1,700円+tax

オススメ度★★☆☆☆

う~~ん、かなり出遅れて読んだ作品か。発行当時(もう、13年も前か!)に読んでいればそれなりの評価をしたかも知れないのだが、今読むと、プロットの構成、人物造形の仕方、どれを取っても旧態依然とした印象を持ってしまい、更に悪いことに別にネタバレされていたわけじゃないけども容易に結末が分かってしまうという、何とも間が悪い読書となってしまった。
いわゆる“ハードボイルド的ハードボイルド”を目指した作品であるのが痛いほど伝わってくるのであるが、もうこの手の作品には食傷してしまい、残念ではあるが他の人にお勧めできる心境にはならない。
改めて読む時機を逸してしまった自分が悪いことを最後に記しておく。

乾 浩著『北夷の海』

2009-04-04 10:34:21 | 時代小説
乾 浩著『北夷の海』 新人物往来社 2002.1.31第1刷1,900円+tax

オススメ度★★★☆☆

なかなかマニアックな内容の本だ。北海道がまだ蝦夷地と呼ばれた時代の、北海道そのものではなく更に北に位置する樺太の探検と、そして東に位置する択捉島の探検を扱った書物なのだから。
本書は次の三篇から構成されている。

1. 北夷の海
2. 東韃靼への海路
3. 遥かなる氷雪の島

1.2.にて樺太そして今のロシアと中国の国境、黒竜江の付近への探検が描かれ、3.にて択捉島への航路の開拓と島の探検が描かれている。
1.2.での主人公は歴史的にも有名な間宮林蔵と、いまひとりやはり実在した人物松田伝十郎で、3.の択捉探検は近藤重蔵と高田屋嘉兵衛が主人公だ。
全編を通じ一番印象に残ったのは間宮林蔵である。身分の低い武士(出自は百姓であった)で、幕府の命令とは言いながら、北方にかける情熱はなみなみならぬものが伺われ、特に探検行を通じたアイヌの人々との交情は大和民族としての誇りとも言える希少な人物であった。
間宮林蔵のアイヌ民族への理解、敬愛の情は本編ばかりではなく他の歴史作品でも重ね重ね取り上げられているが、もしこれが彼の本当の姿であったならば嬉しい限りである。
また、樺太西海岸を北に向け遡行するくだりの情景描写は過去ほとんど描かれたことがないだけに極めて興味深いものがあった。

作者、乾 浩氏は本書を上梓した当時は現役の教職につかれており、『北夷の海』で「第25回歴史文学賞」を受賞されたとあるが、どうも万人の耳目を集める賞ではないようで、世間に広く読まれる機会がないであろうことが想像され残念である。