min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

北沢秋著『哄う合戦屋』

2011-05-31 01:03:04 | 「カ行」の作家
北沢秋著『哄う合戦屋』双葉社 2009.10.11 第1刷 1,400円+tax

オススメ度:★★★★☆

武田晴信(武田信玄)と長尾景虎(上杉謙信)の両雄が激突する数年前の中信濃。この山深い地は地方豪族が群雄割拠し、互いの領地を虎視眈々と狙っていた。
その豪族の一員である遠藤義弘の領地にとある日、一人の浪人が従者らしき家来をひとりだけ連れ現れた。
その名を石堂一徹といい、戦国の世を軍師として渡り歩いてきた豪の者であった。風貌はこの時代の日本人には稀な六尺をゆうに超える背丈で肩幅も広く、顔には十数創の刀傷があり、周囲を威圧する雰囲気を持っていた。
そんな彼がひばりの巣を覗いているのを見かけた遠藤吉弘の愛娘若菜は臆することなく一徹に声をかけ、父の居城に招いたのであった。
石堂一徹は二千五百石ほどしかないこの弱小な豪族の城主、遠藤吉弘の内政の手腕と領民全てに愛される性格が大いに気に入り、彼の食客になることに同意したのであった。
石堂一徹の名声はこの山間の地にまで響き渡り、彼の進言を取り入れた遠藤勢はまたたくまに近隣の豪族を打ち負かし、一挙に石高も二万四千石までなってしまった。
当然、素性の知れない流れ者がどんなに戦功をたてようが、既存の家臣たちの反発を受けるし、あくまでも無禄のままで良いと言い張る一徹の真意を遠藤義弘すら推し量ることが出来ず、政権そのものが乗っ取られるのではないか?と疑心暗鬼に陥る。
石堂一徹はこの地方豪族、田舎侍たちの想像をはるかに凌駕する軍事的才能を持ち合わせたのだが、このこと自体が実は彼の不幸の源であった。
一徹はとにかく寡黙で陰鬱とした風貌を持つ故に誰も彼に打ち解けて話しかけることはなかった。唯一若菜姫を除いて。
若菜だけは一徹の秘められた側面(優れた美意識、アートの理解者)を知り、いつしか深く敬愛の情を抱き始める。もちろん一徹のほうも頑なな心を姫だけには次第に開き始める。
いよいよ武田の軍勢が押し寄せる、という段で本編のクライマックスとなる。果たして遠藤勢は押し寄せる武田軍に対し、どのように対峙するのか?はたまた一徹と若菜の許されぬ愛の結末は?
本作の題名「哄う合戦屋」であるが、どうみても哄笑するとは思われない合戦屋一徹がどのような事態で哄うのか!?と思いきや、なんと奇抜なエンディングでその答えが読者を待っている。
歴史上実在した人物でもないし、果たしてこのような人物がかの戦国時代に存在したとも思われないのであるが、一個の男としての強烈な生き様は鮮烈そのものである。



東直己著『誉れあれ』

2011-05-24 22:19:57 | 「ア行」の作家
東直己著『誉れあれ』 双葉社 2009.8.23 第1刷 

オススメ度:★★☆☆☆

著者初の“本格的警察小説”!と名をうっての作品であるが、端から大して期待はしていなかった。
東先生といえば、道警(北海道警察)への偏執的?とも言える憎悪に満ち溢れた作品を過去にいくつか読まされていたこと、そして道警以外の警察組織、ましてや首都東京の警視庁、警察庁などの物語を書けるわけもないことから、再び道警ネタだろうと思ったがまさしくそうでありました。
舞台背景は先の道警により組織的裏金問題、警察幹部による覚醒剤・拳銃密売問題で全国的に話題となった数年後の札幌方面中央署。道警中央署の組織的腐敗は収まるどころか更なる腐敗の深化をみせていた。
そこに同警察署の“エダ”と呼ばれる札幌方面中央署南支署が立ちはだかる、という警察内部、それもごくごく身内同士の内ゲバが描かれるわけだ。

この南支署管内の南7条交番に配属された新米巡査梅津康晴が本作の主人公であるらしいのだが、彼の親父もまた制服警官であったことから亡き親父を目標に警察官人生を歩もうという一種の“成長譚”という構図が見える。
だが、物語が進行していく過程で、主役の力点が南支署の先輩刑事であったりまた支署長に置かれたりして、誰が一体主人公であるのかブレを生じてしまう。
要は腐敗不正の警察組織に対する“善き警察”の存在とその戦いを描きたかったようであるが、主人公そのもののブレがテーマ性を弱める結果となってしまった気がする。
同じ北海道出身の作家佐々木譲が創出する重みと深みがある警察小説とはちょっと比べようがない。
新たな試みは良い事ではあるが、やはりこの分野では旗色が悪い気がする。



大沢在昌著『欧亜純白ユーラシアホワイト 上・下』

2011-05-21 20:43:17 | 「ア行」の作家








大沢在昌著『欧亜純白ユーラシアホワイト 上・下』 集英社 2009.11.20 第1刷 各1,700円+tax

オススメ度:★★★☆☆

大沢在昌の上下巻合わせて約1,100ページに及ぶ長編を読むのは何か久しぶりのような気がする。
タイトルの通り麻薬、なかでも最強の麻薬といわれるヘロインを扱った内容で、そのスケールもユーラシア大陸と名を打つほど大きい。
物語はホワイトタイガーと称する個人ないしは組織が、合衆国への既存の麻薬供給ルートを破壊し、世界中のヘロインの供給を一手に独占しようという企みがなされる。
そのわずかな情報を敏感に察知した米国のDEAの捜査官、日本の麻取、中国刑事が三つ巴となり、ホワイトタイガーの真相を掴み、その企みを阻止しようというもの。
大沢作品ではかって薬物を扱ったものはけっこうあるし、黒社会を描けば独自の世界を持つ同氏であるが、今回は先にも述べたとおりスケールが違う。
黒社会も中国のそれから始まり、ロシアンマフィア、シチリアマフィア、そして日本最大の暴力団をも登場させる。これに米国のCIAが色濃く関与し、上巻を読んでいて、これは一体物語の収集をどのように図るのか心配になるほど。
正直物語の現実性に関してはリアル感が乏しいのであるが、作者の着想は面白い。
数々の謎解きに向けて下巻を大いに期待するのであるが、あれれ?と収束してしまうのが残念。何故かを書くとネタバレになるので書けないが、この他にもかなりご都合主義的展開が目立つので★の数は3つにしておく。

ドン・ウィンズロウ著『サトリ 上・下』

2011-05-10 23:47:26 | 「ア行」の作家





ドン・ウィンズロウ著『サトリ 上・下』 早川書房 2011.3.20 第1刷 各1,600円+tax

オススメ度:★★★★★

1979年にトレヴェニアンが書いた『シブミ』の前日譚ということで、かねてより話題となった作品がとうとうウィンズロウの手によって上梓された。
『シブミ』が世に出た当時、同書を熱狂的に読んだというウィンズロウであるが(同じ頃舞台となった東京の端っこで僕も読んで狂喜したのだが)、作品の出来をみると彼でしかなしえない快挙であると言っても過言ではない。
原作の『シブミ』の中ではさらりと触れられたCIAとの“取引”がかくも極上の冒険小説となって誕生しようとは夢にも思わなかった。
著者が東洋及び東洋思想にも深い知識と経験を持ち、原作『シブミ』への理解度が100%を超え、ここに新たなるニコライ・ヘルの伝説が生まれたと言える。
作品を読んでみると、やはりトレヴェニアンとは違った表現法であることは否めないが、プロットの内容、展開のはやさ、発想の豊かさにおいては原作者トレヴェニアンを凌駕したのではないだろうか。
『シブミ』におけるニコライ・ヘルの人物造形がどのようであったか、もう30年近く前の感想を思い出すのは無理といえるが、作者がドン・ウィンズロウということが頭から離れることも無理で、ヘルが中国の雲南省の山奥に隠遁するシーンでは図らずも『仏陀の鏡への道』で登場するニール・ケアリーを想起してしまった。
そのほかにも『犬の力』におけるアイルランド系青年と美人娼婦との逃亡劇もオーバー・ラップして、やはりウィンズロウ風味付けのニコライ・ヘルが形成されたと言えるのではなかろうか。
本作を読む限り続編がある余地を残すエンディングとなっており、著者本人もあとがきでその可能性を示唆しているようなので、これは続編を楽しみにして良いのではなかろうか。